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ウェイン・アポカリプス  作者: 佐々木 英治
ウェイン・アポカリプス1.1

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ブレーナー・ブレーナー

 その夜も、街道沿いにある近くの村に滞在できた。段々とラクスの近くになってきているので、大きな宿屋がある。ギリギリで、ウェインたちだけではなく軍人たちも宿に泊まることができた。

 ライス、ローストビーフ、サラダ、スープ、フルーツにミルク。良いメニューだ。

 これでカドニ村を出てから二日経つ。街道を進んでいるので、商人たちと行きかうことも珍しくなくなってきた。


 食後の自由時間、ウェインはエルとアヤナの部屋に行って、ノックをした。

「ウェインだ。お邪魔していいかな?」

「どうぞー」

 入り口付近の椅子に座る。エルとアヤナは湯上りで、ベッドに座っていた。なんだかとてもいい香り。なんで女の子はこんな香りがするのだろうか。謎だ。

 ウェインは切り出した。

「これはアヤナの能力のことなんだけど。剣はこれからとして、アヤナは行軍のサポートに向いていると思う」

「そうなの?」

「ああ。索敵魔法を半径100メートルは、なかなかのものだ。俺でも頑張って半径300メートルくらいが限界だからな」

「いや、全く褒められてる気がしないわ」

「でもレーンやディアは半径5メートルとかだぞ」

「使い物にならないじゃない」

「だから全方向でなく、指向性を持たせて使わせる。一方向に決めれば、射程は10から20メートル程度には伸びる。岩場の多いところとか、屋内戦では重宝するだろう」

「それを私が教えるって話だったわね?」

「ああ。アドバイスは俺もするが、アヤナがまず、教えてみろ」

「って言っても、私はウェインに教わったやり方しかできないんだけど」

「それでいいよ」

「ふーん」

 今度は怪訝そうなアヤナの隣にいるエルに、声をかける。

「エルは、行軍時に幾つかの伝染病なんかを防御する防疫フィールドを形成しているよな?」

「うん」

「それを、アヤナに教えてほしいんだ」

「それは構わないけど……もとの病気を知らないと対処できないわ」

「『病原菌の侵入を許した』って情報さえアヤナが察知できれば、まずはそれでいい。現在のところ防疫フィールドは、俺とエルしか使えない。モニカは座学優先だし。だから今回みたいに俺が怪我すると、エル一人が防疫フィールドを張ることになり負担がかかる。だからアヤナにも覚えてもらいたいんだ」

