まだ子供
ショートカットを続け、再び街道に戻る。ラクスから随分離れたので、もうあまり人と行きかうことはない。
特に危険に近づくわけでもなく夕方頃には街道沿いの村に到着できた。
ここで一晩過ごせば明日はカドニ村だ。専用の宿屋はないが、民宿があった。そこでは二部屋しか取れなかった。広いほうの部屋を女性陣に回したが4人で雑魚寝になるので狭いだろうとは想像できた。だが我慢してもらうしかない。
ラクスの街から遠い小さな村だが、公衆浴場はある。一晩の滞在に問題はなかった。
しかし相変わらず、隣の部屋の声が筒抜けである。主にディアとモニカだ。
「ディアさんって身長体重、いくつぐらいなんですか? や、ほら、レーンさんに随伴するのにどれくらいの体力が必要かと思って」
「身長は170くらい、体重65kgくらいかな」
「ウェインさんより重いんスね」
「筋肉量があるからね。スポーツでも女子の階級はそれくらい。スポーツ柔道は今57kg以下級ってのがあるけど私じゃ無理。私の身長だと70kg級が普通よ」
「やっぱり体重、あったほうがいいんですか?」
「モニカはまだ成長期で身長がどこまで伸びるかわからないから、なんとも言えないけどね。まあ女子の一番下の階級が48kg以下だから、そこらあたりまで増量しといたほうがいいとは思う。カラダのキレが鈍くならないまでなら、脂肪太りでもいいのね。自分のベスト体重を知っておくといいわ」
「鍛えるのは上半身がいいんスか? それとも下半身?」
「万遍なく、だけど。どちらかと言えば下半身。でもモニカ、あとエルとアヤナもだけど、前やった合宿みたいにハードなのをやる時は気をつけなさい。一時的に生理不順とかになって、骨折しやすくなるケースがあるらしいの」
アヤナとエルの声も聞こえる。
「女って男に随伴するようにできてないわよね。生理痛とかで、一か月の半分近くはコンディション悪くなるし」
「……あれ? モニカちゃん、どうしたの?」
そこにモニカの、少し沈んだ声。
「私、まだ生理来てないっス……」
「あら」
「へぇ」
「ディアさん、生理っていつ来るんですか? 一年前に同い年の友人は来てましたよ?」
「いあぁ……個人差あるから。気にしなくていいんじゃないの? 20歳ぐらいまで来ない人もいるらしいし。あまりに来なきゃ、女性ホルモンが足りないとかの病気、ってのもあるみたいだけど。13歳なら……そろそろってくらいじゃない?」
「なんか私だけ子供みたいです! いえ、法的にも実際子供なのはわかってます。でも、なんだか仲間外れ感でいっぱいです」
「いあぁ……不便よ、生理って。体調悪くなるし……」
壁の薄さのせいだ。なんだか踏み込んではいけない領域の会話が聞こえてくる。ウェインとレーンは顔を見合わせた。互いに、気まずい。
再び、アヤナとエルの声だ。
「エルの魔法とか医学とかで、何かわからない?」
「私は婦人科は専門外だから……外科と内科を少し齧った程度よ」
ディアの声。
「魔法学院って、医者の技術とかも教えてくれるの?」
「基礎的なこととか、有名な病気とかだけよ。それ以上は医学部として別個にあるし、病院の下部組織で色々覚えないとあまり治療効果が望めない。白魔法で『どう治せば』いいのかを知っていると、格段に治療効果が高くなるの。私は習ったから狂犬病とか破傷風とかは治せるわ。後は蚊とかが媒介する幾つかの伝染病とか」
「毒は?」
「それも専門外なの。……冒険者の立場なら必要な知識だから、今度勉強しようと思ってるけど」
「へー、やっぱ魔法学院って凄いわね。おカネに余裕ができたら、一部履修生で入ってみようかしら」
「いいかも。ディアやレーンくらいの魔力の人でも、結構一部履修生いるわよ。だいたい皆、二つか三つくらい実用的な魔法を覚えて出ていくみたい」
アヤナの声だ。
「私も、なんだけど。ディアとレーンは高速詠唱法を覚えるといいって、ウェインが言ってた。ウェインに教えてもらえば学費タダで済むじゃない? 代わりにウェインは瞬活や格闘技、剣やスカウト技能なんかを欲しがってるし」
「高速詠唱法は便利ね。使いこなせれば、多分白兵戦のちょっとした隙に黒魔法を飛ばせるわ」
ディアが答えている。
「うん。最初にウェインと会った時、素手で模擬戦をしたけど、普通の打撃と同じくらいの速さで魔法が飛んできたわ。あんなの初めてだった……あそこまで行かなくても、攻撃のバリエーションが増えて便利だと思う」
女三人寄れば姦しいと言う。隣室での雑談は、夜が更けても続いた。




