第十頁 【閑話休題 ②】
「君は何者なんだ」
しばらくの沈黙。そして桃矢が口を開く。
「お、俺は……」
しかし、桃矢の言葉は激しく開いた扉の音で遮られた。
入って来たのは明るい茶髪の小柄な少女だった。しかし、ナース服を着ている事からどうやら看護師であるようだ。
「せ、先生!」
「七瀬。ノックぐらいしなさい」
先ほどまでの暗い表情が消えいつもの気怠気な雰囲気で返す。
「っていうか、煙草!一応病院なんですよ!?」
「ここは俺のプライベートルームだ」
「またそんな……」
七瀬と呼ばれた少女は呆れたように言うがすぐにハッと我に帰った。
「じゃないです!あの人が……」
ただ事ではない。
当麻もそれが分かったのかすぐさま七瀬を連れて部屋を飛び出した。
「あの」
「君はそこにいろ!」
桃矢もおもわず追いかけようとしたが当麻にそこにいろと叫ばれ廊下に一人立ち止まった。
「俺は……」
■□
「悠馬さん!」
七瀬が叫んだ相手はあの全身大火傷を負った男性だ。
数日前に意識が戻って容態も安定していたはずなのだが……。
「さっき見回りに来たら様子が変で」
今は悠馬は目を見開き喉をかきむしっている。呼吸が出来ないのだ。
「悠馬さん!」
当麻が呼びかけるがなす術無く、
「数……馬……」
切れ切れに呟いた言葉を最後にとうとう意識が消え、心拍も停止してしまった。
「…………なんで、だって意識も回復して、容態だってよくなってたのに……」
取り乱す七瀬の頭をなでながら当麻はぽつりと呟いた。
「……【生殺与奪】」
「え?」
聞き返した七瀬はガラス窓に当たる水に気づいて外を見た。
「雨…………?」
さきほどまで明るかったのに今は暗い雲が増え、ポツポツと雨が降り出して窓ガラスを濡らしている。
それを見た当麻の顔色が変わった。
「せ、先生?」
病室を飛び出していく当麻を慌てて七瀬が追った。
「先生!!」
――勘違いであってくれよ
■□
一人で廊下にたたずんでいた桃矢。
「…………」
「俺は…………」
「俺は、ってなんだよ」
「!!」
誰もいないはずの廊下で不意に声をかけられ桃矢は身体を震わせた。
単に驚いただけではない。
その声に聞き覚えがあったからだ。
震える身体で振り返るとそこには群青色の髪のガタイの良い男がたっていた。
「…………よぉ、桃矢」
「伊田隈さん……」
そう言いつつ桃矢は離れるように数歩後ずさった。
「なんで、ここに……」
「……なんで?」
男――伊田隈路佑は不思議そうに首を傾げた。
「……迎えに来た」
「迎え……」
「そうだ。【亡霊】の仲間として」