「そう、それならいいわよ」

 しかしアヤナは不服そうだ。

「なんか私ばっかり覚えることいっぱいじゃない?」

「剣も磨かないとならないしな」

「うわぁ……」

 引きつるアヤナと、笑顔で言うエル。

「大丈夫よ、アヤナ。貴方の魔力はとても綺麗で整っている。きっとウェインが整備してくれたのね。これならどんな魔法でもある程度はマスターできるわ」

「それ皆に言われるんだけどさ、要はスペシャリストには向いてないってことよね? 私ってほら、騎士だから。馬上でも炎の中級魔法の連射ぐらいしたいのよ」

「それはちょっとでも心が乱れると、馬が怯えて落馬の危険性もあるな」

「だからウェイン、そう言わないで、中級魔法教えてよ」

「原理は教えただろ。だがアヤナの素の魔力じゃ中級魔法には届かない。結界とか拡張詠唱法なんかの力を借りないとね。でもそんなことしたら、やっぱり馬は怯える」

「魔力そのものを上げる方法は?」

「個人差があるが、調律・錬成・努力。そんなところかな」

「あー、私には向いてないー……」

 エルはニッコリ微笑んだ。

「だからこその、索敵魔法を教えるのと防疫フィールドの学習でしょ? 大丈夫、アヤナならきっとうまくできるわ」

「もちろん困ったら俺に相談してもいい。やってくれるか? 一番弟子」

 アヤナは不服そうに、肯いた。

「これ以上モニカちゃんと差が開くのもイヤだしね。やるわよ。そして剣だって、ディアのレベルまでマスターしてみせるんだから」

「剣については、お前に癖がある。あと無駄な動きが多いんだ。予備動作が大きい。『瞬活』を使ってディアのスタイルをまず真似てみろ。いい勉強になるはずだ」

 ウェインは念じてから、アヤナとディアの比較イメージを創出した。光る球体状に精製する。

「これを見ればいいのね。わかったわ。ラクスに戻ったらやってみる」


 そこでエルが声を上げた。

「ねえ。ウェインは私に何か課題は出さないの?」

「エルは黒魔法のセンスはほぼゼロだからなぁ……。俺に出せる課題は少ないが……索敵魔法はどれぐらいできる? アレ黒魔法寄りの技術を多く使ってるけど」

 エルは軽く肯いた。

「一応、練習したわ。半径50メートルぐらいだと思う」

「白魔法オンリーのセンスでそれって、相当なものだな」

「種類は、アクティブレーダー、アンダーグラウンドソナー、サーモ、二酸化炭素……これぐらいかな」

「いいね。アヤナのサブとしても優秀じゃないか」

「そう? 嬉しいな」

「まあエルは、何はなくとも体力と白兵戦だ。10秒間敵の攻撃を防ぐだけの白兵能力。逃げる時、行軍の時の体力。そもそもエルは身体が小さいし足が遅いだろ。うまく筋肉をつけてカバーしなければならない」

 10秒間、敵の攻撃を避け続ければきっと仲間がフォローに来る(来なかったらチームそのものが詰んでいる)。また格闘戦になって武器を奪われてもいいように、エルはナイフすら持っていない。普段は特殊警棒を持っている。

「ウェインはラクスに戻ったら回復を待ってリハビリでしょ?」

「ああ」

「だったら、それ、私も一緒にやっていい?」

「いいよ。でもつまんないぞ。手足に重りを着けて、リュックに砂とかを詰めて、階段を上ったり下りたりするだけの繰り返しだ」

「うん。それでいい」

「それであと瞬発力は、この前の合宿のような感じでやるか、魔法学院の陸上部に混ぜてもらってもいいかな。エルに言えることは、それだけだ」

「うん。私、頑張るね」


「じゃ、俺は行くよ」

「うん。じゃあね」

「おやすみー」


 エルたちの部屋を出て、今度は自分とレーンの部屋に入る。

「レーン。ちょっといいか?」

「なんだ?」

 レーンは右手だけで倒立をしながら、腕立て伏せをしていた。器用、かつパワーとバランスのある男だ。

「ブレーナーの襲撃のことなんだけど」

「ああ」

「あいつらが、例えばファントムに依頼されて俺を殺そうとしてたとしよう」

「うん」

「だが、あいつらはどうやって状況を把握したんだ? すぐにニール王国から通信妨害が入ったと聞いたが」

 レーンは片手倒立の腕立て伏せを続けたまま、応える。

「これはファントムの依頼だとすれば、の話になるが。多分、瀕死のウェインがファントムに出会って、ファントムが逃げてから結構すぐに通信したんだと思う」

「ほう?」

「近くにいたレオン王国軍が来て、それから俺たちがラクスに引き返して、すぐにブレーナーたちと遭遇した。これは予め情報を交換し続けていて、そこからゴーサインをすぐに出したと考えるのが一番納得がいく」

「そうだな」

「だいたいファントムとウェインが会うなんて、知ってるのはファントム本人とモニカだけだろう。だがカドニ村でディアが調べた限りでは、モニカは他に何もしていないようだった。だからもしファントムが自分の窮地に陥ったら、と考えた時の援軍、ないしは口封じだろう」

「なるほどな。……レーンはブレーナーのこと知ってるように聞こえたが?」

「ニール王国の傭兵時代に、名前と若干の経歴だけな。腕はやたらに立つと評判で、俺と同じフィジカルに恵まれたタイプだと聞いた。だが技術は格段に向こうのほうが上だと思い知らされたよ。年齢は20台半ば。カネ次第で残虐な仕事も引き受けるらしいが、それが性格なのかカネ次第なのかはわからない。あまり仲間を作るタイプではないそうだが、アイカという女スカウト……俺たちで言うところのディアみたいなのはかなり古くから組んでいるらしい」

「へぇ」

「そして経歴だが、なんでも捨て子で拾われ、国籍も戸籍もないらしい。苗字すらなく、書類を書くときはブレーナー・ブレーナーと書くんだと。戸籍がないってことは、国家からすれば把握できてないってことで、警察からは嫌われているようだが……まあ数人がかりくらいで逮捕を試みようものなら血の海になる」

