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消えたカラアゲの行方  作者: みりん
新しい『いばしょ』
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美味しいごはん


 平和な日常は中々続いてくれないらしい。


「……ぅぅ…」


折角身体が落ち着いて魔道具での実験的な治療も再会できたというのに、もうすぐ5歳になる私は新たな問題に直面していた。


「アルフィ…ごめんね、私じゃ何にもしてあげられない」


ベッドに横たわったままの私に寄り添っていたお姉様が立ち上がる。


「学校行ってくるね」

「…ぅ、…」


返事ができない私の頭を揺れないよう優しくひと撫ですると、静かに部屋を出ていこうとする。


「気を付けて行っておいで」


そんなお姉様に、お父様が声をかけた。


「うん」


短く返事をすると今度こそ部屋から出ていった。



 今私の寝室には、お父様とモニア、私がいる。

そしてお世辞にも軽いとは言えない空気に包まれている。

そんなに重くしたら私の身体まで重くなってくる気がするからやめてと言いたいが、声を発するのも疲れるから喋る気になれない。

只ひたすらに身体が怠い。

少しでも動こうとすると息が切れて、まるで持久走を本気で走った後のように心臓が脈打ち苦しくなる。




 私の身体の異変にいち早く気づいたのはお母様だった。

何時も通りにゆったりと過ごして、その日は体調が余り良くなかったために外に出ることもなかった。

午後になって、やはり何時も通りベッドに横たわっていた私の様子を見に来たお母様が、私を見た途端に顔色を変えた。


「えっ?」


そう溢して側に駆け寄ってきた。


「アルフィ、今日は身体を動かすようなことしなかったわよね?」


確認するような問い掛けに疑問を抱きながらも頷くと、少し表情が険しくなったように見えた。


「どうして…体力が減っているわ」


困惑したようにお母様が言った。

どういう意味なのか分からなかった。

何故そんなことが分かるのかと聞いてみたが、お母様だからよ、の一言で片付けられた。

その日はそれだけだった。


 その3日後には、倦怠感が抜けず歩き回るどころか起き上がることすら儘ならなくなっていた。

お姉様が私に勉強を教えようと部屋に来てくれたが、字を書くのもやっとな状態だった。


流石におかしいとガルじい(お医者様)を呼んで診てもらうと、こんな会話が繰り広げられた。



「生物は身体が成長した分、身体機能の維持に必要な食事量も増えていくのじゃ。そのうえアルフィちゃんは膨大な魔力の負荷に耐え続けなければならぬ。じゃが食が非常に細い。恐らく今の食事では到底足りぬのじゃ」


