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ウェイン・アポカリプス  作者: 佐々木 英治
ウェイン・アポカリプス1.4

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襲撃-4


 エルを後ろに、アヤナの愛馬『らっちゃん』に騎乗。それで軽く走らせたが予想より良かった。とても安定していた。

 最も、鞍はもちろん一人乗りだ。後ろのエルは快適ではないだろうけども。


 最前線では激しい戦闘が行われていた。


 ウェインは再び旋回して元の場所に戻ろう……とした時。皆がいる向こう側の方向に、馬に騎乗した女性が見えた。

 距離は離れている。馬自体は茶色っぽく特徴がないように見えた。

 女性。ざっくりアスリー師匠と同じくらいの年齢だろうか。しかし軍服は着ていない。鎧のパーツは着て見えているのに、よく分からない組み合わせだった。

 そして手に大きな弓……ロングボウを持っている。何かカスタムされているのか、普通の弓兵が使う物ものと少し違う気がした。

 ブラードに乗って、後ろにエルが抱きついてままで、ウェインは元の地点まで戻る。

「行けそうです! エルも大丈夫そう!」

 おお、っと。少し歓声が上がる。ウェインはアルテナ大尉に聞いてみた。

「アルテナ大尉。あちらの騎兵は? ロングボウを持ってますが、部隊として使えるなら」

 アルテナ大尉は軽く首を振る。

「すいませんウェイン中尉。彼女は民間人です。もちろん状況が状況なので少しは助けてくれるでしょうが……少し寡黙な方なので。ちょっと」

 小さな規模でもロングボウの部隊がいれば相当助かると思ったのだが。

 弓は一人だけだと戦力として数えにくい。何故なら、弓はそこまで精密に狙えない。そして実際に当たらない。

 もしこれが集団で運用され、多くの人間が『部隊』として運用されているなら、話は別だ。それはとても強力になる。多くの人間が同時に撃てば、その矢は狙ったエリアに降り注ぐ。別に精密に当てなくとも良いのだから。

 もちろんその弓兵にも。馬で近づいて、下りて、弓やらクロスボウで撃って、また乗って移動……と言う戦術はあった。しかしそれも人数が多いから効果を望めるのであって。やはり単騎では効果が薄い。


 単騎で馬に乗ったからと言って、揺れる馬上で弓を使えるはずもなし。

 馬と弓との技術をハイレベルで持っているならば別だろうが……そんな人間は滅多にいないだろう。


 と、その時エミア少尉がアリス隊の宿舎の中から、素早く走ってきた。馬上のウェインに近づき、差し出す。

「ウェイン様! いえ中尉! 『ボーパルマニューバー』を持ってきました!」

 ウェインは馬上から慌てて受け取る。

「少尉、ご苦労! 助かる!」

 先ほどのマリア少尉とそしてアスリー師匠は、なんだか不思議そうな顔をしていたが。

 ウェインは一度視線を右側に振ってから、ブラードを少し歩かせる。エルはウェインの後ろに抱きついたままだ。

 三人の女騎士『トライデント』(多分)を従えて、少し前に出る。最前線の防衛ライン、門の場所まで。この馬なら簡単に走ってくれると思った。その後の攻撃も離脱も、恐らくできるだろう。



「ウェイン様、行きますか?」

 緑色のセミロング、エミィが聞いてくる。青色の髪ソフィも、ピンク色のショートカット少女ルビィも、ウェインを囲むように配置し始めるが……

「トライデント隊、ちょっと待って」

 ウェインはそう言ってから、ディアに顔を向けた。指でちょいちょいする。

「突撃前の士気高揚だ。大声を出してみる。ディア、サクラお願い」

 ディアはにやにやしている。

「おっけー。ウェインって良い感じに、うさんくさいよね」

「ひっどいね」

 アスリーには少し微笑んで言う。

「師匠も。こう言う小汚いの、好きでしょ?」

「うん。大好き。……ついでに風の魔法使って『振動増幅』させる?」

「お願いします。でも、増幅はやりすぎないように。違和感は出したくない」

 他の皆はあまり事情が飲み込めないようだ。当たり前だ。こんな小汚い……いや小賢しいこと、教科書には載ってないし、やろうとも思わないし、環境も伴わないから。


 フェイは不思議そうな顔だ。

「先輩、何するんですか? 大声を出すって……」

「フェイ。俺が『行くぞー』って叫ぶから、その後に『凄い』とか『強そう』とか『素敵』とか、適当にポジティブなことを叫んで欲しい。ディアが叫ぶのを合図に、みんなで、わーって」

