表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

遭遇

「ふぁぁ〜あ」


 学園内が混乱に陥っていることはつゆ知らず、光は呑気にあくびをしていた。

 

 今は少し離れた学校の図書館に向かっている途中だ。


 図書館は、本当は学校登校以降しか、入館を許されていない。


しかし光は影の薄さと真面目なイメージを利用し、時々ルールを破っている。


今は午後18時。


夕食までまだ時間がある。


日が沈み、誰もいない廊下に月明かりが差し込む。


なんとも神妙な雰囲気である。


図書館に向かう途中にお手洗いでも行くか、と入り口に差し迫った瞬間。


「やぁ、こんにちは」


「!?」


静寂が打ち破られ


心臓が跳ね上がる。


びっくりした。


初見の人物が、男子トイレと女子トイレの間、白い壁にもたれかかっていた。


学園でルールを破って、しかも図書館に行く人なんて生まれてこの方光しかいなかった。


しかも格好がこの学園の者ではない。


水色のサイドポニテールで片目だけ前髪で隠れている。


目はピンク。


ポニテには星型の髪留め。


月明かりで一瞬飾りが反射する。


長身で175cmはありそうだ。


高校生ぐらいか。


極めつけは長袖カッターシャツと短く着られた赤いスカート。


見たことのない学校の服だ。 


「ねぇ君。」


 黙って困惑している光に話をつづける。


「時計___持ってたりしない?」


 持ってる。


 放課後拾ったやつだ。


 正直者の光のことだ

 いつもならすんなり渡していただろう。

 

 しかしためらった。


 こんな夜に見たこともない人。

 

 しかも孤島なため、来るには船しかないのに。

 

 どう考えてもあやしい。


 直感が告げている。


「……持ってないです」


 よく推敲して答える。


「…ふーん___本当?」


 うつむき加減で、鋭い眼差しで射止めてくる。


 まるで狼のように。


 嘘をついていることが見透かされたようで、光はドキッとする。


「いや…持ってないです」


 一体この時計がなんだっていうんだ。


「僕にはわかるんだよね。この目があるから」


 前髪で隠れている方の目を指差す。


 よく見ると、猫の目のようにピンク色に少し発光している。


「ほらほら、これだよ」


 ポケットからおもむろに取り出したのは、光が拾ったのと同じ時計。


 少し構造は違うが種類は同じだ。


「いや、ほんとにもって、ないです」


 何度目かのセリフを定型文のように繰り返す。


「ふーん…」


 彼女は何度か頬をポリポリとかくと、

 何か考えついたのか、急に動きをとめる。

 

「交渉決裂、だね」


 彼女_いや、敵は素早く一歩踏み込んだ。


 同時に背後に隠していたナイフを首の側面めがけて横向きに振りかざす。


「____っ!」


 あと一歩、刃が触れそうになった瞬間。


 『逃げて!!』


 謎の声と共に、後ろから強い力で引っ張られた。


 間一髪、逃れられた。


 少女の短剣が空振る。


 謎の力に助けられた。


 振り向きざまに確認したが近くに誰もいない。


 否、そんなことはいまどうでもいい。


 逃げると言っても、さぁどうする。


一本道の廊下、寮にもどるには敵の方向に行かなければならない。


 そんなの刺されるに決まっている。


 逃げ込める場所と言えば、後ろの図書館しかない。


 ただし、入り組んでいるので、逃げ失せるには高度な技術が必要だ。


 どうする?


 そんなことを考えているうちに、刃を持った少女がズカズカ歩いて来る。


 まずいまずいまずい。


 正面に行くには死ぬ恐れがある。


 ___よし!


 覚悟を決め、後ろの図書室に逃げ込む。


 扉を空けた途端、静寂が訪れ、図書室の独特な香りが流れてくる。


 危ない、戸締まりされていたら詰んでいたところだった。


 さふさふと上靴の足音が絨毯に吸収される。


 


 直ぐ側にあった分厚い辞書が光肘に当たり


 が何かの窪みに押し込まれる。


 カチッ


 と心地よい音がする。


 あぁ、あの本は確か真中島の歴史書、ちょっとしか読んだことはないけど___


 ってそんなこと気にしてる場合じゃない!


 はっ、と我に返る。


 まずいまずいまずい。

 

「さあ、言って。」


 彼女は剣先を光の喉仏に当てる。

 

 これが正真正銘、絶対絶命。

 

 何か武器はないか。


 あるわけもないが、ポケットの中を必死にあさる。


 指先に金属が触れる感触がした。


 あった!


 ポケットの中にあった、()()を今出せる最大限の力で思いっきり投げつける。


「___!」


 素早く投げ、相手もまさか武器があると思っていなかったので対応できないようだ。


 投げたのは()()___今日拾った時計だ。


 宙を舞う時計が、スローモーションのように見える。


 相手の至近距離で、おでこに当たろうとし、敵は大きくのけぞる。


 コンと当たっただけかと思われたが、その瞬間。


 時計からオレンジのバリアのようなものが展開された。


 何だ?


 その瞬間

 

 ドンガラガッシャーン!!


 投げた威力、それ以上に効力を発揮し、

 

 敵はあまりの衝撃波に耐えきれず、窓ガラスを突き破って遥か彼方に吹っ飛んだ。


 光は、目の前の光景を疑った。

 

 顔を上げると相手は視界から消え去っている。


 目の前に広がるのは散乱した本。

 

 と、ガラス穴から見えるグラウンドだ。


 光は本棚に背中を預け、この短期間で何が起こったのか状況を把握しようとする。


 鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔で現場を眺める。

 

 すっかり恐怖ですくんだ足を元気づけて立ち上がり、割れた窓ガラスを見に行く。


 外のまだ冷たい風が入ってくる。


 前髪が少し揺れる。


 図書室は2階で、少し先まで見ることができる。


 グラウンドの端が少し見え、そこから先は木木木…


 見渡す限り、もう人の気配はない。


 多分大丈夫だろう。


 目の前で全貌を見ていたし。

 

 ロケットランチャーのような破壊力だった。


 むしろ窓ガラスを割ってからも加速していて、斜め37度ぐらいはあった。


 高さの最高到達点は林の入り口らへんだろう。


 下手したら海辺まで飛ばされたかもしれない。


 まだ心臓の余韻がのこりドキドキしている。


 気を取り直して、そばに落ちている時計を拾った。


 腕時計


 そんな特別なものには見えないが…

 

後ろからゴゴゴ…と物音がする。


 また何かの敵か!?と身構える。


 が、本棚が振動しているだけだった。


 え?振動?


 見ると、さっき背もたれにしていた大きな本棚2つだけが揺れている。


 思い返してみれば、歴史書に肘が当たったとき、カチッと何かはまる音がしていた。


 時間差で発動し始めたのだ。


 ゆっくりと本棚が左右に分かれ、スライドされた。


 扉の先、


「____なんだこれ」


 何もなかったはずの図書室。

 

 現れたのは、灰色レンガの薄暗い通路だった。


 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