ミーアの愛とディアの特別
「ディア、私はあなたの真名を知ったわ」
ミーアはディアの瞳を見つめながらそっと小さな声で言いました
ディアはミーアを見つめ返して、それからその小さな体を膝に抱き上げました
「ミーア、お前は私の特別だよ」
「知っているわ、あなたが歌った後以外に触れるのは私だけだもの」
「それでもこれは、お前が望む感情ではないのだろうね」
「いいの、いいのよ。今あなたがここにいる、それが全てだもの」
ミーアは潤み始めた瞳を隠すように、ディアの胸元に顔を押しつけます。
ディアはそっとミーアの柔らかな毛をなで続けました。
「ミーア」
「私はあなたの名前を呼ばない」
ぐすぐすと泣き声まじりの声で、ミーアはディアにそう告げました。
精霊の真名を知った者は、その魂を縛り付けてしまうことさえ出来てしまう。
ミーアがその名の元に望めば、ディアはミーアを愛する・・・ように振る舞うでしょう。
ミーアに口づけ、ミーアを撫で、ミーアの命が尽きるその日まで
ミーアのためだけに歌を歌ってくれるでしょう
けれどそれは、ミーアの望む愛から最も遠いものなのです。
やがて顔をあげたミーアは、静かに花園を見つめながら語りました。
「私は知っているの。あなたは、私がけむり猫だから私を愛さないわけではないわ。たとえ私が何かの精霊であっても。あなたは私を愛さない」
「ミーア、お前の愛を感じるよ」
「ええ。・・・ディア、あなたを愛しているわ」
精霊は他の生き物とは違う感情の在り方を持っています。他の生き物と恋をすることも滅多になければ、他の生き物と深く理解しあうこともありません。そのディアが、ミーアの愛を感じたということは、それだけでとても特別なことでした。
「でもあなたは私の愛を知っているけれど、それが私の愛の全てではないわ」
悪戯っ子のようにミーアは微笑むと、ディアの肩に手をかけてその耳元に口を寄せます
「私は銀の谷のミーア、けむり猫のミーアよ。でも、あなたには知っていて欲しいの。私はラピス・ネ・・・」
「・・・ミーア?」
「精霊の婚姻では真名を交わし合うのでしょう?その真似事よ」
ふふんと笑ったミーアはディアの頬に口づけを贈ると、また膝の上に戻りました。
「ディア、銀の谷のけむり猫ミーアは、あなたを愛しているわ」
「ありがとう」
ディアは先ほど摘んだ花をそっとミーアの耳元に飾ります。
その後ミーアは花の精霊に頼んで魔法をかけてもらい、生涯、この花を飾り続けました。
これにて完結です。読んでくださった皆さま、ありがとうございました!
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