お披露目とお祭り
「お母様、お父様…」
集まったのは恐らく100人もいない(高校の体育館に集まった1000人位の全校生徒を舞台上から見た感じより物凄く少なく見えた)だろう。
そんな、ひとつの村としては小規模だろうが、私たちの周りに集まった大勢の人達に圧倒されたのだろうか。
不安そうなお姉様の声がして、そんなお姉様をお父様とお母様が左右から抱きしめた。
そうして強く頷きあった3人は、ぴん、と背筋を伸ばして立ち直した。
緊張した面持ちで広場の方を向き、頬を紅潮させた3人は、何時もより一層美しく気高い立ち姿で。
普段は柔らかな真ん丸の目のお姉様の目尻もキリリと吊り上げられ、弱さを見せぬようにと、お父様とお母様に隠れたりもせず。
そのまだ幼く細い一対の脚でしっかりと立っていて、その姿が私の心を揺さぶった。
――私が強くなくて、一体どうするの
――私が、私たちがアルフィをまもる
――こわくなんてない。アルフィのほうがつらい思いをする未来はゆるさない!!
お姉様の心が、声が、私に響いてきた。
嗚呼、私は、こんなにも愛されて
こんなにも大切にされているの
ぞわり、とからだが震えた。
みんな、つよい。
つよくあろうとする。
よわさを隠そうとする。
それは辛いことだと私は知っているよ
だけどああ、それでも、誰か大切は人の為ならば…
その辛さは喜びに成り得る
でもその辛さは、自らを壊し得る
ああ、守りたい。護りたい
私は強くないけど、心なんて逃げることしか知らないみたいに、強さなんて持つことをしてこなかったけれど…
無謀で下手くそなやり方だったら
私にもその力は、あると思うんだ
お姉様たちを見ながら、そう思う。
その凛々しい姿を見ながら。
見ながら。
…見ながら。
見な、が…ら……?
ふと、その時やっと気づいた。
有り得ない。
有り得ないはずのことが起こっている。
まだベビーカーの傘は閉じられたまま。
今私は傘の隙間を覗き見ていることもない。
ただ、傘の下で大人しくクッションに沈みこんで座って(?)いるだけだ。
だのに、私には綺麗で格好よくて今すぐにでも飛び付きたいほど大好きな家族がはっきりと見えているのだ。
実はマジックミラーのようなものなのだろうか、と考えたところで今まで何も見えなかったことに対して説明が出来ないことに気づく。
では、お父様かお母様が魔術をかけたのか、でもそんな素振りは見せなかったし、何より一番不安になりそうな瞬間に外を見せるような真似はしないはずだ。
可能性を見付けようとするが最終的には確信にたどり着けない。
唯一の可能性以外は…。
外が気になったあまり、無意識に魔術を発動させてしまった、とか……。
それが一番しっくりきて、ああそうか、この世界ならばと納得もできる可能性だ。
証明するには自分の意思で、見えなく(本来の状態に)できればいい。
「ぇっ!?」
つい、小さく声が出てしまった。
幸い皆気づいていないようだ。
簡潔に言うと、見えなくなった。
私の目の前には黒い傘だけが見える。
ただそうしようとイメージしただけでそうなった。
魔術はイメージが大切だ、とかよく小説で読んだことがあるが、こんなに簡単なものなのだろうか。
こう、他にも、呪文の詠唱とか必要ないのだろうか?
吃驚して自分の中の魔力に意識を向けると、明らかに魔力が動いていた。
誕生日にこの身を亡くそう(・・・・)としたときとは違い、落ち着いた柔らかい魔力だ。
久しく忘れかけていた魔力の存在に今何処にいるのかを忘れそうになる。
しかしここでどんなことが出来るのか、さっきの透視(仮)で傘を上げられるまで外を見ていよう、などとこれ以上魔術を使ってみたりしたらお父様達に気づかれてしまうかもしれないし、体調を悪くしても困る。
傘を上げたら気絶した私がいたとか笑えない。
気になることは多いが、お姉様たちの気持ちを台無しにはしたくない。
好奇心をどうにか押さえて外の声に意識を向けると、いつの間にか静かになった空間(広場)でお母様が言った。
「…私の娘は生きています」
――えっ?
時間が止まったかのように一瞬空いて息を呑む音が四方八方から聞こえてきた。
生きているということは、私は、死んだことになっていた?
