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銀の谷のけむり猫  作者: 矢野葉


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10/10

ミーアの愛とディアの特別

「ディア、私はあなたの真名を知ったわ」

ミーアはディアの瞳を見つめながらそっと小さな声で言いました

ディアはミーアを見つめ返して、それからその小さな体を膝に抱き上げました


「ミーア、お前は私の特別だよ」

「知っているわ、あなたが歌った後以外に触れるのは私だけだもの」

「それでもこれは、お前が望む感情ではないのだろうね」

「いいの、いいのよ。今あなたがここにいる、それが全てだもの」


ミーアは潤み始めた瞳を隠すように、ディアの胸元に顔を押しつけます。

ディアはそっとミーアの柔らかな毛をなで続けました。


「ミーア」

「私はあなたの名前を呼ばない」

ぐすぐすと泣き声まじりの声で、ミーアはディアにそう告げました。


精霊の真名を知った者は、その魂を縛り付けてしまうことさえ出来てしまう。

ミーアがその名の元に望めば、ディアはミーアを愛する・・・ように振る舞うでしょう。

ミーアに口づけ、ミーアを撫で、ミーアの命が尽きるその日まで

ミーアのためだけに歌を歌ってくれるでしょう

けれどそれは、ミーアの望む愛から最も遠いものなのです。


やがて顔をあげたミーアは、静かに花園を見つめながら語りました。


「私は知っているの。あなたは、私がけむり猫だから私を愛さないわけではないわ。たとえ私が何かの精霊であっても。あなたは私を愛さない」


「ミーア、お前の愛を感じるよ」

「ええ。・・・ディア、あなたを愛しているわ」


精霊は他の生き物とは違う感情の在り方を持っています。他の生き物と恋をすることも滅多になければ、他の生き物と深く理解しあうこともありません。そのディアが、ミーアの愛を感じたということは、それだけでとても特別なことでした。


「でもあなたは私の愛を知っているけれど、それが私の愛の全てではないわ」


悪戯っ子のようにミーアは微笑むと、ディアの肩に手をかけてその耳元に口を寄せます


「私は銀の谷のミーア、けむり猫のミーアよ。でも、あなたには知っていて欲しいの。私はラピス・ネ・・・」


「・・・ミーア?」


「精霊の婚姻では真名を交わし合うのでしょう?その真似事よ」


ふふんと笑ったミーアはディアの頬に口づけを贈ると、また膝の上に戻りました。


「ディア、銀の谷のけむり猫ミーアは、あなたを愛しているわ」


「ありがとう」


ディアは先ほど摘んだ花をそっとミーアの耳元に飾ります。


その後ミーアは花の精霊に頼んで魔法をかけてもらい、生涯、この花を飾り続けました。


これにて完結です。読んでくださった皆さま、ありがとうございました!

感想やレビューなど大切に読ませていただいています。

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