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ウェイン・アポカリプス  作者: 佐々木 英治
ウェイン・アポカリプス1.1

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モニカの処分

 食事を終えて、一休みをして。5人は、夕方に魔法学院で待ち合わせの約束をすると、それぞれ一度別れることにした。

 ディアとアヤナは冒険者ギルドの施設で竹刀や防具を借りるのだろう。

 一方のウェインとエルは、学院の、柔道部の道場の門を叩いていた。

 対応に出てきた柔道部員に取り次いでもらって、柔道部主将を呼んでもらう。

 彼はバルベスと言う。レーン程ではないにせよ、巨漢で身体の厚みも太い、重量級だ。魔法使いとしての腕はあまり高くはない。スポーツ推薦で入学しているからだ。

 そう、魔法学院も『魔法』と『何か』を融合させた先の可能性を考えている。そのためのクラブ活動であり、スポーツ推薦である。クラブ活動が盛んになったのはアッシュが提言したあたりから、とのことだ。

 ウェインはバルベスにリハビリや基礎トレのために重りを貸してほしいというと、喜んで承諾してくれた。ウェインの体術は今は柔術がベースだが、一時期、柔道部で軽く訓練を受けていた時期がある。言わばOB的なものだ(段位は持っていないが)。

 バルベスは倉庫に取りに行ってくれる。

 エルはウェインの陰に隠れ、身体を小さくしていた。

「大丈夫だよエル。バルベスは顔も怖いしガタイもデカいが、悪い人じゃない」

「う……。私、おっきい人って苦手で……今は慣れたけど、最初はレーンのことも苦手だったし」

 と言うか、エルのレーンとの初対面は危うく殺されそうになっていたはずだ……

 バルベスはリュックなどを抱えて戻ってきた。

「はいウェインさん。これが手首に着けるウエイトで、こっちが足首につけるウエイト。そしてこのリュックには、ダンベルが何個か入ってます。負荷をかけるならこれくらいで十分でしょう。リハビリ中、給水はちゃんと取ってください」

「わかった。これ、しばらく貸しておいてくれない? 数日くらい」

「いいですよ」

「ありがとう」

「ウェインさんはスポーツ柔道の実力も初段くらいありますから、今度是非ここで昇段審査を受けてください。ウチの部の広告になります」

「俺の組み技のベースは柔術で、柔道はあまり訓練してないんだけどなぁ……」

「それでも少しの調整で初段くらい取れますって」

「時間に余裕ができたらね……今、教員免許で忙しいんだ。怪我のリハビリもあるしさ。じゃ、ありがとう」

 ウェインとエルは道場に礼をしてからその場を少し離れた。そこで手首足首に重りを着け、ダンベルの入ったリュックを背に背負う。

「うん、なかなかだ。大丈夫かエル?」

「へ、平気……」

「場所はそうだな……学院の外階段がいいだろう」


 二人で学院の外階段にやってきた。人の気配はない。トレーニングにはうってつけだ。

 一階から四階まで階段を上がっては、そこから下がってくる。それの繰り返し。

 実はこれ、階段を上がるのは難しくない。単純に力が必要となるだけだ。だが下りは違う。足元、足先のバランス感覚が必要になる。手すりはあるが、もちろんそんな物には頼らない。スムーズに上り下りできるまで、ひたすらこれを繰り返すのだ。

