真昼の月
これは化物と僕の、ほんの一週間程の物語。
放課後。夕日の差し込む教室に、ひとりの少女の声が響いている。
「真昼の月を見たことがあるかしら。太陽が昇っている時でも、月は私達を見降ろしている。普段、それは目に見えないもの。否、見ようとしないだけなのかも知れないわね。」
物静かで優しい声。音の残響は耳に残ることなく、さながら花火のように一瞬の華夏焼きとともに消えていく。
教室には、僕と彼女の二人きり。
僕は自身の椅子に腰掛けて、彼女の声に耳を傾ける。作業用の音源という訳では無いが、彼女の声を聴いている時が僕にとって一番心が落ち着く時間だ。
妓詠真。僕の隣で話している女の子の名だ。
私立青代高校の一年生であり、僕のクラスメイト。部活動には所属していないが、学業の成績は優良そのもの。おまけに人当たりも良い。透き通る様な白い肌に、艶やかな黒髪がよく似合う女の子だ。
漫画や小説などでありがちな、お嬢様の様な女の子。僕含め、周囲の人間は皆そう思っていた。彼女を見る目が変わったのは、少しだけ前の事だった。
「今まで何とも思っていなかったけれど、一度味を覚えてしまってはダメね。病みつきになってしまいそう。」
妓詠はそう話しつつ、僕の首筋に手を伸ばす。
彼女の細い指先が、僕の首をそっと触れる。少し伸びた爪が、優しく撫でる様にして首の付け根から喉元まで伝って行く。
首筋に感じるくすぐったさと異物感に、思わずぞくりとしてしまう。相手が彼女でなければ、直ぐにでも振り払ってしまうだろう。
「さて、もう直ぐ日が暮れる。お喋りはこのくらいにして、早いところ済ませましょう。」
妓詠は、僕の耳元に顔を近づける。
「ふふ、貴方で良かったと、心から思っているのよ。それじゃあ……。」
頂きます。
そう言って、彼女は僕の首筋に噛み付いた。
頭が痺れ、身体中の力が抜けていく感覚。意識が徐々に離れて、眠りに着く直前の様な心地良さの中、少し前の事を思い出していた。




