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ウェイン・アポカリプス  作者: 佐々木 英治
ウェイン・アポカリプス
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合格? 不合格?

 あんなに沢山の悪魔と戦った経験はアヤナにはなかったようで、相当疲弊していた。しかしこれもいい経験になったことだろう。

 肩で息をしているアヤナを心配そうに見て、エルがウェインのことをとんとんした。

「ウェイン、ウェイン」

「ん?」

「アヤナに回復魔法、かけていい?」

「んー。自力で回復するまでも見たかったんだけど……」

 アヤナが息も絶え絶えで声を出す。

「ウェインって、性癖がSなの!?」

 Sではなく。性癖は『黒髪ロング』なのだけれど……。

「違うって。回復にどれくらいかかるかも知りたかった、ってこと。……まあいいか。じゃあエル。回復魔法を頼む」

 エルはこくんと肯くと、簡単な呪文を詠唱し……生成した光をアヤナに染み込ませた。

 途端にアヤナが息を吹き返す。

「わぁ! これがエルの白魔法!? 凄い凄い!」

 そう。エルの白魔法を受けることなど、通常はありえないからだ。仮に上級魔法のお世話になるとしたら瀕死に近い状態だろうし。

 ウェインくらい魔法に長けていなければ、エルの能力など普通は気づかれない。


 あたりを見回しながら、ディアが言った。

「で、コレどーすんの?」

 魔法生物は生命が途切れると消滅するので、戦後処理はほとんどない。ただ、残るは空中に浮かんだ、黒い異界へのゲート(と言われてるモノ)。ウェインは言った。

「これに用はないよな? 封印しちゃうぞ?」

 レーンが聞いてくる。

「破壊するのとどっちが有効なんだ?」

「効能は同じだ。ただ、破壊は疲れる。ゲートは結構頑丈だからな。駆け出しの誰かにやらせればいいさ。どうせ壊しても湧いてくるらしいから」

「じゃあ封印で頼む。しかしこんなの見るの久々だ」

「これが『悪夢の草原』と言われる理由だろうね。理屈はわからないが、こういうゲートは珍しくないそうだ」

 ウェインは中級に属する封印魔法を唱え始めた。

 程なくして効果が現れ、ゲートは閉じ、瘴気は消え何事もなかったかのような空間へと元に戻る。


「こっちはこれでよし。アヤナ、怪我は?」

「大丈夫。エルの白魔法で治ったけど……もともとそんなに酷くはなかったわ。ウチの制服も守ってくれたみたいで」

「そっか。じゃあもう一つ。アヤナ、お前のサーベルは一体何なんだ?」

 アヤナはもう腰の鞘に戻してあるサーベルを、再び抜いた。

「私も詳しく知らないの。家の倉庫にあった中でデザイン重視で持ち歩いてたから。でも何か魔力は封じられていると思ってたし、今回悪魔に命中したら凄く効果があった」

 アヤナは貴族だ。倉庫と言ったって、一般家庭の倉庫とは違う。そこで、そこそこ価値のある物だけが眠っている倉庫の中から、当たりを掴んだようだった。

「サーベルのことは帰ったら詳しく聞いておいてくれ。それよりレーン、今後どうする? 能力査定と、チーム戦の適性。続けるか?」

 レーンは軽く首を振った。

「いや、もういいだろう。互いに、誰がどれくらい動けるのかはわかったはずだ。『悪夢の草原』から戻って、ラクスに帰ろう。今日の戦いのまとめは、今夜、どこかの村で寝る前にやろう。ここでウロウロしてるとまた敵と遭遇してしまう」

「わかった。じゃあもと来た道を引き返すってことで」


 来た道を戻り、街道まで戻ってきた。

 そこには来る時に出会ったレオン王国軍の軍人が数名、まだ駐留していた。どうやら任務らしいが、一個小隊の規模もないので、中で何かをするというわけではなさそうだ。単純にローテーションさせて、異常がないかどうかの確認だろう。

 その他に、マジックアイテムを売る商人が来ている。

「お客さん。体力回復の薬と魔力回復の薬。毒消し、各種揃えてますよ。見ていきません?」

 チラッと見たが、価格が高い。ご当地価格だ。ラクスなら半額以下で買えるだろう。

 5人はラクスの街へと戻る道を進んだ。


 陽が落ちてきたので、近くの村で宿をとることにした。

 そこは小さな村だが、ラクスの街に近いので専門の宿がやっている。男二人が一部屋、女三人が一部屋といつものように振り分ける。

 夕食後、お風呂にも入って後は寝るだけ……となった頃合いで、レーンは女性陣を男部屋に集めた。

 目的は反省会、今回の戦いの反省点の洗い出しである。

「じゃあ反省会だ。今日は二回、敵と遭遇した。一回目はワーウルフ、二回目はレッサーデーモンたち。うち一回目は、俺の二刀流のテストでほとんど倒した。だから問題は、レッサーデーモンのほうだな」


