お母さんと
「おかあさま、フルゥと、モニア、よんでください」
数日色々と悩んで、油の使い方の話を伝えてみることにした。
「?ええ、分かったわ」
私の体調を診ていたお母様が、不思議そうにしながらも頷いてくれる。
側にあったベルをチリリンと鳴らした。
お母様を呼ぶベルだと思っていたが、お母様が鳴らすとフルゥとモニアに聞こえるのかとかいう疑問は、お母様だから、と考えてあえて聞かない。
「暫くしたら来てくれるわ」
「ありがとう、ございます」
ベッドの中で、少し体を震わせる。
私はこれから油を使った料理の話をする。
それはつまり、前世の知識を使うと言うことだ。
私が知るはずのないことを話すのを、私の家族はどう思うだろうか。
信じたくても、臆病な自分がいる。
でも生きるためには仕方のないこと、だとも思うから。
コン、コン、コン
「奥様、フラウリルとモニアーナです、参りました」
「入って頂戴」
お母様の返事で中に入ってきた。
「アルフィから、話があるのですって」
「?いかがなさいましたか」
私の側に来て、体勢が辛くないようにと腰を屈めて目線を合わせてくれる。
でも話が長くなりそうだから、二人にも楽にしてもらいたい。
「おかあさま、ふたりに、すわって、もらってもいいですか」
私の言葉を聞いた二人はお母様と視線を交わすと、失礼します、と言って素早く椅子に座った。
「わたしの、ごはんのこと、なのです」
話しが出来る内にと、早速本題に入る。
が、感謝の言葉をまず言わないと。
「とっても、おいしいです、いつも。ありがとうございます」
「それは…」
「幸いです」
「えっと、ふたりは、『からあげ』ってしっていますか」
日本語で言って、分かるわけ無いかと思い直す。
前の失敗があるが、もう怖さはほとんどないことに気づく。
体の震えもなくなっていた。
ふっきれているのかもしれない。
何にせよ、少しずつ私を見せていくのにもいい機会だ。
私の大切な人たちなら聞いてくれる。
「あぶらを、たっぷり、おなべにいれて、りょうりするのです」
「たっぷり、ですか」
「炒め物や焼き物とは違うのですね」
二人とも首をかしげている。
「脂はあまり溶けませんから、鍋に塗るのですが」
そう言うモニア。
やはり、家には脂しかないのだろうか。
「あぶら、ではなく、みずのような、あぶらです。そそぐのです」
「あ、…御屋敷で使われていた、あの油…」
「ああ!先日お話ししていた一度に大量の調理をするときに使う油ですね」
何かよく知らない単語が聞こえてきたが、納得してくれたらしい。
二人仲良く頷いている。
「よくあたためた、あぶらで、たべものに、ひをとおします」
上手く伝えるのが難しい。
目の前でやって見せれたら一番良いのに。
「もしかしてアルフィ、油で食材を茹でるの?」
お母様が身を乗り出して聞いてきた。
茹でる、油で茹でる。
確かに、そうかもしれない。
その言い方なら、何となく伝わるかもしれない。
「きっと、そうです、おかあさまっ!ありがと、ございますっ」
分かってくれることが嬉しくて、つい声が弾む。
そうしているとメイドの二人も身を乗り出す。
「茹でるのですね、そうすると食材全体に油が回るということですね」
「はいっ」
「味付けはどうするのでしょうか。油に味をつけるのでは…なさそうですね」
「はい」
予想が上手く当たらなかったフルゥは少し悔しそう。
「ゆでるまえに、あじ、つけるのです。じっくり、」
「味を、つける、漬けて、味を染み込ませるのですか」
「はい」
今度は当たって嬉しそうになる。
楽しく、なってくる。
「あじ、しみこんだら、つつむと、にげません」
「包む…ですか」
今度は難しそう。
上手く伝えられるかな。
今までに似たような食べ物を見なかったか、記憶を探る。
「「「「ううーん」」」」
みんなも揃って唸るから、何だかおかしくて……あ。
「ムニエルだわ!」
「ひゃっ…」
思い付いたと同時のお母様の声。
驚いて、少し呼吸がひきつる。
悟らせてはいけない。
せっかく今、楽しく会話しているのだから。
「さすがですっ、おかあさま」
「ふふっ」
お母様が、嬉しそうに笑う。
素敵だ。
私も幸せになる。
「アルフィ様、わかった気がします。粉で包んで味を閉じ込めて…」
「更に、粉が油を吸ってくれるのですね!」
見事な連携プレイ。
相変わらずフルゥとモニアは息ぴったりだ。
みんなで作る揚げ物を思い浮かべると、なかなかいい感じになってきた気がする。
二人はとても知識があるうえに柔軟で固定観念にも囚われすぎない人だから、今みたいに短い説明でも答えを見つけてしまう。
きっとどんどん工夫していいものを作り上げるだろう。
これで揚げ物のお料理講座は完璧だ…たぶん。
「よろしく、おねがい、します!」
「はい!では早速油の手配を致しましょう」
あっ、そこから…。
もしかして、油を使わないのは流通が少なくて高価だからとかじゃないだろうか…。
「心配はいりませんよ。疲れたでしょう、後は私たちに任せてお休み」
やる気に満ちた表情のお母様が頭を撫でてくれる。
ならば私はお母様たちを信じて休もう。
でも、嬉しくて、眠れそうにない。
落ち着こうと胸にてを当てたら、お母さんの顔が脳裏に浮かんだ。
びっくりした。
お母さん!
びっくりして叫びそうになった。
どうして急に?と思っていたら、私はお母さんの隣にいて、一緒にからあげを作っていた。
私は袋に鶏肉とお醤油と味醂とお酒と、あれは何だろう、何かを入れて手で揉んでいる。
その間にお母さんが片栗粉を準備していて、塩コショウで味付けした鶏肉につけて粉を叩いていく。
私はそれを横で見ていて、油に入れられた途端に湧き出て弾ける泡の音を嬉しそうに聴いている。
私がお母さんと笑っていた。
「アルフィ」
「っえ、あ…おかあさ、おかあさま?」
お母様の声がして振り向くと、モニアとフルゥも私を見ていた。
「大丈夫よ」
お母様はそう言って笑うと、私の頬を優しく撫でた。




