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戦いの終わり


「ぐ!」


 雷門がひざをついた。


 おかしい。わたくしは特に何もしてないはず。


「は、腹がやばい」


 苦しそうに腹を押さえる。


 あれだけの氷を食べたんだ。


 腹くらいは下るだろう。


「雷門さんが!」


「くそ! 俺たちがカキ氷なんて食べさせたばっかりに!」


「雷門さんのぽんぽんが!」


 ぽんぽん言うな。


「や、やってくれるなぁ!」


 完全に自爆だと思う。


 正直、今なら勝てる。


 しかし、それは正々堂々と一対一で勝負するというわたくしの心得に反する。


「勝負はおあずけにしましょうか」


 わたくしは拳を下ろした。


「な、なんだと! ふざけるな! 俺ぁまだまだやれるぜ!」


 雷門は立ち上がろうとするが、すでに千鳥足だ。


「わたくしが嫌です。勝負とは互いに万全な体調でやりあうものです」


 なぜか雷門がぽかんと口をあけた。


 次の瞬間、雷門が大笑いした。


「はは、勝負! 勝負、ねぇ! 喧嘩しかやったことがない俺に勝負を挑むとはねぇ! ……あ、笑ったらちょっとやべぇ」


 顔が青くなる。


 心配そうに駆け寄っていた雷門の部下たちが一斉に離れていく。


 忙しいやつらだ。


「あ、危ねぇ。なんとか波はおさまってみてぇだ」


 脂汗がすごい。


「それにしても……へへ、笑いが止まらねぇや」


「何かおかしいんですか?」


「気にすんな。こんな場所で試合みたいに勝負を挑んでくるなんてあいつみてぇだと思って笑っただけだ」


 あいつと言ったときの雷門の顔は幸せそうだった。


「好きな女子の家に忍び込んでスマホを充電しているケーブルを抜いていくような顔をしているあなたでも大切な人がいるんですね」


「へ、そう褒めるなよ」


 褒めてない。


「ま、今回は俺の負けってことでいいぜぇ!」


「戦ってないのに勝ったなんて思えません」


「向こうの部屋にお前の学校の生徒がいる。へ、あんなやつを救いにくるなんて舐めてたぜぇ!」


 雷門が親指で背後の扉を示す。


「あんなやつ? 何かしたのですか?」


「うちの高校の女子に「ハンサムいらんかね」とか言ってナンパしてきたんだ。俺としては面白いから放っておいてもよかったんだがなぁ」


「そういうわけもいかないっすよ!」


「だとよ。これもけじめってやつだ」


 どっかの馬鹿みたいだ。


「……へ、わかったらとっとと行けよ」


「それ人違いです。わたくしは別に誰かを助けにきたわけじゃありません」


「……へ、謙虚だねぇ。ますます気に入ったぜぇ! ぐぅ!」


 苦しそうに腹を押さえる。


「雷門さん!」


 部下たちが駆け寄ろうとするが、


「来るな!」


 雷門がにやりと笑う。


「へ、もう駄目ぇみてぇだぜ」


 その頬には一条の涙が流れた。

「そんなぁ!」


「雷門さん!」


 部下たちが悔しそうに地面を殴りつける。


「早くトイレ行ったら?」


 わたくしの言葉に、


「お、忘れてたぜ!」


 雷門が立ち上がってゲームセンターのトイレに歩いていく。


 雷門の部下たちがずっこける。


 歩けるのか。


 なるほど。お姉さまが言っていたアホとはこういうことか。


 これからどうしようか。


 こうなった以上、今日はまともな勝負ができるはずもない。


「わたくしと同じ高校、ね」


 まぁ、同じ高校らしいから一応、助けてもいいか。


 わたくしは雷門が示した扉を開いた。


 六畳ほどの狭い空間にロッカーがいくつも置かれていた。


 どうやら、従業員たちのロッカールームのようだ。


 その中央には――。


「んー!」


 手足を縛られて目隠しされた男子が転がっていた。


 見たことがある。


「何やってるんですか」

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