ローソンウーマン
「またあんた?」
マラドンナも不機嫌そうだ。
正直、わたくしですらイラっとしていた。
「いい加減にしないと女で満足できない体にするわよ」
「言い方! 怖さが天井知らずなんだけど! 異世界のモンスターより怖い!」
「あら、モンスターより怖いなんてひどいわね。こんなに美しいのに――。あ、つまり美しすぎて!?」
「ポジティブの化身かよ!」
それはわたくしも思う。
「でも、これから先もこんな感じで邪魔するなら臓器提供意思表示カードを持っておいたほうがいいですよ」
「死の覚悟!?」
割り込んでてくるならそれくらいの覚悟が欲しい。
「それを踏まえて聞きますが、何の用ですか?」
わたくしの問いに義則が顔を上げた。
はっきりとした意思を感じる。
「俺が……戦う」
一瞬、思考が追い付かなかった。
「え? なんでですか?」
誰も喜ばない選択だ。
「女の子を戦わせるくらいなら男だけでクレープ食べに行ったほうがマシだ」
「いや、クレープくらい食べてきてもいいですよ」
「女々しいって思われるじゃん!」
どうでもいい。
「とにかくわたくしが戦います」
「私としてもケンカを売ってきたのはこの子が先だからねぇ。相手するならこの子よね」
当然だ。
そのためにわざわざ挑発めいたことをしたのだ。
「では、改めて――」
「ちょっと待った!」
そのとき、女の声が背後から響き渡った。
どこか聞き覚えのある――。
「お、お姉さま?」
まさか、今回のデートでお姉さまは出てこないはず。
振り向くとそこには――。
「誰? あなた。そんな変な恰好して」
コンビニ袋を被ったお姉さまがいた。
「通りすがりのローソンウーマンよ。話は聞かせてもらったわ」
お姉さま……それで変装のつもりなの?
「そこの少年!」
お姉さま……いや、ローソンウーマンが義則を指さした。
「は、お、俺?」
「あなたがそのミスターカサブランカ? と戦いなさい」
その場の全員が一瞬、動きを止めた。
「え、ど、どういうことですか?」
「私の名前はミスマラドンナよ!」
「いきなり出てきて勝手なこと言うんじゃねぇ!」
「そうだ!」
当然のように批判の嵐だ。
普通の人間なら気後れするが、お姉さまは全く変わらないように見える。
「あ、あんた、まさか! ……俺のあしながおじさん!? ギャルのパンティおくれー!」
「あしながおじさんって神龍じゃないわよ。そもそもおじさんですらないしねぇ」
マラドンナが軽くため息をついた。
「お、お姉――じゃなくて、ローソンウーマンさん。わたくしも納得できません」
「そう、私の言うことが聞けないってことね」
眼光が鋭くなる。
「い、いえ、そんなことは」
身がすくむ。
場も心なしか冷えていく。
「私も反対ね。その子が言うことももっともよ。いきなり表れて仕切られてもねぇ」
「何様だよ」
これ以上、お姉さまを刺激しないでほしい。
わたくしの思いとは裏腹にマラドンナの賛同者は多い。
「おいおい、これ以上、変なこと言うとたたき出すぞ」
筋骨隆々の男がお姉さまの前に立ちはだかった。
まさに腕自慢の格闘家といったいでたちだ。
まるで大人と子供くらい体格差がある。
「ほら、出ていけ」
男が丸太のように太い腕を伸ばした。
掴まれたらお姉さまの腕くらいはぽっきり折れるだろう。
「お、おい! やめろって!」
義則が慌てて止めようとする。
しかし、わたくしは全く慌てない。
なぜなら――。
お姉さまが一瞬で深く沈んだ。
「は?」
男がぽかんと口を開けた。
男の体が宙に舞っていた。
男の懐に潜り込んで肩を支点にして投げ飛ばした。
力だけのゴリラがどうにかなる人じゃない。
「その動き、あんた……まさかランキング四位の……」
ミスマラドンナの額に汗が流れた。
ランキングはこんなところにまで浸透しているのか。
「違うわ。ただのローソンウーマンよ」
「面白いわねぇ。この坊やと戦うよりもあなたと戦ったほうがよっぽど面白いわぁ」
凶暴な笑みだ。
だが、気持ちはわかる。
「待て! そいつとは俺が戦う!」
「いや、俺だ!」
正体がわかった瞬間、男たちが群がったきた。
「なら、こうしましょ。この少年と戦って勝ったら戦ってあげる」
「え!?」
義則がものすごい勢いでお姉さまのほうを見る。