余りに予想外の言葉に頭の中が真っ白になる。
「む、娘はっ…」
お母様の震える声が再びざわつきを止める。
「…アルフィリッタは、雪ような白い肌です。髪は…透き通るような白髪です。瞳は緋燧石のような赤です」
音が消えた間に一息に言った。
緋燧石と言うのは宝石の類だろうか。
「“リプルデ(出来損ないの天使)”だ」
家族でない誰かの声。
私の体がびくりと震えた。
「ああ」
答えたのはお父様だ。
「あのっ……」
少し離れたところから躊躇うような別の声が聞こえた。
「その、い、生きているっていうことは、“異能のリプルデ”なんだろ?一体なんで死んだなんて……いや、そりゃあ、言えば危険もあるが、なんで今更……」
“異能のリプルデ ”
初めて聞く呼び方だ。
ならばさっきの突然の透視魔術(仮)は、やっぱり本来は詠唱が必要だったのか。
わたしが“異能のリプルデ”とか言う存在で、その異能があるから、あの様な事ができ
「違う。“異能のリプルデ”ではない」
えっ、違うの!?
いきなり否定されてしまって、声を出してしまうところだった。
「我が娘は“魔力のリプルデ”なんだ」
そうお父様が続ける。
透視魔術(仮)が説明できると思った“異能の~”とかでなくて、“魔力のリプルデ”で、それだから(?)死んだことになっていて…。
もう何が何だか分からない。
そもそもどうして死んだことになっていたのだろうか。
私が“リプルデ”だから?
もしかして、誰かが言った“異能のリプルデ”ではなくお父様が言った“魔力のリプルデ”は戸籍登録が認められないほど差別されているのか、それとも寿命が極端に短いのか……。
そこでふと思い出す。
お母様は私が虚弱なのは“リプルデ”だからで、魔力の量が関係しているのだとあの日教えてくれた。
“魔力のリプルデ”と呼ばれる事から、魔力が普通の人よりも多い、若しくは少ないと考えられる。
私は誕生日に魔力を暴走させかけた。
その事を考慮すると恐らく魔力が多いのだろう。
その時私の感情は高ぶっていて……、でも前世の記憶をもっていて、お母様の言葉を理解することが出来たから自分の意思で暴走を止めることが出来た。
――ならば、私が明確な意思や自我を持っていなかったら?
そう考えると耐え難いほどの寒気が襲ってきた。
お母様たちは私がすぐに死ぬことを知りながら愛情を注ぎ続けてくれていたのか。
私を見捨てたり、私から目を反らしたりせずに私を育ててくれていたのか。
我が子を襲うであろう死がはっきりと見えている恐怖は、子を失ったことのない、ましてや子を持ったことのない私になど計り知れない。
お姉様は今までずっと私のことを隠しながら過ごしていたのだろうか。
こんなに愛してくれているのに、友達にも大人達にも否定されたりしたのだろうか。
……傷ついたり苦しんだりしたのだろうか。
混乱する頭に外の大きくなるざわめきが流れ込んできて、私の混乱を煽る。
家族を護りたいと思いながらも苦しめてしまう自分が不甲斐なく悲しい。
苦しめているはずなのに、私を囲んで幸せだと笑ってくれることが嬉しくて、その笑顔にすがり付いてしまう。
苦しみよりも私がいる幸せのほうが大きいと信じたくなってしまう。
信じても、いいだろうか。
「娘は、…アルフィは“魔力のリプルデ”だが、それでも生きている。何度熱に侵されても耐えてくれている。じ、実際に…暴走を、起こしかけたこともあった……。それでもっ、小さな体で押さえ込んで耐えてくれたんだ!私たちを傷つけまいと、自らに魔力の矛先を向けようともしたんだっ……!そんな、私の、私たちの愛しい娘を亡き者にはしたくないんだ!色がどうであれ、何であれ、娘であることには変わりはない。生きていることには変わりはないっ。どうか、どうか娘を受け入れてほしい。アルフィはきっとこれから先もまだ生きていけると信じさせてほしい。妻も、アイリもよく耐えてくれているんだ。このままアルフィを死者にしたくない。皆にアルフィリッタを受け入れてほしい!!」
家でもほとんど話をしないお父様の強い言葉にもう涙が溢れて止まらない。
ほろほろ、ほろほろ
頬を伝ってはまた溢れてくる。
ただもうその気持ちが嬉しくて、この上なく幸せで。
傘の下にいて泣きじゃくることも出来ず、ただもて余すほどの幸せと溢れてくる涙に震える。
「どうか、お願いしますっ…!」
お母様の声もして。
「アルフィは生きてるのっ!アルフィのために見つけたお花も、本当にアルフィにあげたんだよ!」
お姉様も声を震わせながら訴えてくれている。
3人の声は湿っていて、泣くのを堪えようとしているのがわかる。
皆が私の、そして私たち家族の幸せのために頑張っている。
私だけこんなところにいつまでも隠れているのは悔しい。
それにはやく、今すぐにでも3人にしがみついて、泣きついて、私がどんなに幸せかを伝えたい。
みんなの温もりを感じたい。
触れたい。
見たい。
ありがとうって、大好きだって言いたい!
