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消えたカラアゲの行方  作者: みりん
新しい『わたし』
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いけめんお父様

 遂に、寝返りが出来るようになった!


お母様とお姉様と、メイドさんたちが見守るなか体をぷるぷるさせながら寝返りに成功して、キャッキャと喜んで足をバタバタさせた。

見ていてくれたみんなも大喜びだった。

そのうえ皆泣いていてびっくりした。

大袈裟過ぎやしないか。


びっくりしていたらメイドの一人が慌ただしく部屋を出ていった。



「良かった、良かったわ!!アルフィっ!頑張ったわねぇっ、アルフィ。嗚呼!本当に良かったわ、ありがとう、アルフィ!」


「よかったっ!うれしい!アルフィが、アルフィが!わたし、みたよ!ちゃんと、みたよ!ね、おかあさまっ!」


お母様とまた少し言葉が(私の名前を呼ぶのが)上手くなったお姉様がそう言って抱き合っていて、その後ろでもう一人のメイドさんがハンカチで目と鼻を押さえながら、頷いている。


ここの人は泣きながら鼻水を垂らしても、それすら美しく見えるのかと感動しつつ呆気にとられていると、物凄い勢いで扉が開いた。



―――バンッッ!!



「「「「「っ!?」」」」」



室内にいた全員が盛大に驚いて硬直して、私以外が錆びれたロボットみたいにギギキッと扉のほうを見た。



……それも美しかったのは言うまでもない。





「あ、あああ、アルフィが、アルフィが寝返りをしたというのは本当かっ!!!!!?」



入ってきたイケメン男性は息を切らせながらそう言った。



「あ、あなた…」

「お、おとうさま…び、びっくり、し、した…」



お、お父様!?



これが、目がはっきり見えるようになってから初めての対面でなかったならまだ良かったかもしれない。


私は驚いて驚いて、更に驚いて……それはもう、どっきどきで………




「ぅ、うぅ……ぅぁ…ぁ、」



私の様子にお母様が気づいて慌てて駆け寄ってきてくれたが、手遅れだった…。



「うぅ、うぇっ、ひくっ、…うぅ、びゃぁぁぁぁぁぁっ!!」



これまた情けない声で、泣いてしまうのを、我慢できなかった。



















 手遅れだとは言ったものの、私が泣いたのは扉の音に驚いたことが大元の原因だったためお母様に抱っこされて背中をポン、ポン、とリズムよくたたかれている内にすぐに落ち着いた。


