私の妹 2 said:アイヴォリーラ
私にアルフィリッタという妹ができたのは、四歳くらいの頃だったと思う。
「聞いて、アイリ。アイリに妹か弟ができるのよ」
少し体調が悪そうだったお母様にそう言われたのがそのくらいの頃だったと思うから。
「アイリが生まれた頃を思い出すわ…」
お母様はどこか物思いにふけっているようだったけど、その時の私には何のことだか分からなかった。
だって妹とか弟とか、まだ分からなかったんだもん。
それよりもお母様の具合が早くよくなってほしくて、「元気になってね」ってばかり言っていた気がする。
そのうえ気づいたらお母様のお腹が少しずつ大きくなっていて、大変だ!って泣いちゃった。
でもお母様は私をぎゅっとしてくれて、大丈夫よって言ったの。
どう大丈夫なのかよく分からなかったけどお母様のお腹はポカポカあたたかくて、すごく安心したんだ。
お腹に頬擦りしたらお母様は嬉しそうにお腹を撫でて言った。
「この中に赤ちゃんがいるのよ」
「あかちゃん?」
「そう、赤ちゃん。アイリもこの中にいたの」
「えぇ!?アイリも?…おかぁさますごい!」
その時の私はまだまだ分からないことばかりで理解できてなかったけど、今はわかるよ。
私はお母様のお腹の中にいて、産まれてきた。
アルフィもあの中から産まれてきた。
女の子だから私の妹になって、私も女の子だからアルフィの姉になったってことでしょ。
お母様にたくさん聞いて教えてもらって、「この中には赤ちゃんだった私がいるんだ」って考えてた頃のある日、私はお母様に会えなくなった。
“出産”が始まるからって。
どんな風に“私”が産まれてくるのか気になっていたし、お母様と離れれたくなくてお父様に泣きついた。
「すまないな、アイリ。ジュリの側にいたい気持ちは分かるが…私も同じだよ。私もジュリの側にいたい。何かしてやりたいよ
よ」
「おとーさま…」
「アイリが産まれたときも私はこうして一人で待っていたんだ」
そういうお父様はとても不安そうで、好奇心と不満でいっぱいだった私も泣くのをやめた。
「ひとり、ちがうよ?アイリもいっしょね」
私はそう言って、ぴったりお父様に抱きついた。
だってなんたか私まで不安になっちゃったんだもん。
あのお腹の中から“私”みたいな大きいのが出てくるなんて、本当に大丈夫なのかな?
なんて。
結局その日は赤ちゃんに会うことはできなかった。
眠くなっちゃった私は仕方ないからって部屋のベッドで寝た。
次の日起きたらお腹が空いたから、お父様を探しにいった。
お父様はしばらく見つからなかった。
何でかって?
お母様の部屋にいたの。
私は我慢してたのに。
ずるい!って言おうとしてお父様を見た私は固まっちゃった。
いつも柔らかい表情のお父様がすごく怖い顔をしてた。
私を怒ってるんじゃないってことは何となくわかった。
“怒り”の怖いじゃなかったから。
どうしたの?って聞いたら、まだ産まれないんだって言われた。
どうして泣きそうなの?って聞いたら、少し目を大きくして、へたっぴに笑って言った。
「アイリのときはね、あっという間だった筈なんだ。産まれたときはあっという間だったんだよ」
「いや、確かに長かった。長かったがこれ程ではなかった…」
そう言ったの。
なんだか難しくてあっという間なのか長いのかどっちなのか分からなかったけど、お父様が混乱してるのはよく分かった。
混乱してるってことは、何かがおかしいんだって分かった。
だからその日は静かに過ごすことにした。
それからどのくらい時間が経ったのか分からない。
一時間だったかな、半日だったかな、一日だったかな。
小さな泣き声が聞こえてきて、隣にいたお父様が首が取れそうな勢いで顔をあげた。
ビックリしたよ、本当に。
ビックリしてたら扉が開いてフルゥが出てきた。
目がうるうるしてて、体の全部で「嬉しい!」って言っているように見えた。
感動してる人って、あんなに素敵になるんだね。
「ぁ…ぁ………っ」
だけど私とお父様を見て、一瞬固まって、顔をしわくちゃにした。
涙がぽろぽろこぼれた。
何が起きたか分からなかった。
喜んでたのに、悲しい涙だったの。
悲鳴が聞こえそうだった。
何でか私まで泣きそうになっていたら、涙を拭ったフルゥが御入りください、って言った。
お母様はベッドにいた。
「ディー、アイリ………っ……」
お母様はフルゥと同じになった。
「ディー、ディーッ、わた、わたくし、どうすればっ」
泣きながらお父様を呼んだ。
掠れた声だった。
悲しい声だった。
お母様が弱く見えて。
弱く、ちがう、小さく?
