表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
消えたカラアゲの行方  作者: みりん
新しい『いばしょ』
40/51

あーん

続きです。





コンコンコンッ


「!」


 ひたすら書いていると、突然部屋の扉がノックされた。


「はぁい」


慌てて返事をすると、扉が開いてお母様が入ってきた。


「おやつの時間よ」


そういうお母様の手には木製のお盆(トレー?)が。

更にその上のお皿には、ピンポン玉くらいの大きさの果実がのっていた。


「わぁ!いちごっ!」


形は違えど味は同じなのは、食べたことがあるから知っている。

私はノートと筆記用具を片付けて、ゆっくり立ち上がる。

楽しみだけれど急いで倒れたら大変だ。


「て、あらってきましゅ」

「いってらっしゃい」


お母様が準備している間に室内の洗面所で手を洗う。

背が足りないので、私のために置かれた階段付きの台に登って。


戻ってくると、準備を終えたお母様が座って待っていた。

私の部屋の椅子は使われておらず絨毯に座っているため、このテーブルはお母様には少し低そう。

見ていない間に椅子やソファから私が転がり落ちるのが悪いのだが。

ちなみに、私やお姉様の部屋でおやつを食べるときは、メイドさんではなくお母様が自らセッティングする。

初めはメイドさんがやってくれていたのだが、お母様が自分でやりたがったそうな。


「いたらきます!」

「はい、どうぞ」


早速ひとつ手にとって食べてみる。


ぢゅるっ


変な音がした。

まだ小さいこの口では上手く食べられないのだから許してほしい。


「おいしいでふ!」


すごい音はしたが、味はとても美味しい。


「こら、お話は飲み込んでからですよ」


堪らず声に出すとお母様にくすと笑って怒られてしまった。


口の中にはしっかり熟した強い甘味が広がる。

何度食べても涙が出そうなほどイチゴの味だ。

そのうえ此処の食物は質が良いから美味しくて堪らない。


「うふふ」


夢中になって食べていたら、お母様の優雅な笑い声が聞こえてきた。

何かと思って顔をあげると、目尻を下げて幸せそうにうっとりしているお母様が。

私の食べっぷりを見てそうなったのは明らかで。

恥ずかしくなったがこの表情のお母様も可愛くて好きなので、上目遣いでにこっ(たぶん)と笑ってみた。

するとお母様が、もう、こっちが悶え死にそうなほどの満面の笑みを見せるものだから。


「ぅにゃふぅ…」


一瞬にして顔が熱くなった。


「おっ、おかあさまも、いっしょにたべましょ!ほらっ、ほらっ!」


お母様のキラキラな目線を受け止め損ね、誤魔化し半分本音半分に言ってお母様へお皿を押した。


心臓がばっくんばっくん煩いほど跳び跳ねていて、これ以上は本当に死んでしまいそうだ。


「お顔が真っ赤よ?もう、何もかも可愛いんだから。困ってしまうわ」


お母様、それは私の台詞です。


なんて脳内で突っ込みを入れつつ、いっしょ、と言うとお母様もイチゴを手に取ってくれた。

私の手には大きくて両手で持っていたイチゴは、お母様の片手にひょいと持ち上げられて口へと運ばれていく。

ほどよい厚みのふんわりと、艶のある唇に目線が吸い寄せられる。

かぷりと噛みつかれたイチゴが少し…いやかなり羨ましい。

仕返しとばかりにお母様の食べる姿をしっかり目に焼き付けておくことも忘れない。


 最後のひとつを取ろうと思って手を伸ばすと、左手が先に出ていることに気がついた。

食事や字を書くときのような利き手を意識するとき以外はこうして無意識に左手を使っていたのだろう。

頭では右利きだと思っていたせいか、左手で取ったのに右手に持ち換えようとしていた自分に笑えてしまう。


というか、私はお母様にあーんをしたかったのだ。

そういう意味で一緒に食べたかったのだ。


「おかあさまっ、もういこです!」

「まあ、いいの?嬉しいわ」

「あっ、まってくらしゃい」

「えっ?」


嬉しそうに手で受け取ろうとするお母様を、慌てて止める。

いきなり取られてしまうところだった。

あぶないあふない。


困った顔で私と私の手の中のイチゴを見比べるお母様の隙をついて、その唇に近づけ……。


「んむっ!?」

「あっ」


押し付けてしまった。

吃驚して手を引きそうになったが、此処で引いたら次はない気がした。


「おかあさま、あーん」

「むへ?」

「あーん、です」


意味がわからないのか首をこてんと傾げるお母様が可愛すぎるから、顔がとろけないように我慢しながら口を開けて見せた。


「むむ、あー…んむ?」


真似をしたお母様の口にイチゴが少し入る。

はむ、とそのイチゴをかじった。

きょとんとしたままの表情が可愛すぎてイチゴを取り落としそうになったりしたが何とか耐えた。

ほっとしたのも束の間、お母様が残っていた半分をあーんで食べた拍子に柔らかい唇が私の指に触れた。


ふにっとふわっとした。


「お、おいしいです?」


誤魔化すように言うと、お母様は嬉しそうに笑った。


「さっきよりももっと美味しいわ。これ、とっても素敵だわ!」


あーん、はお母様のお気に召したらしい。


 思い返してみれば、あーんは死んでから初めてだ。

あの歳でもあーんしてもらうのが好きだった。

もうみんなとあーんできないんだ、とかこれからはお母様たちとあーんができるんだ、とかいっぱい考えた。


あ、そういえば、ことはちゃんはよく私の手ごと噛んできていたなぁ


昔に思いを馳せたりしながらも、嬉しそうなお母様の隣ですっかりお母様成分を蓄えた私は、お腹いっぱい胸いっぱい、幸せを満喫した。





 この日から、私の家ではあーんが、…というより私にあーんさせる光景がよく見られるようになった。






脳内変換が面倒くさくなってきたので(こら)食べ物は和訳した状態で書かせてもらいました。

今後はどうなるかわからないです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