「あぅ!きゃっ、きゃぁ!う!」


すっかり落ち着いて、もう大丈夫だという意味を込めて声を出してみる。

お母様の負担にならない程度に足もぱたぱたさせてみた。


「あら、アルフィ?」


お母様が嬉しそうにリズムにのって優しく揺らしてくれる。


そうして楽しんでいる内に部屋の空気が柔らかくなってきたので私は行動してみることにした。



私たちと距離をおいて申し訳なさそうに、悲しそうにしているお父様が気になってしかたがないのだ。

自分のせいだと思っているのだろう。

そうではないことを伝えたかった。




「あう!う、ぬ、んむぅ!」


お父様がいるほうへ腕を伸ばしてみる。

バランスが崩れかけたのをすぐにお母様が抱え直してくれた。



「あうぁー、」

「アルフィ、おとうさまに?」


お姉様が一番に気づいてくれた。

お姉様の言葉にお父様の肩がびくりと揺れた。


「え、い、良いのか?ちか、近づいても?」


聞きながらそろそろと近寄ってくる。

何だかお父様は、前の父に似ている。

勿論顔ではない。




…ごめん、お父さん

でもお父さん大好きだよ





手を伸ばせば届く距離まで来たお父様に手を伸ばすと小さな私の手がお父様に触れた。


「あ、アルフィ?」


まだ不安そうなお父様。

困った私は取り敢えず笑ってみた。



「っ!アルフィ!嗚呼、私のアルフィ!」


「「「「あっ!」」」」

「あっ!あなたっ!危ないじゃない!!」


がばっと、それこそ奪い取るようにお母様の腕の中から私を抱き上げた。

周りの皆が慌て、お姉様が青くなり、お母様が避難の声をあげる。

私は何となく予想できていたので今度は泣かずにすんだ。


しまった、という表現で私を見るお父様。



その髪はお母様やお姉様とは違い影でも光の下でも金髪で瞳は翠だ。

顔の凹凸が今まで見た誰(皆、女性)よりもはっきりしていて鼻が高い。

今はふにゃっとした表情の彼だがきっと引き締めると威厳の有る表情になるだろう。

男性なのに肌も綺麗だ。

おそらく百七十は有るだろう長身のお母様よりも更に背が高く、いつもと違う角度からお母様が見られるのがいい。

体は筋肉質で堅くて、体格が結構いい方だった父よりもがっしりしている。

いきなり抱き上げられても安定間があってお母様のときとは違う意味で安心していられた。



でもひとつ気になるのはその顔の右頬から喉仏にかけて残る大きな傷痕。

傷痕の周りが少し引き攣っているのが、もう治っているのだろうが痛そうで思わずそこに触れた。


「なんだ?この傷が気になるのか?」


いつの間にか落ち着きを取り戻したお父様が優しい声で聞いてくる。


その声に思わず言ってしまった。




「いー、いーぃ?」





お父様はその翠の目を大きく見開いた。


宝石が落ちてきそうだった。


つい、みとれてしまう。




「おとうさま?どうしたの?」


下の方から聞こえたお姉様の声に我にかえったお父様はそれでも目を見開いたままだ。


「アルフィは、アルフィは言葉が分かるのか?今……」



「私も聞いたわ。初めて聞いたわ!」



お母様も声をあげる。




私は嬉しくなった。



私はきっと他人ひとよりもずっと成長が遅いから皆が大袈裟に喜んだのだ。


あの木が見える窓の外からは、枯れ葉が揺れる木が見える。


そろそろ一年になると思う。


今までなかなか寝返りが出来ずに寝転んだままだった私はとても心配されていたのだろう。

そのせいか分からないが離乳食を口にしても少ししたら苦しくなって吐き出してしまって、お乳が止まり始めたお母様が悲しそうに泣いているのも見た。

この世界では赤ん坊がお乳を必要とする期間が前世よりずっと短いらしい。

最近は母乳だけでなく特別に用意してくれたのだろうミルクを哺乳瓶で飲んでいる。



だからこそ出来ることもあるよ、と伝えたくなった。




私もちゃんと成長しているよ

まだ口がちゃんと動かないけれど、一人のときにいっぱい練習したんだよ


ずっと呼びたくて、呼びたくて呼びたくて呼びたかったんだよ





「……、とー、とぉ」



「ぁ、…かぁーか、」



「ねね、…ねぇーね!」












――ぽた、ぽた








ほっぺたが濡れた。


お父様の涙。


お父様がゆっくり姿勢を低くしてお母様とお姉様にも私が見えるようにしてくれた。


私からも皆が見られた。


みんなが宝石の瞳をきらきら潤ませている。



きらきらきれい




嬉しくて、キャッキャと笑ったら皆も笑う。









 疲れてしまうだろうとお父様にベッドに戻された私はそこで寝返りを披露した。





「ぬぅ……う、ぅ……んっ…」



お父様の視線が離れてしまう前に寝返りをしようと唸ると心配そうに見つめてくる。

その後ろで他のみんなが息を呑んだのだ聞こえた。



お父様がじっと見ている内に

頑張れ私、頑張れ!



正直疲れていたけどお父様にも見てほしかった。


呼吸を忘れるくらいに身体中に力を入れる。



あと、すこし!





「お、おおっ!凄いぞ、アルフィ!!私にも見せてくれたのか。ありがとう!」



出来た瞬間にお父様の表情が幸せそうに輝いた。


止まったはずの涙がまた溢れていて、鼻水もすごい。

…でも素敵なお父様。



今度は家族三人で抱き合って、後ろでメイドさんたちも抱き合っている。




私はなんだか嬉し恥ずかしくて、手足をぱたぱたさせた。










部屋の中はお父様が飛び込んでくる前みたいに、いやそれよりも幸せでいっぱいになっていた。

読んでいただきありがとうございます!


誤字脱字とか気がついたら教えてください

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