お母様は傘を上げるまで出てはいけないと言ったけれど、もうそんな約束は聞いていられない。
外のたくさんの人への恐怖ももうどこかへ飛んでいった。
それも、この村の人たちは私が生きていて、“リプルデ”であるということに驚いているだけで、“リプルデ”に対して善くない感情を持っているわけではないようなのだ。
何度も起こるざわめきには嫌悪の声はひとつもなかった。
そうとわかれば外に出ずにいられるはずかない。
私の大好きな家族がいるところだから、きっと村も素敵なところだと思いたかった。
「んっしょ」
体を少し捻って体を起こそうとするが安全のために付けられたベルトが邪魔でうまくいかない。
この位置からでは、私の短い腕では傘に触れることさえ出来ない。
付けるところは見ていたのだから可能だろう、とベルトを外そうと試みるが、如何せん。
力が足りない。
「んんんっ」
これではいつまでたっても埒が明かない。
こういった時こそ魔術でちゃちゃっと、
――カチッ!
…外れた。
つい先程体調が…とか考えて使わないようにしようと思っていたのに、まぁ出来ないだろうと思いつつもイメージして魔力を少しだけ動かすようにしたらいとも簡単に外れてしまった。
体調のことを思ってひやりとしたが、結果オーライだということにする。
心なしか疲れてきたような気もする。
心配しているように魔術は体に負担になってしまうのだろうか。
泣きながらこの体でこんなことをしているのだから当然かもしれない。
押さえている嗚咽のせいで時折喉がつっかえて余計に苦しい。
早く3人に手を伸ばしたい。
もたもたしていて疲れきって動けなくなっては意味がない。
ベルトが外れたのだから先を急ぐ。
傘を上げようと隙間に手を差し込んで見るが、やはりと言うべきか力が足りない。
しかしこれ以上魔術を使うと危ないのが何となく分かっているため自力で頑張る。
隙間に差し込んだ手を回して縦向きに握り拳を作ると隙間が広がった。
「ううっ」
広がった隙間に肘を差し込み、更に太い所が入るようにして抉じ開けていく。
必死になって体を動かして広くなった隙間から外を見ると女の子と目があった。
目を見開いて私の方を見つめている。
驚きのせいか頬を紅潮させ、発する言葉が見付からないのか口を開けたり閉じたりしている。
今世は視力がすこぶる良いようで、そんな様子がはっきり見えた。
そして女の子の様子の変化に気づいたらしい母親が、女の子の目線の先を追って……
「ああっ!!!?」
声をあげた。
突然の声に何だ何だとざわめく。
そして周りの人達が母親の指差す方向を見て声をあげた。
「「「「「あっ!!」」」」」
何が起こったのか把握できていないお母様たち3人が慌てて私のいるベビーカーへと視線を寄越した。
「まあっ!」
「なにっ?」
「アルフィ!」
「あ、ふぅ、うにゃ…」
傘を上げようと奮闘している間に涙は止まっていて、でも泣いたあともあって息もあがっていたりして、そんな私を見て慌てる3人に嬉しくなって笑ってしまった。
16歳の時の自分風に言うと「えへへ、」といった感じに。
「あら、…ベルトも外れてるわね。待たせてしまってごめんね。暗くて怖かったかしら…」
お母様は心配そうに言って傘を最後まであげてくれた。
「んーん。ちぁーう、ょ!…はふ…ら、だぁしゅきぃ、にゃ!」
違うよ、大好きなの
まだ少し乱れた呼吸で、たったこれだけの言葉だけでは言いたいことが伝わらないのではと不安だったが、聞き取りにくい喋り方では長く喋っても何処まで伝わるか分からなかった。
お母様は気づいてくれたようで、目を真ん丸にしたあと安心させるようなほっとしたような表情で笑った。
