シークレット6
麻子視点
麻子が教室に入るとザワザワと教室内が騒がしかった。黒板前に何やらクラスメートが集まっている。麻子はかきわけた前に立った。
――中田麻子は桜井加奈の「コピー」で「オリジナル」ではない。
しかも、桜井加奈の兄である桜井昴と付き合っている。
――父親はクローン研究所の中田雄二。
黒板に書かれていたそれを、麻子は消す。それを、一人の女子生徒がニヤニヤとしながら見ていた。麻子の反応を見て楽しんでいるのだろう。
まさに、悪女そのもの。
華奢な体。
濃紺の瞳。
肩までのボブ。
この子は先月、転校してきた米田愛理。
麻子自身のことを不良品の「コピー」と見なして殺しに来ていた。優秀な遺伝子が欲しいと、昴のことも狙っているようだった。
どこまでも、欲深い女である。
「中田さん。この話は本当なの?」
「本当よ。だから、何?」
「でも、作られた人間なんて気持ち悪くないか?」
クラスメートから聞こえてくる批判の声。
同情をするクラスメートも。
それが、麻子の心に突き刺さる。
それなりに、仲がいいと思っていたのに。
――聞きたくない!
麻子耳をふさいだ。
「よくも堂々と生きてられるわね」
愛理が彼女の耳をふさいでいる手をはずす。
「その言葉、そのまま返すわ」
「だからと言って、人から奪い取ることがいいわけないでしょ!」
「これからは、賢い子だけが生き残っていくのよ」
「あなたとは話にならないわ」
麻子は鞄を掴む。
これ以上、あなたと話すことはないといった意思表示だった。
そのまま、教室をあとにした。
昴視点
「麻子?」
教室を出ると丁度昴に出会った。この階にある図書室の帰りのようである。
心配そうにこちらを見ている。
全てを包んでくれる優しい瞳。
その瞳を失いたくない。 昴が自分を愛してくれている証拠。
しわくちゃのおばあちゃんになるまで傍にいてほしかった。
「どうかしたのか?」
「転校生の米田さんが私は「コピー」だって。賢い子を産むのは、当たり前だって」
昴の姿を見て安心したのだろう。大粒の涙を流す。
そんな彼女を抱きしめる。
宝物を扱うように。
壊さないように。
「僕はね。賢い子を産むことが正しいとは思えない」
そこは、同意見だと伝えた。
「それを聞いて安心したわ」
「米田愛理か。調べみる必要がありそうだ」
昴は麻子を抱きしめたまま声に出す。
「昴?」
麻子が不安そうに見上げてきた。きっと、今、物凄く悪い顔をしている。
麻子に見られたくなかった。
「とりあえず、今日は帰ろうか」
昴は麻子の手をとった。
*
今の時間は真夜中の二時。
麻子は目を覚ました。隣を見ると昴が何か携帯で検索をしている。まさか、彼がこの時間に起きているとは思ってもいなかった。
何をしているの? と麻子は昴の携帯を見る。完全に目が覚めてしまった。このあとも、眠れそうになる。それに、調べてくれているのは、見る限りで麻子自身のことについてのようだった。
それを、無視するわけにはいかない。
「情報屋?」
検索ワードには「情報屋」の文字。
どうやら、愛理に対する対策を考えているようだった。
「うん。米田愛理のことが気になってね」
携帯を閉じて、パソコンの電源をつける。パソコンを開くのは久しぶりだ。
加奈が亡くなってからは、ゲームを作ることを止めてはいたが。
彼女が死んでから全てが色褪せて見えた。
白と黒の二色しかなかった。
今は色々な色が綺麗に輝いて見える。
そして、こうして、麻子と出会って再びやってみようかと気持ちになっていた。むしろ、そのような気持ちになって安心している自分がいる。だから、情報屋の検索をすることについては苦ではなかった。
終わってからでいい。
ゲームの制作について本を読み少しずつ再開してみようか。
前に進めたことの第一歩だと思うから。
麻子と一緒に楽しめればいいと昴は思った。
「昴、ここは?」
麻子がとあるホームページを指差す。
自分の中でピンとくるものがあった。
その感覚みたいなものを侮ってはいけない。
素直に従うことにした。
――町にあるカフェの情報屋「縁」。
あなたの「知りたい」を調べます。
相談は無料。
お気楽にお越しください。
「麻子の勘はバカにはできないからな」
「ここでいいと思う」
初めまして、相談をさせてください。
桜井昴と申します。
僕は中学三年生、彼女は中学一年生。
今日、私の彼女・中田麻子が転校してきた少女に狙われています。
首謀者は米田愛理。
彼女は「コピー」を不良品と見なし、殺そうとしたのでしょう。
彼女について詳しく知りたいです。
私たちは中学生であり、何の力もありません。
情報を持っていないでしょうか?
よろしくお願いします。
昴はキーボードを叩く手を止めた。
ピロン。
新着メールがあります。
二人でパソコンを覗き込む。
まさか、こんなに早く返事が来るとは思ってもいなかった。
昴はマウスを操作して、メールを開く。
桜井昴様。
依頼ありがとうございます。
あなたたちは中学生だということ。
できる範囲でお手伝いさせていきたいと思うので、明日、カフェに来てください。
情報を集めて整理しておきます。
ご来店お待ちしています。
パソコンの電源を切る。
「昴はパソコンができるのね」
昴のタイピングの速さに驚いたのだろう。麻子が目を見開いて自分を見ている。
「簡単なゲームが作れるぐらいだよ。目を閉じるだけでも違うから少し休もう」
「昴」
「――ん?」
「何でもない」
ただ、呼びたかっただけと麻子が、猫みたいにすりすりとすり寄ってくる。
昴は彼女の髪に口づけを落とした。




