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第一話 始まりの鐘


____________________


 

 キーンコーンカーンコーン…

 

 帰りの会を告げるチャイムがこじんまりとした教室に鳴り響く。


桜舞い散る春、新学期。


 僕、こと天堂(てんどう) 光(ひかる)は今日から小学四年生。

 

 初日を終え、皆それぞれ帰路についていく最中である。


 船乗り場に向かう同級生と違って、

 光は一人、少し離れた孤児院寮へと向かう。


ほとんど整備されていないあぜ道を通る。


 辺りは林で囲まれ、人口が少ない割にだだっ広いため、閑静な雰囲気である。


 島の南北で高低差が激しく、崖と砂浜がみられる。


 昔は島全体が大都市だったそうだが、この百年で変わってしまった。


 孤児院寮が見えてきた。


 視界がひらけ、午後の暖かな日差しが緊張で疲れた身体をほぐし、包み込む。


 やっぱりここが落ち着くなぁ。


 大きく伸びをする。


 今日は初日ということもあり、精神的に疲れた。


「ん?」

 

 草の隙間に紛れて、何か落ちている。

 

 キラッ、キラと太陽光に反射して輝く。

 

 拾いあげると、それは腕時計だった。

 

落とし物かなぁ。

 

 朝にはこんなものなかったはずだ。

 

 そもそも、こんな辺鄙な場所に光以外来るわけがない。

 

 届け出るために一旦持って帰ろう。

 

 光は学ランのポケットに時計を突っ込んだ。


 _____________________

 

一方その頃、孤児院の門前に少女と少年が2人。


 今年から寮に入ることとなった編入生だ。


 光はまだ2人が寮に転入することは知らない。

 

荷物をもち立って、職員さんが来るのを待っている。


「――おまたせ。命ちゃんと守くんだよね?」


「はい」


「おうよ!」

 

元気に答えたのは国屋守くん。

 

キリッとした眉にまだあどけなさが残る整った顔立ち。


 髪は短髪で無造作におろしており、どちらかというと黒。


 もう一人の少女は七神命ちゃん。

 

髪型は焦げ茶色のボブ。


 前髪は眉毛の少し下で切りそろえられており 

 丁重さがかんじられる。


 縦長のくりくりした目。


 若干茶色みがかかっている。


 二人とも活発そうである。

 

 身長は中学生なので、今は命ちゃんの方が少し高い。

 (だいたい男子の方が後から急に伸びるからいずれ変わる)


  

きりのいいタイミングで一旦荷物を室内に置き、孤児院の見学ツアースタート。


 真中島と呼ばれるこの場所は、小学校と孤児院しかない小さな島だ。


 しかし、各国の巨大企業によって支援されたこの学園はだだっ広い。


 学校と孤児院が併設しており、食堂などは小学生が給食代わりに食べたりする。

 

風呂場、勉強部屋、寝室、食堂。

 

 最後に校庭。


 小学校の校庭は甲子園並に広いため、孤児院と併用している。

 

 施設が広すぎたのと、部屋の準備などで辺りはもうすっかり夕暮れ。


「疲れたねぇ」

 

 職員さんが気を使って話しかける。


「ですねぇ」


3人は外を眺めながら遠い目をする。

 

 林から漏れる夕日と空のコントラストが美しい。


 カラスが島の上空を通り過ぎる。


 一体どこへ行こうとするのか。

 

「お!あの塔はなんだ?」


 いきなり環境が変わったというのに、守は元気いっぱいだ。

 

校庭には天まで届きそうな時計盤付きのでっかい塔が装備されている。

 

 今は古くて使い物にならないが。

 

「なんか変なところに置いてあるわね。」

 

 どう考えても邪魔な、校庭のド真ん中にある時計台は真中学園七不思議の一つである。


 3人でぶらぶらと時計塔に近づく。


 赤いレンガ造りで壁をそっとなぞる。

 

 少し煤けてきていた。


 真下に来ても見上げるような高さである。

 

 ちょうどその時、


 ピシャアア!!


 地を揺らすような轟音と共に

 突然雷のような一筋の稲光が学園のどこかに落ちた。


 そして波動のように砂埃と強風が吹き抜け、思わず腕で顔を隠した。


「え?」


 3人とも振りかえる。

 

 雨も降っていないのに雷が落ちた。


「__雷が落ちたのかな?済まないけどここで少し待っててくれないかな?ブレーカーを確認してくる。」 


 職員さんはそのまま職員室へと戻ってしまった。


「___今のはなんだったんだ?」


「__さぁ?」


 2人して首をかしげる。


 ずっと時計台以外何もないところで待つのも癪なので、職員室の近くに移動した。


夕日に照らされ、花壇の間から何か反射した。


「ん?」


 2人して覗き込む。


 手に取ってみるとそれは、古ぼけた時計だった。


 すぐそばに2個目があり命も拾いあげる。


「なんだコレ」


「分かんない。けど高そう」


「先生に渡すか。」


「そうね。」


 守は好奇心で腕時計をつけてみる。


 普段なら命が注意するが、物珍しかったのか命も注意せず腕に取り付ける。


 時計をつけた腕を眺める。


 時計盤はローマ数字。


 一体いつの時代だ…?


 しばらくして日が落ち始め、相手の顔が見えにくくなってきた。


 人気のない校庭でふたり。


 周りは全て林、その先はただただ海。


 木の葉を揺らす突風が吹き抜ける。

 

 気のせいか一気に肌寒くなってきた。


 思わず身震いする。


「なんか寒いな。」


「そうね。」


 命は首を縮める。


 世間話を進めること数分。


 不意に背筋に悪寒が走る。

 

「…先生?」


 2人はまじまじと振り向いた。


「あの、先生配管は__? 」 


 見ると、先生が何も言わず俯いたまま仁王立ちしている。

 

「は、はははハッ」


何やら様子がおかしい。


 ゆっくりと顔を上げると目には鋭い眼光が宿っていた。


 まさに獲物を狩るような目だ。

  

先生の周りにはどす黒いオーラのようなものが見えてきた。


 三人の間に一瞬の沈黙が訪れる。


 そして次の瞬間。

 

 先生は命に爪を立て、襲いかかった。


「__ちょッ。」


 咄嗟の判断で二人とも避け、間合いをとる。


「何なんですか!いきなり!」


先生は答えようともせず、次の攻撃のために構える。 


 話が通じない。


 呼吸が荒く、まるで何かに取り憑かれたようだ。


「__逃げるぞ!」


 守が声を張った。


 大人相手に小学生が勝てるわけがない。


 視線を先生から外さず、2人して地面を蹴って逃げ出す。


 砂埃が舞う。

 

 逃げると言っても、先生と反対側にあるのはグラウンドと林しかない。


 しかし来たばかりの二人にとっては土地勘がなく、林は危険すぎる。


 土地勘に関しては職員の方が1枚上手だろう。

 

 そのまま時計台に回り込み、しゃがんで隠れた。


 職員が一目散にこちらへ走ってくる。


「まずいわね…」


 命が立ち上がり半身になって塔の陰から覗き込む。

 

 さっきの攻撃は確実に命の首を絞めようとしていた。

  

「くそっ、どうしたらいいんだ…」


 絶対絶命のピンチ。

 

 じきに追いつかれる。


 その時、


『時計を使って__』


 不意に耳元で囁くような女の人の声が聞こえた。


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