「は、はい。それなら……」

 そして馬上からアヤナを見る。

「アヤナ。俺たちが盛り上げるから、最後にアヤナが格好良いコト言って」

「なっ、何をするのよ」

「アヤナなら即席の方が良いと思う。流れに乗ればいい。最後に、テキトーに叫んで!」

「うん……うん?」

 そして三騎士にも言う。

「トライデント隊。そちらもお願いします」

「え? え? え?」

「ディアとかタニアとかがいい感じで叫ぶんで、ポジティブなことを叫んで下さい」

「は、はい……」


 背中のエルにも声をかける。

「エルもだ」

「え?」

「『白い女神が勝利をもたらす』とか、そう言うテキトーなのでいい。かっこいいやつなら、何でも。流れとかノリで叫んで」

「分かったわ!」

 少し挙動不審ながら、エルは返答する。


 ウェインは肯いた。

「ソフィア特務伍長。伍長は突撃後、指示ができるのだな?」

 ソフィはチャーミングなメガネ越しに肯いた。

「はいウェイン中尉。任せてください」

「よし! 任せる。そちらは、まずどう動く? 教えてほしい」

「はい。ジャベリンとトマホークがあります! 少し突つきます。一度、正面の門の右手側に入ります。それから左へ向けて、浅い角度で斜めへ入って、門やフェンスの辺りを攻撃。そのまま左側へ離脱します。一旦、それだけ。攻撃後は立ち止まらず、一旦ここに戻ってくるイメージで!」

「了解した!」



 ウェインは『ボーパルマニューバー』を片手に。

 ゆっくりと、正面に馬を進ませた。

 激戦が広げられている門やその横のフェンスまで、かなり距離がある。

 ウェインの左側に緑髪のエミィ。右側に青髪のソフィ。後ろにピンク髪のルビィ。


 ウェインは、エルを後ろに乗せたまま、少し馬を歩かせ……止まらせて。


 止まったまま、ほんの一呼吸。


 それから少し強めに、信号弾を上空へ放った。


 光り、輝き。少し音が響く。


 それから。


 思い切り。


 絶叫した。




「我が名はウェイン・ロイス!!

 魔法学院最強の大魔法使い!

 王国に愛され!

 天使に祝福され!

 国民全てを護る者だ!!

 これより『トライデント』隊と共に!

 悪魔どもを粉砕する!!

 吠えろ、同胞!

 今! 全てを!

 殲滅する!!!!」



 その絶叫の直後。

 ウェインの後ろから次第に、うおおおっと叫び声が響いてくる。何度も何度も、反復して。拍手も大きく聞こえて。

 それは周囲に、そして戦場へどんどん伝播していく!



