第五話 理由から始まる真実
「どういう経緯であの神社に行ったのか説明してもらえる?」
淡々とした口調で楓が問い詰めた。家へと続く道の途中には一つの長椅子が置いてあり、その塗装は剥がれていて、木材のところは黒い染みがあった。神楽と楓の二人はぼろぼろの長椅子に腰を落とす。
「そ、れは・・・言えない」
神楽は言葉を濁らせ、忙しなく目線を動かした。全く落ち着きがない様子に、楓は複雑な心境をもてあましながら、強い口調で攻め立てた。
「ねぇ、どうして言えないのさ。罰が怖いの?」
「・・・・・」
予想どおり、返事は返ってこなかった。
黙り込んでしまった神楽を見つめて数分。楓は溜息を零して沈黙を破り、降参するようにうなだれた。
「・・・わかったよ。親父には言わないからさ」
「!!・・・・・・ふぅぅ」
弱弱しくもしっかりと宣言されたその言葉に神楽は安堵の息を漏らし、いまだとばかりに質問を投げる。
「__ねぇ、楓。あなたに「あの時」の記憶はある?」
焦燥と期待で鼓動はしだいに速度を上げた。
(返事は分かっているはずなのに、どうして聞いたのだろうか。
求めるものは“皆無”に決まっている。そうでないと________。)
話をそらされたことに軽く苛立ったが、答えなかったとしても先の展開が読めていたので、しかたなく楓は返答した。
「・・・結局僕の質問は無視かい。まぁ後ででいいや。
『あの時の記憶』・・・なんてものは・・・無いよ。
意味解んないし__________」
早口で無表情に返されたその答えに嘘は含まれていないと思っていが・・・・
「_____なんて、言えるわけないじゃないか」
という一言で一転した。
「嘘、でしょ・・?っ・・・覚えているの!?」
額に冷や汗を浮かばせて動揺を隠せない神楽を見つめながら、楓が続ける。
「うん。僕、その記憶があるんだ。今まで黙っててごめん。でも、鮮明に覚えているわけじゃないんだ。
朦朧と霞がかっていて・・・・。何かのきっかけがあれば脳裏によみがえるんだ。静止画が一枚、一枚と、ね」
その衝撃的な事実に、神楽は驚愕した。
(・・まさか楓に記憶があるなんて・・)
胸が締め付けられた。鼓動はますます速くなり、息も苦しくなっていく。
(・・完全じゃないといっても、もし記憶が戻ったら・・)
傍で待ち受けている壮絶な難題がゆっくりと輪郭を描き始めた。神楽の異変に気付かないまま、楓は更につづけて語りだした。
「あとさ、僕・・。大切な何かを忘れているようなんだ。
愛しいような、狂おしいような・・・そんな何かを。
・・おかしいよね。胸にぽっかり空いた穴が埋まらないんだよ。」
・・・ほんとに、僕、どうしちゃったんだろう。変なの。
自嘲するように小さく吐いた楓の言葉を合図に、ぽつぽつと、無情な雨が降り始めた。