その内容に私は納得することしかできなかった。

身体が成長すればその分消費が減るのは当然だ。

それに代謝のことを考えれば、この世界の人間の成長速度はよく分からないが、12~14歳頃までもっと必要量が増えていくだろう。

それまで生きていられるか……生きていたい。


「しかし…アルフィは食べることですら負担になってしまいます。一体どうすれば良いのでしょうか。」

「こればかりは、わしの知る医療道具が使えぬ。点滴も命に関わる恐れがあるのじゃ」

「そんなっ!?」


そう、分かったところで解決するわけではないのだ。


「食事を工夫することしかできぬ。アルフィちゃんが一番効率よく体力をつけられる食材や食べやすい調理法を探っていくしかないのじゃ」


日々の食事を考えると、メイドさんが作ってくれる献立は素晴らしいものだと思う。

主食、主菜、1、2種類の副菜、汁物。

日本食の形態も当てはまりそうな献立で、炭水化物・脂質・タンパク質の三大栄養素にビタミンや無機質もバッチリに思えるようほど野菜や乳製品も使われている。

この世界に前世の栄養の知識が通用するかは定かでないが。

とはいえ、全体的な量は裕福な貴族でもない(はず)だからそう多くないし私の食べられる量は更に少ないのだが。


「っ、方法はあるのですね。ならば探し出すまでです」

「力になれなくてすまないのう」

「いえ、対処法があるのなら、救う手があるということです。それだけでも……」


どんな現実であろうとお母様は決して諦めない。

そんな姿が嬉しかった。

私はこのまま体力が削られていっていつか死ぬのではないかと言われても、まるで他人事のように思えた。

まだ死なない。

こんな理由では死なない。

そんな気がしていた。

それはきっと、家族やガルじい達がいるからだろう。



 そうしてガルじいに診察してもらってから一週間、私はベッドに籠ったまま。

私の食事はまるで離乳食に戻ったかのような、所謂嚥下食のようなものになった。

私が食事をするときは必ずお母様がそばにいて、私の身体の記録をとっている。

何をしているのか聞いたところ、“お母様だから”認識出来るという体力の変化を記録しているのだそう。

何を食べたときにどう変化するのか、食材毎に記録しているらしい。

そしてその食材の種類を増やすため、今日も狩りに出掛けているのだが、朝食を終えると直ぐに飛び出していき、昼食前には必ず戻ってくる。

例えお母様といえど、毎日続けていたらどこかが壊れてしまいそう。

早く直したいのに、私の身体は言うことを聞いてくれない。



 何も出来ず、ただ横たわる私のそばにいてくれたお父様が、畑を見てくるからと部屋を出ていった。


と思えばお母様が部屋に入ってきた。


「ぉ、……ぁぃ、」


おかえりなさい、そう言いたかった。


「ただいま、アルフィ。昼食の時間よ……モニア、お願い」


分かっているのだろう。

聞き返すこともなく返事をすると、昼食を運んできたモニアに部屋に入るようにいった。


トレーには小皿が乗せられていて、その上には食材に合わせて食べやすいように調理されたものが、ちょこんと盛りつけられている。


「ほら、アルフィ…はい、あーん」


少しでも食べやすいようにと抱き起こされ、クッションとモニアに支えられながら、お母様が差し出すスプーンに口を開く。

するとその僅かしか開いていない私の口に、スプーンに乗せられたほんの少しを含ませた。

それは噛めなくても、舌をゆっくりと動かしているうちに飲み込むことができた。


「ん……お、いし…です…」


味覚ははっきりしているから、フルゥとモニアが味にも気をつかって料理してくれていることがよくわかる。


「よかった!フルゥも喜ぶわ、ねえモニア」

「はいっ、奥様」


ほんの少し食べて、美味しいと伝えるだけでお母様とモニアは嬉しそうに笑い合っている。

本当に嬉しそうだから、もっともっと食べて、もっともっと美味しいと言いたい。


「もう少し食べられるかしら?」

「たべ、ぃ、です…」


お母様の言葉に間を置かず答える。

食べられないだけで、食べたくないわけではないのだ。

むしろ食べたい。


ねだるように口を開けると、そんな食欲がありそうな私の様子にほっとしたのか笑みを深めながらまた一口くれた。


やっぱり美味しい。

すごく美味しい。

なんだか久しぶりに一口目から吐き出さずに食べられた気がする。

昨日は食べられなかったのだ。

というかこのほんの少しの料理に、一体どんな調味料を使ったのだろうか。

日に日に質が上がっていくのだが、どう調理しているのだろうか。

僅かな量でも味が感じられ、且つ濃すぎるわけでもない。

こんな贅沢な嚥下食は聞いたことがない。


「ん~っ」


本当はもっと口にいれてしっかり噛んで味わいたい。

たっぷり時間をかけて小皿一杯分を食べ終えた。


「よく頑張ったわね、アルフィ。今日は食欲もしっかりあるようで安心したわ。昨日は食べられなくて辛かったでしょう」


昨日みた、お母様の隠しきれていなかった酷く怯えた表情も今はない。

何も食べられず弱っていくのをただ見ているしかない家族の心は、そういった表情からでしか私には分からない。

強がってもお母様はお母様。

そして私はお母様の娘。


嗚呼、愛されてる。


「身体はどうかしら?」


聞かれて、力なく笑う。

ご飯は美味しくてとても幸せだったが、たったこれだけの食事で疲れきってしまう自分が情けない。

お母様はそんな私を見て苦笑しながら、また記録をとっている。


「食べて疲れてしまったのね。でも、大丈夫よ。今の体力は減っているけれど、上限値は上がっているわ。少しずつだけれど…不思議ね」


やんちゃな子供に、困った子ねとでも言うようにそう言うから、私は本当に大丈夫な気がしてくる。

たった一言で私を救いつづけてくれるお母様のほうが不思議だ。


「ぁ、りがと……です…」


何の事かは分からないだろうが、頷いてくれた。

そして私の頭をそっと撫でてくるから、だんだん眠たくなってきた。

本当はもっと食べたいしもっと一緒にいたいし、もっとお喋りがしたいのに。


「おかぁさまぁ……」


へにょへにょな声で呼ぶと、諦めて寝なさいと笑われてしまった。


分かったよぅ、おやすみするよ。

でもその前にひとつだけ。


「フルゥ…に、も、……おぃし…かた、つたぇて……」

「ありがとうございますっ、アルフィ様。また、頑張りますね!」

「ぁ…」


厨房か何処かにいてここにはいないと思っていたフルゥが、いつも間にか私の部屋に私のそばにいた。

視力が物凄く良い私だが、体調が悪いせいか霞んでいて気づかなかった。

その事実に驚きと不安を抱くが、すぐに薄れていく。

直接伝えられたことが嬉しくて、そしてまだ次があると分かるその言葉を聞き、皆の表情を見れば不安に押し潰されるようなことはなかった。





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