「そりゃ、あの突破力があるもんな」

「本人は槍も使えるようだが、両手持ちのグレートソードを愛用しているらしい。俺のバスタードソードよりも、ちょっと長くて重い剣だな。鎧は魔法の加護を受けた良質のもので、余程の武器と達人でないと歯が立たないと言われている。魔法を弾く楯を見つけたと噂になっていたが、今回楯は持ってなかったな」

 まるっきり弱点がないではないか。


「アイカって女の方は?」

「彼女も剣はかなりの腕前を誇り、魔法も各種役立つものが使えるらしい。本職はスカウトで、危機察知などがメインとなる。……こっちは俺やウェインでもなんとかなりそうだ」

「そうだな。しかしあのブレーナーってヤツは異次元だ。フル装備したレオン王国軍を撫で切りにする光景なんて、見たの二回目だぜ」

「一回目があるのかい?」

 自覚があるんだか、ないんだか。

「一回目はドライ砦の東。俺とレーンが初めて戦う前の直前だよ」

「あー、そういや、そんなこともあったなぁ」

 レーンは右手倒立をやめ、今度は左手だけで倒立し腕立て伏せを始める。

「しかしウェイン。俺のあの時は夜でレオン王国軍は連携取れてなかったが、ブレーナーの時は兵士が次々にかかっていったが全てやられた。多分ブレーナーのほうが凄いよ」

「でもさ。魔法のシールドで防がれたり、パリィされたり、鎧に阻まれはしたが、上級魔法を当てたのにあいつは動けたんだぜ? もし今度があったら、極大爆発魔法を使うしかない。人を一人倒すのにそこまで使うっての、異例中の異例だ」

「ファントム戦で使ってたじゃないか」

「あれは人間とは言えんだろ。ショートソードを腕で弾くようなヤツだぞ」

 ファントム戦を思い出し、ふと、レーンに聞いてみた。

「なあレーン。もしもまたブレーナーと戦うとして、お前は締め技や関節技を狙えるか?」

 レーンは軽く首を振った。

「面白いとは思うし、実際、この前も試そうかと思った。だがあのグレートソードをかいくぐって組み技の距離に入れない。鍔迫り合いもさせてくれなかったからね。それに相手の寝技が未知数だ。年齢からして俺より数年間修行を積んでいるのだから、剣だけではないと思うし」

「そうかぁ……」

「ただ一つ、気づいた。俺に言えたことじゃないが、ブレーナーはほとんど魔法が使えないようだ」

「ほぅ?」

「魔法攻撃は全くしてこなかった。ウェインの上級魔法をパリィで少し弾いた時も、あまり『圧』を感じなかった。ウェインが最初に使った、風で相手を遅くする魔法もブレーナーのパリィでなくアイカの魔法で破った。だからブレーナーは典型的な戦士タイプだろう」

「なるほど。隙は魔法にありそうだな……。ただ、さっき話した噂の……」

「『魔法を弾く楯』」

「それだ。まあ初級の魔法程度なら弾けるだろうが、上級魔法でどうか。いや、極大上級魔法でどうか。魔法学院にもそんな楯の話は伝わってないぞ。だからたかが楯一つに、そんな絶対的な力はないと見る」

「俺もそう思う。むしろ魔法使いのウェインと戦うってのに楯を持ってこなかったのは、実は楯の話はまるごと嘘……抑止力のためかとも、思っている」

「はー」

 レーンと話しているとなんだか頭が良くなってくるような錯覚を覚えるから不思議だ。

 とそこに、廊下からディアの声が響いた。


「レーン、女のお風呂は終わったよー。気持ちよかったぁ」

「お、あいたようだな。じゃ、俺も風呂入ってくる」

 レーンは立ち上がって、こちらを向いた。

「ウェインは……肋骨の骨のヒビはともかく、まだ外傷あって風呂には入れないな」

「うん。羨ましい……」

「エルに身体を拭いてもらうといい。ちょうど薬草とガーゼと包帯を交換するんだろ?」

「そうだな……」

 エルはあくまで『白魔法』のスペシャリストで、別に外傷の手当てをする看護師なんかではない。が、自然とこういう扱いになっている。

「エルをこの部屋に呼んできてやるよ。俺が風呂から上がるまでに、交換しとけよ」

「はーい」

 外傷の手当てだけなら、戦場経験が長いレーンのほうが恐らく長けているだろうとは思っていた。でもウェインはエルのほうを選んでいる。

 まあ当然と言えるだろう……。




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