第五十七話 終業式
「以上で、説明を終了とする。全員羽目を外し過ぎるなよ。三月には入試が待っているんだ。宿題や提出物は早めに終わらせること。危険な行動は慎むこと。では、学級委員号令を」
「起立、姿勢、礼」
「ありがとうございました」
一学期の終わりと夏休みの開始の恒例行事である終業式を終え、学級のみんなは意気高揚に雑談をしながら帰宅の準備を始め出した。蝉の声も大きく響きだしてきた七月。まだ最高潮にならないはずの音たちだがそろそろ煩く思えてくる。私は先生の長い話の所為で固まっていた体を元に戻すように、軽く伸びをした。
「やっと終わった~~~!蘭!夏が来たね。神社の掃除が大変だなぁ」
「あー・・・鈴は虫が嫌いだもんね。でも夏休みはお祭りや花火があるじゃない!規模が小さいやつだ ど・・・それを楽しみに掃除をがんばろうよ!!」
「それもそうだね。でも今年の夏休みは勉強しなきゃいけないから、あんまり遊べないなあ。」
「もう入試まで半年と少ししかないんだっけ?たくさん遊べないのは私も嫌だ~」
「ねー。あ!そうそうお姉ちゃん。演目の練習はいつから始めるの?」
「来週ぐらいには始めようかな・・・。勉強づくしとは言ってもお祭りとか楽しみだね~!よしっ、
がんばろう、鈴!」
夏の風物詩、お祭りと花火。
子供も大人も胸が躍る一夜の遊戯。私もお姉ちゃんも幼いころから毎年舞台での演目に参加している。今年もいよいよ開催日が近づいているけど、私は素直に喜べなかった。私の目の前で頬笑みを見せるお姉ちゃんの顔は青白く、強い夏の日差しに照らされているのに暗かった。
最近、お母さんがお姉ちゃんを監禁する回数が去年にも増して多くなってきているような気がする。でもたぶん、それだけではなくて、まだ他にも元気を奪っている理由があるのかもしれない。しかし、お姉ちゃんを助けたいけれど、悩みを分かちたいけれど、私にはできないのだ。
お姉ちゃんが大好きで、大好きで、大切だからこそ、踏み込めない。踏み込んではならない領域がある。踏み込めばもう、戻れないうえにお姉ちゃんをまた傷つけてしまうから。お姉ちゃんに嫌われてしまうから。だから、助けることができない。愛するゆえに、大切な人を守ることができない、無力な自分。
嫌い。自由と家族の愛情が保証されているとわかっているからこうしてのうのうと生きている自分はなんと醜くて冷酷なのだろう。
「・・・鈴?どうしたのぼーっとして」
「ううん。なんでもないよ、ごめんね。暑くてつい意識がとんじゃうの」
「そっか。熱中症には気をつけるのよ」
「は~い。・・・・それより紘斗は?」
「先生に呼ばれてどっかへいっちゃったわ。一緒に帰りたかったけど、先に帰ってだって」
「明日から夏休みだし、いつも会えるから大丈夫だよ。がっかりしないでお姉ちゃん」
「そうね」
帰る仕度を終えたので靴に履き替えて校舎を出たら、蝉の声がより鮮明に大きく聞こえた。今年の夏は遊んでばかりはいられないけど、一生に数少ない子供の夏休みを大切に過ごしていきたい。
白く分厚い入道雲を眺めながら私はこれからさきの眩しい夏を少しだけ想像してみる。なにかが起こりそうな、そんな予感に期待と不安で胸がいっぱいになった。