「ごめんなさい、ごめんなさいっ!」
「ジュリ?落ち着いてジュリ、」
泣きながら謝るお母様をなだめるようにお父様が声をかけたけど、お母様は泣き止まなかった。
「ごめんなさいっ、わた、くし、ちゃんとっ、……産んであげられなかった……っ!!」
「へ?」
「…わあぁ………」
その時はじめて、私たちは赤ちゃんをみた。
フルゥとお母様の様子にびっくりしていたから見てる暇なんてなかった。
「……リプルデ………」
お父様がそう呟いたらお母様はもっと謝った。
よくわからなかった。
私をおいてけぼりにして話していたから。
それにそれよりも、赤ちゃんが私と全然違うことにビックリしてた。
仕方ないよね、産まれてくるのは“赤ちゃんの私”だと思ってたんだから。
真っ白で、私じゃない!ってなってた。
よく分からない二人は置いといて、赤ちゃんのことが気になっていた私は赤ちゃんに近づいてみた。
……だって二人に声かけ辛かったから。
見れば見るほど赤ちゃんの肌は透き通った白で、うっすら生えた髪も白い。
そして小さくて、本当に小さかったの。
ちゃんと私と同じくらいに大きくなるのかな?って心配になるくらいに。
そこで、あれ?って思った。
「ねえねえ、おとうさま、おかあさま!アイリのかみのけ、しろだったの?」
「「えっ?」」
私も赤ちゃんだったなら同じように白かったはずだよね?って。
「きれいーね!いいなぁ~!アイリ、いろちがう!」
いいな、いいなぁ
たくさん言うと楽しくなってきて、はしゃいで赤ちゃんの頬っぺをつんつんしてみた。
もちろん、そっとだよ?
ふにふに、ふににぃ
ふかふかしてて、気持ちよかった。
頬っぺにすりすりしたくなっちゃったよ。
かわいいな、かわいいなって頬っぺた以外にも小さな手をそっとさわってみたり、小さなお鼻を撫でてみた。
そうやってさわってみると私より小さいのがとってもよくわかって、またちょっと不安になっちゃった。
私がつっついても反応がなかったから、大丈夫かな?寝てるのかな?目開けてくれないかな?目が合わないかな?ってじーっと小さな顔を見つめてた。
そうしてたら、また思い出した。
「ねえ、おとーさまおかーさま!このこ、アイリのいもうとね?いもうと、いもーと!」
私はずっとそんな感じで一人喋っていた。
これがアルフィリッタとの出会い。
これじゃ私が見ただけなんだけどね。
それからはいろんなことがあった。
せっかくうれしかったのに赤ちゃん、アルフィのことは皆には内緒にしないとダメって言われたり、よく熱を出すアルフィに付きっきりのお母様とお父様に遊んでもらえなかったりして寂しかった。
でもそればっかりじゃないの。
アルフィはいつまでも小さいし、私の髪の毛みたいに茶色になったりもしない。
私の髪の色が元々この色だったってわかって、私がちょっと言葉がわかるようになって、そういう病気なんだよって教えてもらうまでずっと不思議だったんだ。
それを知った後もアルフィは不思議でびっくりすることばかりなの。
アルフィとお勉強するとたくさんびっくりするよ。
教えるのも楽しい!
アルフィはちょっと変わったことを言うからとってもワクワクするし、一生けんめい私の話を聞いてるのを見ると私もがんばれる。
もっと教えてあげたい、知りたいって思うようになったんだよ。
それにアルフィはとってもかしこいから、追いこされないようにがんばらなくちゃね。
アルフィは何をするのも一生けんめいでキラキラしてみえる。
アルフィは私たちとは少しちがって、私が普通にできることでもアルフィにとっては難しかったり大変なことなのよってお母様が教えてくれたことがある。
私よりもずっと小さな赤ちゃんなんだから当たり前でしょって思ってたけど、私が3才のころには走り回って遊んでたのに、アルフィは少しの間しか歩けなくて、その上よたよた歩きでよく転んでいるのを見て“ちがう”って言ってたことが分かった。
アルフィはすごい。
私だったらいやになって泣き出しちゃう。
思いどおりに動けないのはきっとすごく辛いことだよ。
あれしちゃだめ、これしちゃだめってお母様に言われるだけでもがまんするの大変だし、いや!ってなるのに。
止められてもいないのに動けないなんてがまんできないよ。
私とかお父様やお母様と、それにモニアとフルゥの皆が簡単にできるのを見ながらでもがんばれるなんて………私はできないよ。
そんな姿を見てたら、私はアルフィを守りたいと思うようになった。
がんばるアルフィを応援したい。
がんばるアルフィを守りたい。
アルフィが一生けんめいがんばれる場所も守りたい。
そうやって私はたくさん守りたいものができたの。
次はアルフィのターンに戻ります




