初めてのデート
翌日。
日曜日の駅前は沢山の人で賑わっていた。
その中でも一際、目立つ存在がいた。
誰もがお姉さまの姿に一度は振りかえる。
まるで野原に咲く一輪のバラのようだ。
「時間通りね」
お姉さまがオレに気づいて近づいてきた。
本来ならお姉さまは今回のデートに関係はない。
事前の話でお姉さまはオレたちに気づかれず今回のデートに同行することが決まっていた。
本当なら拒否したかったが、断ってもそんなことを聞く人じゃない。
それなら許可してある程度、動向を把握しておいたほうがいい。
なによりも――。
「どういう条件でもう一人の人格になるかわかっていないわ。もしも、そういう予兆を感じたら――すぐに離れて私のところに来なさい」
もう一人のオレがどういう行動を起こすかよくわからない。
デートどころではなくなるかもしれない。
フォローしてくれる人間はいたほうがいい。
「なかなかの格好じゃない。言われたとおりにやってきたのね」
普段のオレはタンクトップでジーンズなど動きやすい格好が好きだ。
でも、今のオレはおしゃれな上着にふりふりのスカートだ。さらに髪だって梳かしているし、化粧だって薄くしている。
正直、かなり落ち着かない。
通行人からも見られているような気もする。
心底、嫌だが全部お姉さまの指示だ。
「あのさ。こんな格好しても義則なら普通にオレだって気づくと思うんだけど」
変装ですらないただの仮装だ。
「いいえ、気づかないわ」
「なんで断言できるんだよ」
「それはね――」
そのとき、どこからともなくトランペットの音が聞こえてきた。
曲にすらなっていない音程だ。
バッハも鼻で笑ってしまうだろう。
「この音は何?」
「どこから聞こえてくるの?」
通行人が騒ぎ始めた。
嫌な予感がする。
「あそこよ!」
指差した方向は駅の屋上。
そこにはトランペットを吹いているタキシードの男がいた。
「やぁ! 待たせたね! 僕は――」
「おい! 何やってんだ! ここは立ち入り禁止だぞ」
後ろからやってきた警官が義則の肩を掴んだ。
「とりあえず、署まで来てもらおうか」
「ち、違うんです。ちょっとイケメンなところを見せてあわよくばベッドイン。朝起きたら裸エプロンで味噌汁作りたい」
「お前がかよ!」
見たくない。
「ま、間違った。えっと、とにかく怪しいものじゃなくて、やべ! 社会の窓からいざというときの印鑑が!」
なぜか義則の股間から印鑑が飛び出ていった。
マジシャンかよ!
怪しさしかない。
「……とりあえず、署にいこうか」
警官が義則の肩をがっしり掴む。
「そ、そんな! 国家権力がデートの邪魔をするなんて! これはとんだミッションになりそうだ!」
そのまま連行されていった。
「なにあれ?」
「さぁ」
通行人たちは不思議そうな顔をしながらも再び元の日常に戻っていった。
……なにやってんだよ。
「……くく、あはは! は、初めてのデートで警察に連れて行かれるなんてね」
お姉さまは笑いをこらえきれないように蹲っていた。
放っておくわけにもいかないか。
「じゃあ、助けに行ってくる。お姉さまもどうせ後から来るんだろ?」
その言葉にお姉さまは表情を変えた。
「もちろん。最後に忠告よ。私が言ったこと忘れないでね。それで台無しなったらつまらないもの」
あくまでも自分の楽しみ優先か。
それでもいい。
オレはオレであいつを振り向かせて見せる。