私の涙をふわふわタオルで優しく拭って、私をそっと抱き上げた。
私の姿が村の人たちの瞳に映る。
広場ではざわめくことを忘れてみんながぽかんと私たちのことを見た。
そんなことはお構いなしに私の頬に自分の頬を擦り寄せているお母様。
「アルフィ~っ!」
お母様がお姉様も私に触れられるようにしゃがむと、お姉様が飛び付いてきた。
私を確かめるように自分の手を私の頬にあてて、私の手を自分の頬にあてて何度も名前を呼ぶ。
お父様はそんな私たちを皆一緒にぎゅぅ~っと抱きしめる。
突然の私の登場に続いて家族でぎゅうぎゅうしているものだから、集まっている人たちはおいてけぼりになってしまっている。
流石に放置するわけにもいかないので3人に気づいてもらわなければいけない。
「ね、だえ?だぁぇ?ぬぅ?」
抱きしめられながら広場にいる人たちに向かって指を指す。
指差すのは良くないが、今は許してほしい。
「えっ、ああ。村の人たちだよ。分かるか?とてもいい人たちだよ。大丈夫だ。安心しなさい」
忘れかけていたらしい。
慌てながら教えてくれる。
「こぁくーにゃぃ、れしゅ!」
私に対しての反応にも恐怖を感じなかったため素直に怖くないと言えた。
お父様は頷く。
「…驚かせてすまない。我が娘、アルフィリッタだ…」
私を紹介するお父様は少し震えている。
本人の私よりも不安なのは他の地域で“リプルデ”への偏見を見たことが有るのだろうか。
自分に関することだ。
もう少し大きくなったら教えてもらえるだろうか。
「アイリは嘘つきなんかじゃなかったんだ!!」
声変わり前の少年の嬉々とした高い声が響いた。
声の主を探すと狐色のホットケーキみたいな美味しそうな茶色の髪の少年だった。
「ほら、みんな!いつもアイリは言っていたじゃないか!『妹のために』、『妹にあげるの』って」
そう言って人を掻き分けてこちらに向かってくる。
ビックリしていると他の子供たちも近づいてきた。
「ほんとだ!」
「アイリの妹よ!」
「かわいい!見せて見せて!」
「わぁぁ!」
「もう、言葉もわかるのね」
「さっき声、きこえたよ!」
「とっても賢いのね!」
この村の子供たちが思い思いに声をあげながら私たち家族を囲んだ。
「本当にアイリに妹がいたんだ。よかった!」
お姉様もびっくりして目を潤ませている。
この村の子供たちは、お姉様の友達は素敵な子達だ。
「「「「私たち(僕たち)(おれたち)、ずっと信じてたんだ!アイリの言葉は、嘘なんかじゃなかった!!!!」」」」
ああ、なんてあたたかい
お姉様に苦しい思いをさせる人ばかりでは無かったのだ。
嬉しい。
「みっ、みんなぁっ」
お姉様が泣き出した。
お父様とお母様も。
ほっとした私までも。
子供たちも大慌てだ。
「がっはっは!今日は祭りだな!」
そんなおじさんの声で広場に歓声があがる。
「アルフィリッタちゃんだってね?私たちもアルフィちゃんって読んでいいかい?」
「あいっ!」
「あらまあ、ほんとう、賢いのね!」
「そいじゃ、遠慮なく。さあ、アルフィちゃん御披露目の祭りだいっ!!」
酒を!料理を!
持ってこい盛ってこい!
女性たちが広場を飛び出してそれぞれの夕飯を持ち出しにいく。
男性たちはお酒を取りに走り、テーブルを取りに走り、大忙しだ。
私たち家族の不安は必要などなかったよう。
村の人たちの大歓迎おおはしゃぎに驚き涙もおさまった。
本当に、私は素敵な家族に、村に、恵まれたようだ。
夕焼けに染まり始めた空の下で、アルフィリッタとしての初めてのお祭りが幕を開けた――。
2015/3/11 編集しました
魔法→魔術
今後も入れ替わる可能性あります、スミマセン。