「『ウェイン・ロイス』!」

「『ウェイン・ロイス』!!」

「最強の魔法使い!」

「彼が来てくれた!」

「そうよ、今はウェインがいるのよ!」

「行けるよっ!」

「ホールド!」

「『トライデント』!」

「殲滅!」

「かっこいい!」

「『ウェイン』!!」

「この位置を保って!」

「すげー。マジすげー!」

「先輩、頑張って!」

「ウェインさんは強いッスよ!」

「うぇいに、つよつよ!」

「押さえ込んで!」

「『トライデント』!」

「『トライデント』!」

「滅殺!」

「やべー、マジやべー!」

「そう、ウェイン中尉がいたんだわ!」

「『ウェイン・ロイス』!」

「『ウェイン・ロイス』!!」



 それは基地内。戦場の全てに伝播した。先ほどのアヤナがやったよりも、遥かに盛り上がる。

 続いてエルが、ウェインの背中に掴まったまま叫ぶ。



「『白い女神、エリストア・クリフォード』! 私も加勢します! もう少し耐え抜いて!」



 基地の中。爆発的に、雄叫びが上がった。

 任務上、常に防御的に戦っていたアリス隊……彼女らが攻撃に意識を向かせて、本当の意味で『戦う兵士』になった瞬間だった。

 悪魔の咆吼やら破壊の魔法の音が鳴り響くが。勝ち負けはともかく、今は圧倒的にアリス隊が流れに『乗って』いた。


 緑髪の女騎士、エミィは。馬上で驚いている。

「これ……こんなに士気が上がるなんて……。今まで見たこともないです……!」

 ピンク髪の騎士ルビィも驚愕していた。

「お兄さん……。凄い……!」

 比較的近いとこにいたフェイも、呆然としている。

「先輩。こんな……! こんなことができるなんて……!」


 この盛り上がり。

 別に、どうと言うことはない。

 最初にウェインが絶叫した直後。お願いしておいた『サクラ』が騒いでくれただけだ。

 具体的にはディアとかアスリー師匠が、全員を煽った。『強い』とか『凄い』とか『勝てる』とか。そんなポジティブなワードを、大声で連呼した。


 それは同調圧力。

 サクラのディアたちが、意図的に多数派を形成して、偽装した。

 人は『多数派の意見』に対しては、個人の判断力も鈍る。この『煽り』だけでもある程度は『流れ』をコントロールができた。

 しかも今回はもともと『下地』が出来ていた。既にアヤナが盛り上げてくれていたのだから。


 ウェインは馬上で『気流』を発動。その身体が神秘的な蒼い炎に包まれた。

 周囲は少し、息を飲む雰囲気があった。

 それからウェインは『ボーパルマニューバー』を天に掲げる。


 ……。『ボーパル・マニューバー』を発動。


 その『ボーパル・マニューバー』は、気流の光とも違う光を出している。

 パチパチと。

 バチバチと。

 明滅し、そして明るい光。

 鋭く、冷たく。


 ディアが呆然と、呟いた。

「あっ。あの、光は……!」

 ディアだけではない。ウェインの方を向いていたアリス隊員、全員が。その圧倒的な、神秘的な青白い光に圧倒されていた。

 『ボーパル・マニューバー』を光らせていた馬上のウェインは、アヤナに声をかける。

「アヤナ、アヤナ!」

「えっ!?」

「仕事! 仕事! お前の仕事! お前の声の威力は凄いんだ!」

「そっ、そうだった! えっと、ウェインは強くて……? 凄くて……? えっと、敵を倒す感じ……とか?」

 ウェインは強く言う。

「アヤナ、流れだ流れ! ノリと勢いで何か叫べ!」

 アヤナはコクコク肯いて。叫んだ。


「みんな! いっけえええええええ!」


 基地内の全員は。

 興奮と殺気。

 咆吼と熱狂。

 熱と闘争心と高揚感。


 それら全てで異様に包まれ、それは『悪魔』よりも遥かに強大な力となった。


 ウェインは手にしていた『ボーパル・マニューバー』を腰に差し、軽く叫ぶ。

「よし『トライデント』隊、行くぞ! ソフィア指揮を任せる!」

  馬を走らせ、段々とその速度を速めた。

 白馬の三人の女騎士『トライデント』は、肯くと、ウェインを固めるように追随する。





 そんなウェインの姿を、アスリーは少し意外に思っていた。

「へー……。ウェインって戦いでも、あんなに嬉しそうにするんだな」

 モニカは軽く返す。

「いえアスリー先生。前までは、あまり」

「ふーん……。ともあれ、アイツにもそんな一面があっても良いかも」


 一方でディアは、愕然としていた。

「さっきの。さっきの。『ボーパル・マニューバー』の光って……!」

 モニカが不思議そうに目を見せる。

「ん? ディアさん。どうしたんです?」

「さっきの『ボーパル・マニューバー』の光。アレは、間違いないわ!」

「?」


「そう、あれはマイナスイオンの光!」

「!?」


「凄い……マイナスイオンをこんなに上手く使って士気を高めるなんて……! 凄い……! 史上初かも」

「……」


 そこでアスリーは、隣にいたミュールに呟く。

「なあミュールちゃん」

「なんです、アスリー先生?」

「……マイナスイオンって、光るのか?」



「知りません……」






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