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異能探偵社の新参者  作者: nasa*
9/25

第九頁 【閑話休題 ①】

 かんわ-きゅうだい【閑話休題】

①それはさておき。②話を本筋に戻す。


―――――――――――――――――――――――――――――――――






「はい、到着♪」


 異能を解除し満面の笑みを浮かべる牡丹の横で青い顔で跪く桃矢。


「まだ五分もたってないから。早く言って用事すませな」


「ひ、ひゃい……あ、ありがひょうごじゃいました」

 吐き気を堪えながら頭を下げる。

 牡丹が届けたのは当麻医院の敷地の中庭のような場所で牡丹に気づいた病室の子供が手をふっていた。


「牡丹お姉ちゃん~」

「久しぶりだね」

 笑顔で手をふりかえす。

「人気なんですね……」

「そりゃあ牡丹ちゃん美人だから」

 桃矢の疑問は、わきから現れた男に答えられた。あいもかわらず白衣姿に面倒臭そうな表情をしている。

 その男を見て、牡丹が露骨に嫌な顔をする。

「いやぁ、そこの餓鬼をよんでまさか牡丹が来てくれるとは思わなかったよ」

「うせろ、変人!さらっと呼び捨てにしやがって」

 即座に変化させた鉤爪の足が当麻の顔面を蹴った。

「あいかわらずつれないなぁ」

 頭から大量に出血しながら平然と煙草をふかす。あわてて桃矢が牡丹をとめに入った。

「ち、ちょっと!縁さんなにやってんですか!」

「心配するな。こいつはこれぐらいじゃ死なない。もう一発やらせろ」

「駄目ですって!」

 さらに蹴ろうとする牡丹を羽交い締めにする。

「んだよ、蹴られてるのに無抵抗に全てを受け止める俺ってのもいいと思ったのに」

「そういう変人プレイは彼女とでもやったら?」

 牡丹がそう言うと当麻は頬を緩めた。

「ハニーにそんなことさせられるわけないじゃないかぁ♪」

「気色悪いからその裏声やめろ」

 あわあわする桃矢の腕を振りほどくと牡丹は両腕を再び黒い翼に変化させた。

「じゃあ、桃矢。くれぐれも気をつけろ」

 心配しか残らない言葉を言い残して牡丹は飛んでいってしまった。

「残念だ……」

 惜しそうに牡丹を見送る当麻だったがすぐに桃矢に向き直った。


「まぁ、とりあえず中はいって」

 中庭から当麻の個室らしい簡素な部屋に案内された。


「で、話なんだけど……」

「すいませんでした!あ、あの器物破損の件ですよね。それなら壊した費用は探偵社で負担するらしいので請求書を、あ。あと、壊した張本人は少し遅れるみたいで」

 必死にまくしたてるが、別段怒っているわけでもないらしい。

「まぁ、探偵社にはもちつもたれつだからそこはいいよ。基本俺のおたくへの依頼料はタダだから」

「へ、なんで」

「なんでって、お前らみたいな年中喧嘩してる馬鹿の怪我、俺の他に誰が見てくれるってんだ」

 不敵な笑みに思わずのけぞる。

「こっちもお前らには安い治療費できっちり直してんだから感謝してほしいね」

「なるほど……」

 しばしの沈黙。


「あの、じゃあ今日はなんで――」

 もし、今のがいつもなら別に桃矢が呼び出される必要性が特にない。

 当麻は桃矢の質問に答えずおもむろに白衣の内ポケットから煙草を出して吸い始めた。

「あの、ここ病院……」

「ここは俺のプライベートルームだ」

「……」

 しばらくすっていたのだが唐突に口を開いた。


「桃矢っつったけ?」

「はい」

「バカヒトから聞いた。【帝都伍区】で使用人やってたんだって?」

「えぇ、兄と一緒に……」

 怪訝な顔をする桃矢とちがって当麻はなんの表情もみせずに煙を吐き出した。



                         ■□



「桃矢くんの事?」


 紅魅が聞き返した。

「なんでそんなこと調べてんの?」

「桃矢くん。恐がりだよね」

