黒の日記❬4月8日❭
旅立ちの日がやってきた。
腰に下げた聖剣の重みが、わたしに現実を知らしめてくる。
本当にわたしは勇者になったのだと。
これから、魔王を倒す旅に出るのだと。
そして、凄まじい不安にかられるのだ。
剣術は狩人の皆に教えてもらったことがある。粗削りだが、旅の仲間である聖騎士ジュダル殿に教えを乞う内に形になるだろう。
だが、それまでだ。
わたしは本当に勇者として活動できるのか?
魔王を倒すことができるのか?
わからない。それが、わからない。
これから旅をするなかで、もう勇者を辞めたいと思うことにたくさん出会うことになるだろう。
そのときわたしが勇者を続け、魔王を倒そうと思うことができるのか。
そのことが、凄まじい不安として襲ってくる。
仲間はわたしが勇者にふさわしい人物だという。王族の皆さま方も。
だが、会って間もないわたしのことを、いったい誰が知っている?
いったいなんの根拠をもってわたしが勇者にふさわしいと言っているのか?
わたしはただの村娘だ。もう“だった”になるのかもしれないが、その本質はなんの力もない小娘。
勇者となり、力を授けられた。しかし……それは、誰でもよかったのではないか?
わたしではなくても。それこそ、聖騎士ジュダル殿や王宮魔法使いのロイ殿の方が、勇者の力を授けられるにふさわしい。
女神は何を思って、わたしに力を託したのか。
何を知っていて、神託を降ろしたのか。
勇者の力を持っていても……持っているからこそ、こんな不安がつきまとう。
こんな弱音を吐くこと自体、勇者の器でないことの証明なのではないかと思えてくる。
弱音を吐く相手が人でなくても、それは変わらない。
歴代勇者たちもこんな思いを抱いていたのだろうか……?
もしそうなら、どうして堂々としてしていられたのか。務めを果たすことができたのか。怖くはないのか。
……もしいま生きていたとしたら、わたしはすがってでもその心を問うだろう。
勇者として、人々を守るために力を使う。
そのことに何ら異論はない。
ただ、それを勤めあげられるか。
そのことが不安なのだ。
わたしは勇者にふさわしい人間なのか?
ただ、その言葉が胸に刺さり続ける。




