動物園
鬱蒼とした森、割れた石畳、落書きだらけの寺。
郊外にひっそりと佇む廃寺は思った以上に荒れ果てていた。
「びっくりするほど人気がない。まさかこれはアタックチャンス!?」
抱きついてこようとする義則をかわす。
「わたくしたちはお互いに知らないのですからゆっくりと育んでいきましょう」
「ゆっくり? それって新幹線でいうと何系?」
「もうちょっと速度落としましょう。移動速度ミジンコレベルまで」
「子供作るまでどんだけかかんの!?」
「駄目でしょうか?」
上目遣い!
更にちょっと泣く!
「ぐぅ! このコンボ! しかと響いたぜ! 響きすぎてトランスフォームしちゃうかも!」
どういうこと?
「何に変形するんですか? おかしとかいいですよね」
「それ食べられるパターンじゃん! 今、俺が出来る変身といえば女性用の下着くらいかな」
最悪な変身だ。
「燃やしてもいいですか?」
「即効で破壊を考えるって酷くない? 以外とは履き心地いいかもよ」
「ないですね」
「なんか会話に歩み寄ろうとする意思が見られないんだけど!」
そりゃそうだ。
「もうちょっと女性でも好みそうな会話でお願いします」
「女性が好きな話題。……お金と悪口と恋愛?」
「偏見の申し子ですか」
駄目だ。こいつ。
「でも、こんなところよりももうちょっと楽しい場所いかない?」
「たとえば、どういった場所でしょうか?」
「水族館とかさ! 動物園とか!」
「それならば、今向かっていますよ」
「え、ほんとに!?」
「はい」
仮にもデートだが、お姉さまの要求はデートしろということだけで内容には触れられていない。
なら、わたくし好みのやり方でやらせてもらう。
確かこの辺りに……。
辺りを見渡すと寺の境内の端――梵鐘前には熱気に包まれた男たちがいた。
「うぉぉぉ!」
「やったれー!」
男たちは円陣を作っており、中央にはぽっかりと穴があいており、まるで即席にリングのようだ。
そこでは二人の男が血まみれで殴り合っていた。
「があああ!」
「うごおおおお!」
叫びながらも殴り合う二人。
血と汗が激しく飛び散る。
翼の記憶通りだ。
ここは一対一でストリートファイトをする場所らしい。
かつて、翼も訳あってここで戦ったことがある。
戦う相手は素人と侮るなかれ。
プロデビューを果たしたボクサーや県大会にも出た柔道家もいたことがあるらしい。
呆気に取られている義則にわたくしはにっこりとほほ笑んだ。
「動物園です」
「違うよね! 百歩譲ってもサル山しかないんだけど!」
「それも面白いですよね」
「どこが!?」
別に理解してもらおうとはおもわない。
あくまでもわたくしが好むやり方でやらせてもらうだけだ。
「うぉぉぉぉ!」
一際、大きな歓声が上がった。
視線をむければ、男が拳を天にかかげていた。
そのそばには血まみれの男が倒れていた。
丁度よく決着がついたようだ。