 紅魅の質問に答えず鷹人が呟いた。

「そうね。それに心配性だよね。反応オーバーだし。それに、初日から潤ちゃんに思いっきり制裁受けてたね」

「あぁ……」

 潤は思い出すように笑みを浮かべた。

「前の新人来た時は目の前で寸止めされて、そこでその子辞めたわねぇ」

「そのせいで大地さんに怒られたけどね」

 そこまで思い出して笑みを消し去る。

「でも桃矢くん凄いよね。潤ちゃんの攻撃避けてたし」

 紅魅の言葉に潤はそっぽむいた。

「へぇ、そんな事あったんだ」

 現場にいなかった徹が聞き返した。余計に気を悪くしたのか潤は更にふてくされる。

「手加減してたからね!」

 黙ってそれらの話しを聞いていた鷹人はぽつりと呟いた。


「最初からちょっと気にはなってたんだけどね……」



                         ■□



「鷹人から聞いたよ。前は伍区(ごく)のお屋敷で下働きしてたんだって?」

「えぇ、そこで火事があって……。ホント鷹人さんに拾ってもらえなかったら、今頃餓死してます」

 煙草を吸い始めて無言で桃矢の話を聞いていただった当麻が口を開いた。

「なんて名前の家?」

「えっと…………小鳥遊(たかなし)家です。けど」


「君が使用人として働いていたと言う【帝都伍区(ていとごく)】のお屋敷。小鳥遊(たかなし)家の事だね」

「え、ええ」

 頷く桃矢の姿を確認すると当麻はおもむろに腰を上げた。


「小鳥遊家は二週間程前。原因不明の火災にあった。火災で屋敷は全焼。軍警は放火を疑ったがそれらしい証言も見つからず、厨房の被害が大きかった事から調理中の不注意の火災ということになったらしい」

「なんですか、探偵みたいですよ」

 歩きながら話す当麻に笑って言う桃矢だが、気にせず当麻は続ける。

「……まぁ、小鳥遊家は影でマフィアとつるんでるって噂もあったから、今軍警では組織に逆らって家族、使用人ごと処刑されたって話しで進んでるらしい」


「そして、少し前から俺がここでかくまってる男。【帝都陸区(ていとろくく)】のなんでもない路地裏で全身大火傷で発見された。軍警の八千草ちゃんが”潜って”引き出した情報によると、そいつは【亡霊(レムレース)】の構成員で、弟のために組織から逃げようとして、その途中で襲われたらしい。そいつが襲われたのはここに襲撃者が来た4日前」


「つまり、【帝都七区(ていとななく)】でお前が探偵社に拾われた3日前」

 青い顔でうつむく桃矢の表情を一瞥しただけで当麻はまた滔々と続けた。

「さて、ここからが大事なとこだ」

「ま、まだなんかあるんですか?」

 顔を上げた桃矢はこちらを見る当麻の表情を見て固まった。

 いつもの気怠気で覇気のない表情とは違う。――鋭く冷たい表情。


「さっき話した小鳥遊家の火災だけど。 事故が起きたのは夕方。ちょうど夕食の支度をしている時間帯だ。当然なにか不始末があって、火事に繋がったとしてもなんら不思議じゃない。 不思議なのは、その火災で生存者がいないことだ(・・・・・・・・・・)

「……」

「どんな火災でも。むしろ屋敷がデカい程、火も煙も満盈するにはそれ相応の時間がかかる。使用人でも一人や二人逃げ延びても不思議じゃない。にもかかわらず生存者はいなかった。いや、いないと思われていた(・・・・・・・・・・)。 君が現れるまではね」


「でもそこで問題になるのは、小鳥遊家に住み込みで働いている使用人名簿だ」


「軍警の伝手があるから、その名簿を手に入れたんだが、その中に冬月桃矢という(・・・・・・・)名前は無い(・・・・・)


「……」


「そして、大火傷の男を襲った犯人の容姿は君と共通点がありすぎる」

 そこまで言った当麻はグンと桃矢に顔を近づけた。




「君は何者なんだ」

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