自問自答
今回は短いです。
中途半端ですが、長くなりそうだったので分けました。
( 強くなりたい )
今まで私が幾度と無く思ってきたこと。
私は私が好きだった。
色んなものを好きになる私が好きだった。
心の発作になっていないとき、色んなものがキラキラ輝いてみえる私が好きだった。
けれど、ちっぽけな自分ひとりにすら勝てない、甘えん坊で欲張りで、弱い自分が嫌いだった。
嫌うだけで、立ち向かうこともしない自分が嫌いだった。
例えば学校に行きたくなくて、自分でもよく分からないまま嫌だ嫌だと泣き喚いた。
例えば宿題や勉強をしたくなくて、やらなければならないということも自分のしたいことの力になることも分かっていたのに、意地になって逃げ続けた。
例えば晩御飯を作って、けれど美味しいともありがとうとも言ってもらえず…私は嬉しくなかった。
アドバイスをしてもらっても文句を言われている気がしてしまい、素直になれなかった。
歳をとるにつれて当たり前になっていく様々なことが、私には辛かった。
私と周囲の人たちとでは、時の流れが違うと思うほどに変化がはやくて。
時の流れに追い付けるほど、立ち向かえるほど、受け入れられるほど、私は強くなかった。
周りの人は立ち向かって努力しているのに、“努力”が分からなくて少しのことで心が折れて怖くなって、逃げて………。
重なる逃避が更に私を追い詰めた。
自己嫌悪が増して、心の発作も重なって、ああもう嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ…………。
それは“今”も同じ。
私である限り、変わらない。
強くならない限り、変わらない。
“今”の私は身体まで脆弱になって、でも私は私が好きだ。
でも、心が弱い自分が嫌い。
同じ。
ごちゃ混ぜな私。
はっきりしない私。
( 私は強くなりたい )
ついさっき決意したことでさえもう心が揺らいでいるのが、自分でもよく分かっていた。
決意と現実に心が追い付かない。
自分にすら追い付けない私がいる。
いつの間にか自分に対する不安や疑問が私を取り込み、心の闇を掻き立てる。
私だけが……。
本当に私だけかなんて分からない。
他にも、寧ろ皆が、こうして同じようなことを悩んでいるかもしれない。
私だけが………。
周囲と私は違うのだから、皆に出来ることが私にできないということもあるかもしれない。
私だけが…………。
他の人が努力して越えられる壁を、私は越えられない。
努力していないからということは分かっている。
でもどうして努力できないのか分からない。
そんな私自身の存在が負の感情に繋がってしまう。
「私は、強くなりたい。こんな負の感情に呑み込まれたくない」
新しい幸せのなかにいても私がいる限りそこには闇があって、何時かまた私を呑み込んで殺してくれるのではないかと思うとすべての光が蔭ってみえる。
でもそれ(・・)は今ではない。
私の生きる意思はこの闇よりすっと深いのだ。
「自分の嘘に耐えられる強さと、真実をすべて打ち明ける強さがほしい」
何もない闇に私の声だけが響く。
私が私の前世を打ち明けない理由は何時までもそこにあってはくれない。
そう遅くない内に完全に言葉を習得する日を向かえる。
そうなれば私は私の言葉で伝えられるようになってしまう。
打ち明けることを選ぶか選ばないかは別としても、何時私の口から溢れるか知れない。
私の存在を認めてほしくて我慢ならなくなってしまうかも知れない。
私自身の考えとしては、前世は前世、もう過去でこの世界にはありもしないモノなのだから、そんな未知に大切な家族巻き込む様なことなどあってはならないと思っている。
護りたいものを傷つける存在になんてなりたくない。
なるものか。
けれどこうして意思を持つからこそ、辛い。
私はただの子供ではなく、あなたの子供であるのに嘗ての母の子でもある。
まるで家族を騙して欺いて入り込んだ異物が今の私で、不純に愛を貪っているようで酷く哀しく辛いのだ。
私は確かに純粋に愛を求めているはずなのに私がもう“純粋なこども”ではない。
家族を巻き込んででも私を見てほしいと、思ってしまう自分がいる。
「私は家族をまもる強さがほしい。愛し愛される強さがほしい」
返事はなく、闇に吸い込まれていく自分の声に私は手で顔を覆った。
「ここは寒い、よ」
顔を覆っていた手を口元に寄せて息を吐き出す。
三回ほど息を吹き掛けて手を擦ってみたが、あたたかいのか分からなかった。
「なりたいなりたいって言ってばかりだから強くなれないってことくらい…わかってる」
だけど。
《力を欲するか》
ちから?どんな?
《強くなりたいか》
なりたい。もちろんなりたい。
「…………こえ?なに、だれ?誰かいるの?」
まるで自問自答しているようでうっかり答えていた。
でも私はこんな喋り方しない。
《いる、いるぞ。ようやっと聞こえたな》
――――誰かが、返事をした。