けむり猫、巨大化する
ある日のことです。
ミーアがよく寝床にしている銀色の樫の木に明るい朝の光が差し込みました。
ミーアは、くぁっとあくびをして、大きく伸びをして・・・
伸びをしたまま、大きく、大きくなりました。
いつもは小さなごく普通の猫の大きさを好んでいるミーアですが、本当の姿は自由自在。小さくもなれるし、大きくもなれるのです。大きく大きく、木々を見下ろすほど大きくなったミーアは喉をゴロゴロと鳴らしながらパトロールへ出発です。
銀の谷に住むものはすっかり慣れっこ。
ミーアに明るく挨拶をしてくれる者もあれば、大きくなったミーアの毛並みにもぐりこんで遊び出す精霊たちもいます。絵描きなどは一度でいいから大きくなったミーアに出会いたいと頑張っているのですが、残念ながらあまり目の良くない人族のため、これまで大きくなったミーアを目にしたことはないようです。肩にのった三つ足のカラスがため息をつきながらミーアに羽根を振っています。
ミーアは銀の谷が好きでした。
みんながそれぞれに好きなものがあって、他人と接する時にはほどほどに親切で。
もちろん、時々は嫌なことを言うものもありましたが、ミーアはすうっと透明になってその場を離れることにしていました。
こうして、ある日突然大きくなったミーアが現われても、誰も怖がったりしません。花の精霊たちはミーアがパトロールをしているとミーアが通ったあとの大きな肉球の足跡に花を並べるのがお気に入り。風の精霊たちはミーアの大きな耳に、銀の谷どころか、世界中の面白い出来事を囁いていきます。
銀の谷に響くように、ミーアは静かに歌い始めます。
ミーアのパトロールは朝のこともあれば、夜のこともあります。
恋の歌、朝を讃える歌、夜の月を恋しく想う歌、冒険に向かう若者の歌・・・
時々、ディアがミーアの歌に耳を傾けてくれることもありました。
ミーアは、ただのけむり猫です。
銀の谷の木々より大きくはなれても、気ままな性格は変えられないとミーアは歌います。
でも本当は、本当のところは・・・
ミーアは歌い、歩きながら、ディアへの贈り物をいつも探していました。
そして、何か素敵なものを見つけては、それを大事に寝床の樫の木へ運びました。
ミーアはディアへの恋心を誰にも明かしませんでした。
ミーアの慰めになりたいと言ってくれるものも、
ミーアを愛していると言ってくれるものも、
誰にも応えないミーアを、誰も責めなかったことを思いながら。
朝一番に開いたスミレの花、ディアの瞳によく似た黒曜石、
ミーアは今日も、寝床に集めた贈ることのできないディアへの贈り物に囲まれて眠りました。