 ウェインは言う。

「最初から振り返ろう。まずは索敵、こっちが相手を見つけ、かつ全てを捕捉したのは早くて良かったと思う」

 ディアも肯く。

「うん。おかげで遠距離から魔法を連射されなくて、結果的に完勝の形になったわね。後はポジショニング。私がトップで、フォローにアヤナが入った。エルは後ろでウェインはその護衛って布陣だったよね。レーンはどっかでなんかしてた」

「正直アヤナをあんな前に出すつもりはなかったけどな。アヤナ、そのへんは?」

 アヤナは少し考え込む。

「うん。一度魔法をミニデーモンに当てたけど、一撃で倒せなかったから私はディアの援護に回ろうと思ったの。でも剣が効きにくいって話だったのにサーベルが凄い効果を上げたから白兵戦にシフトしたけど」

「剣が効きにくいって情報はいつ掴んだんだっけ?」

 ディアが言う。

「私よ私。先制攻撃でミニデーモンに綺麗に一撃入ったけど倒せなくて……倒すまで2発だったかな」

「情報が素早く共有できたのは良かった点だな。次に悪魔の魔法が来て」

「そ。正直あまり速度も精度も高くなかったし、ちょっと危なかったけど。エルの防御魔法に助けられたわ」


 ウェインは何度か肯いた。

「まあ悪魔の数が多かったからしょうがないかな。俺が上級魔法でも使って悪魔の数を一気に減らさない限り、相手の組織立った魔法を一度は受けるのはしょうがなかった。それに受けても、エルの防御魔法があったことは大きかったし」

「うん。そんでさ、後は私達が数を減らしていって……アヤナのサーベルが効くってわかったのもこのへんだったっけ? そんでレーンが私に補助魔法かけてくれたけど、アレはあまり効果はなかったなぁ」

 レーンが答える。

「魔力を武器に付与する補助魔法の基礎なんだが、なにせ普段は自分専用で使っている。ディアと距離ができちゃったから、飛ばしたら威力が微々たるものになった。まあ俺は補助魔法には向いてないってことだ。攻撃魔法も少し使えるが、魔法関係も訓練しておくよ」

 ウェインが言う。

「いざ実戦ってなったら援護の攻撃魔法も、補助魔法も、ばんばん行くから安心していい」

 ディアはピッと指を立てる。

「反省点としては、アヤナが突っ込みすぎたところかしら。レッサーデーモンの中級魔法を受けてた」

 アヤナが片手を上げる。

「下がるのが遅れて、集中攻撃を受けることになったわ。パリィとかで何とか頑張ったけど、ここで攻撃を受けちゃった」

「まあアヤナは前衛の経験自体少ないからしょうがないが、俺なら左右どっちかに振って、三匹をまとめて相手にしないようにする。敵の魔法一発一発を単独で相手にするなら問題ない。それとアヤナはあの距離なら魔法障壁で防御できたはず。基本は魔法障壁で防御しろ。アヤナのスタイルの場合、パリィは接敵の手段と思っていい」

「うー。今後修正していきます。で、それで、私達の『冒険者』としての力量はどうだった? レーン?」


 レーンは軽く微笑んだ。

「うん、予想以上に動けていたよ。合格だ。エルもアヤナも俺たちの隊に加わって良い」

 アヤナはぴょこっと喜んだ。このお姫様はわりとダイレクトに感情が出る。

「やったぁ!」

「アヤナはギリギリの合格だからな。もっと自分の武器を磨いておくこと」

「はーい」

「但し身体ができていないことも事実。エルとアヤナにはラクスに帰ったら2周間程の特訓を受けてもらう。体力と筋肉、心肺機能と反応速度をつけるためだ」

「特訓……うん、まあ」

「異論はあるか、ウェイン?」

「異論はないよ。危険だからやめといたほうがいいって意見は変わらないけど、二人が参加したいなら歓迎する。他のパーティに加わって死なれるよりは、俺が見れるぶんいい」

「良かった……」

 エルが胸をなでおろしていた。


 ちょっとカワイイ(サイズが)、とか思ってしまうウェインだった。




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