プロローグ:魂の入れ替わり
――――またか。
ぐったりと横たわり生気を失った長髪の男の傍に、一人の青年がしゃがみ込んだ。
周囲には、男の仲間だったであろう遺体も転がっており全員の手首には、揃いの組紐が巻き付けてあった。
崖から落ちたときに岩にでも頭をぶつけたのか、はたまたそれ以外か。
辺りを見渡すと、近くに火縄銃が落ちていたことに気づく。
恐らく同士討ちでも起こったのかもしれない。
全員の後頭部からは大量の血が止めどなく流れ、真っ白い雪を赤に染め上げる。
そっと口元に手を当ててみるが男に息はなかった。
そして、襟巻を剥ぎ取るとそこにあったはずの銘文は抹消され、綺麗な肌が露わになった。
『黒坂天鳴』の器に宿った『迷い人』の魂が志半ばで挫折したのはこれで三桁を超える。
今回の魂の主は、ただ強情なだけの無益な存在に過ぎなかった。
「……」
たとえ何度死んだとしても、この肉体にはまた新たな魂が宿り別の人格として生を受ける仕組みになっている。
気持ち悪い輪廻に反吐が出そうだった。
空っぽな器と化した男の腕を乱暴に掴んでズルズルと引きずり遺体を運ぶ。
肩に抱えて持ち上げることもせず、岩石や木々に男の身体がぶつかろうとも青年は気にも留めなかった。
「……いつか、なんて来るわけないだろ」
誰にも聞こえないことをいいことに、ぽつりと悪態をつく。
苛立ちをぶつけるように唇を噛み締めると、生暖かい液体が口内に広がった。
鉄の味がした気がするが味覚はとっくに失われているので気のせいだったかもしれない。
男の仲間たちの遺体はその場に残して、青年は凶物となった魂の器を引きずったまま雪山から去っていった。




