成り代わり
振り向くと、そこには見たことがないアフロ男がいた。
「てめーら、いつまでここにいるんだ! 人質を助けたら――って、たんぽぽじゃねぇか!」
アフロ男が両腕を広げた。
「会いにきてくれたのかよぉ!」
気持ちが悪いほど喜色満面だ。
「次にふざけたこと言ってみなさい。その舌を引っこ抜くわ」
逆にたんぽぽは害虫を見るような目だ。
いつも飄々としているのによほど気に食わないのか。
「……つまり真面目なことを言えばいいんだな」
きりっと表情を改めた。
「よっしゃ! とりあえず、乳首に紐結ぶからちょっと待っててくれやぁ!」
「いや、それで真面目になれるわけねぇだろ」
半眼でツッコミを入れた。
「あぁん? お前にたんぽぽの何がわかる! 乳首に紐結ぶだけで落ちるかもしれないだろがぁ!」
「お前よりはわかるよ。絶対落ちねぇから」
「あん?」
アフロ男がじろじろと見てきた。
気持ち悪ぃ。
「……なんか性格変わってねぇか!? ま、いいや。へ、見てろや。本物の夜王を見せてやるよ」
アフロ男がおもむろに脱ぎだした。
「死ね」
それを止めるようにたんぽぽが躊躇なくアフロ男の喉元をついた。
「ぐえ!」
アフロ男が倒れる。
めちゃくちゃだ。
「一体、何がどうなってるんだ」
「説明してあげるわ」
今のですっきりしたのかたんぽぽは機嫌がいい。
わけがわからないことばかりだ。
解説中――。
「――今の説明でわかった?」
たんぽぽの説明が終わった。
「おいおい、こいつがランキング九位で二重人格だって? いくら愛しのたんぽぽちゃんでもよぉ。そんなことはぁ信じられねぇなぁ」
なんで当たり前のようにこいつが聞いているんだろう。
「ち、オレだって信じられねぇよ! つーか、あんたみたいなのが八位ってのも初耳だ」
軽くため息をひとつ。
「どっちにしろ。オレには興味ないけどな。喧嘩なんてくだらねぇ」
オレの言葉になぜか雷門がぎょっとした。
「なんだよ」
「いや、二重人格ってのは本当だってことがわかっちまった」
雷門が意味ありげに笑った。
「どういう意味だ」
「さっきは闘争本能だけって感じだったのになぁ。今は腑抜けそのものだ」
わかったような顔しやがって。
「この状況から考えても私がいったことが本当だってわかるでしょ?」
くそ、正直、信じたくはないけど。
「……状況はあんたのいうことを示してる。それにかすかにだけど誰かと戦ったような感覚がある」
信じるしかないか。
「そう不貞腐れた顔をしないの」
たんぽぽが優しくオレの額に人差し指を当てた。
「信じたほうが得よ。だって、愛しの彼とデートできるのよ」
心底、楽しそうだ。
くそ、おもちゃにしやがって。
「それは……義則が別のオレだと勘違いしたからだろ。オレとは関係ない――」
「それでいいじゃない」
「は?」
「別のあなたになりすましてデートすればいいだけよ」
「はぁぁぁ!?」
何言ってんだ!
「出来るわけねぇだろ!」
「元は同じあなたよ」
か、簡単に言いやがって。
「ははは! そりゃ面白ぇ! でも、いくらスイートハニーのいうことでもこの狂犬をあの狂犬にするなんて」
そこで雷門が考え込む。
「いや、同じ意味だな。ははは! 意外といけるんじゃねぇか!?」
狂犬って。もう一人のオレはどこまで凶暴だったんだよ。
そして、そんなやつにデートを申し込む義則もおかしい。
……まぁ、あいつならおかしくても構わずデートを申し込むかもしれないけど。
「で、どうするの?」
そんなの決まってる。
現状に一番不満を抱いているのはオレだ。
「……デートする」
変装する相手もオレだ。
こんなチャンスは滅多にない。
「面白くなってきたわね」
こいつはそればっかりだな。
非難するようにたんぽぽを見つめる。
どこ吹く風だが。
だけど、一応、約束は果たしてくれたことになるのか。
「ありがとよ。お姉さま」
「いいわよ。私はお姉さまなのだから」
どこまで本気なのかわからないが認めてやるか。
まさか姉なんてものができるなんて。