 同時に階段を上がり始めたウェインとエルだが、四階まで上がる時はほぼ同時に到着する。だがそこから階段を下りる時は、ウェインはスピードが出ない。

 まだまだだ。寝た切りの前の状態に戻すには、二、三日はかかるだろう。

 一方で何往復かしたエルは、体力、筋力、心肺能力などが限界に来たようで、水筒を出し水を飲んで休んでいる。

「エル、ゆっくりでいいぞ。自分のペースでな。競争じゃないんだから」

「はい」


 黙々と、ウェインは上り下りを繰り返した。エルも休み休み頑張っている。


 ウェインも途中で休憩をしながら、水を飲み、何度往復しただろう。数えてはいなかったのだが、

「おっ!?」

 意識せず階段をスムーズに下りることができたのだ。なんとなく、全体的に簡単に階段を降りることができるようになってきている。

「はー、もう少しだなぁ……」

 ふと我に返ると、夕日が沈もうとしていた。

「あ、エル! もう夕方だぞ! モニカに会いに行ける!」

「わ、本当!」


 二人は走る体力はなかったが、ゆっくりと就職課へと向かった。


*


 就職課に入ると、モニカ以外のいつものメンバーが集まっていた。

「おー、遅かったじゃん」

「ディア。リハビリに熱中してしまってな。で、モニカは?」

「どうなるかはまだわからないわ。でも警察署や留置所に送致されるにせよ、自宅謹慎にせよ、一度は必ずここに寄るって担当のスタッフさんが言ってた。だから待ってるの」

「そっか……」

「汗、凄いわよ」

「あー。やっちゃったな。新しい制服も買わなきゃいけないのにすっかり忘れてた。エル、明日もあのトレーニングするかい?」

「うん、ウェインが良ければ」

「だったら体操服で集合だ……いや、明日の午前中は教育実習があったな。一度着替えることになるか……」

 色々と面倒である。

「そうだ、ディアとアヤナの模擬戦はどうだった?」

 アヤナがニッコリ微笑んだ。

「へへー。いい結果だったよ。このぶんじゃ剣でウェインを抜かしちゃうかも」

「そんなに凄かったのか?」

 レーンが口を開いた。

「ランニングの終わりに覗いてみたんだが、アヤナの動きは段違いに良くなっていたね。絶賛できるほどじゃないが、バックラーもあるからアヤナが守備に専念すればウェインでもアヤナを打ち負かすのは難しくなっているだろう」

「へぇー。じゃアヤナ。今度模擬戦な」

「うん。ウェインは早くリハビリだよー」


 一通り情報交換をすると、自然と話すことがなくなる。今はモニカを待っている最中なのだ。ウェインたちは壁際の椅子に座りながら、ただ、ただ、待った。


 それから30分程したであろうか。就職課は人の出入りがあるが、外からドアがノックされた。ドアが開いて、担当のスタッフと、後ろにモニカがついてくる。

「モニカ!」

 ウェインが呼ぶと、モニカはハッと顔を上げ……走ってきて、ウェインの首元に抱き着いた。

「ウェインさん、ウェインさん! 良かったです、私、私……」

「よしよし。独房に入れられてつらかったな」

「怖かったですよぅ……!」

 担当スタッフは、笑顔で言う。


「皆さん。今回の事件でモニカさんの処分は『注意処分』となりました」


「へ?」

 一転して、軽すぎる処分だ。

「当初、当面は自宅謹慎という意見が多数だったんですが、レオン王国軍から伝令が届きまして、ウェイン隊には世話になったから格別の配慮をお願いすると」

「へぇ……」

「報告書を読む限り、結果的には最善の人選になったわけですし、パーティメンバー全員の嘆願書もありました。こうなるとモニカさんを下手に処分できませんからね」

「何よりです。感謝します」

「私はただの伝令です。感謝なら、アーク先生ら関係者たちに」

 モニカはウェインの首に抱き着いたまま、うわごとのようにウェインの名前を繰り返している。

「モニカ、注意処分だってな」

「はい……、はい……。私、これで社会的にも許されました……」

「心配したんだぞ」

「ごめんなさい。ごめんなさい……、色々、迷惑をかけちゃいました……」

 ウェインに抱き着いて泣いていたモニカだが、突然、ハッと離れた。

「どうしたモニカ?」

「いえ、あの、エルさんの見てる前でこのような失礼な行動は……」

 気を利かせすぎだ、この二番弟子は。

「モニカ」

 ウェインは懐から、革の袋を取り出してモニカに差し出した。

「なんです、これ?」

「報酬。お前の取り分だ。キッチリ皆と同じ金額がある」

 中には金貨がいっぱい入っている。モニカは涙を拭くと、無理矢理に笑顔を作った。

「私、働いて報酬を得るのって初めてです」

「良かったな」

「はい!」


 レーンが片手を上げて、ひらひらさせた。

「皆、この後どうする? 夕食にでも行かないか?」

 ディアはぽんと手を叩く。

「賛成賛成。めでたい日だからね、お酒も飲もう」

 ウェインとエルも肯いた。

「これで一連の出来事がやっと片付いたからな。祝杯だ」

「うん。やっと一段落だね」

 アヤナが、言葉を漏らした。

「はぁ……やっと肩の荷がおりた感じよ」

 全員一致で、夕食は外に食べに行くことになった。




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