57 彼が私を選んだ。
それから、日々は忙しなく過ぎていき、大きく変わっていった。
私は高校二年生になったり、陸さんは留学に行くからと、大輝にぃは親戚のクリニックで働くことになったから、りーくんは私とのこれからを考えてと、みんなで住んでいた家を出て、それぞれ別々に住むことになった。
すごく寂しくて、聞いた時は泣いちゃいそうになったけど、受け入れなきゃいけないことだとも分かっていた。
最初に引っ越して行ったのは陸さん。
「みんな、短い間だったけど、ありがとう。俺こういう生活始めてで、毎日ウキウキして、楽しかった。またみんなでゲームして、ご飯食べよう。それなりに頑張ってくるね」
「それから、涼。泣かせたら、分かってるよね?」
そう言って、家を出た。
寂しかったけど、陸さんのこと応援しようと思った。
あんまり深く聞いていないけど、明確な目標を持って色んな国を回りたいらしい。
陸さんは、絵も描けるし、歌もうまい。実は語学も堪能で、文化、芸術に関わることを勉強したいらしい。
そのために外の国を知りたいんだって。
知りたいから、行く、そこで学ぶ、だって人間だものって陸さんは言ってた。
私、陸さんのそういうところ好き。
次はりーくん。
「まぁ、楽しかったよ。この生活。大学からずっと一人暮らしだったから、いつも誰かが家にいるのって、いいよなって思った。ありがとな」
「まあな。家の妖精で、恋のキューピッドだなんて、すごく多忙だな、俺」
兄はそうおちゃらけて笑って、りーくんも、「ほんといいやつだな、お前。家の妖精はニートと同義な」と呟いていた。
「まあいつでも集まれんだろ。陸じゃねーんだし。海もこえてないし」
大輝にぃはそう行って、笑った。
「うん。また、集まろう。みんなでご飯食べよ。お菓子ちゃんと買ってきてね。マカロン」
私がそう言うと、りーくんは呆れたようにため息をついた。
「分かった。分かった」
と頭を撫でた。
変わらない距離に安心しながらも、少し物足りない。
「でも、ちゃんと覚えておけよ。俺はもうお前の兄の友達ってだけじゃねーからな。咲笑の好きな人だから」
ドキッとするようなことを言って、また陸さんと同じように家からいなくなった。
最後は大輝にぃ。
「俺も別にここからでも通えるんだけどさ。心機一転ってことで、ね。また、遊びにくるな。前と一緒だよ」
「うん、分かってるよ」
でも一番寂しく感じてしまう。
兄が一人暮らしのために家を出て行ってしまった時と同じ気持ち。
「私にとって大輝にぃは最高のお兄ちゃんだよ」
私がそう言えば、大輝にぃは私の頭を撫でた。
「別れみたいなこというなよ。そんな遠くに行くわけじゃねーんだし。お兄ちゃん、寂しいよ。でも、ありがとう」
そう爽やかに笑った。
私たちは間違いなく変わっていく。
私はみんなのことが好きで、大切な仲間だってことは変わらない。
「おにぃ、ありがとう」
大輝にぃもいなくなってしまって、ガランとした家で私はそう兄に言った。
「おう。俺は、お前が幸せならそれでいいんだ。いつもそう思ってる」
その言葉はやけに重く響いた。
「私はそれはやだよ。兄にも幸せになってほしい」
兄は曖昧に笑って、「可愛いやつめ」と呟いた。
「私もう寂しくないよ。おにぃのおかげでみんなに出会えて一緒に暮らせて、楽しかったよ。だからおにぃはもう私のことばっかり考えるのやめて」
私がそう言えば兄は驚いたように私を見た。
「う、ん。分かった」
だいぶ間を置いてそんな言葉が返って来た。
「これからは自分の幸せ、考えてね。今度は私が兄のこと考えるから」
「うっ......咲笑!!」
突然泣き出した兄は私に抱きついてきた。
苦しい、でも、まぁいいか。
私は兄の背中に手を回すと、とんとんと叩く。
頼りになって、優しい兄、ありがとう。
それから私と兄、二人だけの生活に慣れていった。
休日にりーくんと外に出かけたり、りーくんのライブを観に行ったり、私のを観にきてもらったり、今まで変わらなく過ごす毎日。
たまにりーくんが一人で変な行動をしたりするけど、あんまり気にしてない。
当たり前に繋がれる手が、前とはなんだか違う触れ方な気がしてしまうのがくすぐったい。
高校三年の受験期は流石に忙しくて、いろんなことに対する不安もあって、それをみた兄がパニックになって、陸さんにテレビ電話してみたり、大輝にぃとりーくんが車飛ばしてきたりと色々あったけど今思えばいい思い出だ。
そんなこんなで、受験を乗り越えて、大学も決まり、高校の卒業式が近づいてきた。
卒業式は号泣だった。
色んなことを思い出した。
体育祭、文化祭、課外活動、そしてイケメン教師の争奪戦。
すごく楽しかった。
合同文化祭で出会ったメンバーとは今でも仲良しだし、きょーちゃんともよく二人で会ったりしている。
卒業式後は透と遊ぶ予定だから、文化祭メンバーとは後日会うことになっている。
「咲笑!」
式が終わり、外に出ると、そこには大量の赤いバラを持った.........兄がいた。
「うわっ、恥ずかしっ」
隣でドン引きの声をあげたのは透。
「咲笑ー!」
御構い無しに手を振りながら近づいてくる兄。
...逃げたい。
「卒業おめでとう!」
嬉しそうにバラを渡してくれるが、周りの目が痛い。
でも、心があったかくなる。
こんなちょっとアホだけど、私の自慢の兄だ。
「ありがとう」
私がそう言って受け取ると、兄はせっかく私がアイロンをかけたワイシャツをぐしゃぐしゃにしながら涙目をこすって笑った。
透が小さく笑ったのが聞こえた。
「それで、あの」
突然もじもじし始めた兄は、小さな花束を持っていた。
「透ちゃんにもって」
ガーベラがメインの花束をそう言って私。
透が驚いたようにしして受け取ると、兄はホッとしたように笑った。
「ありがとうございます」
「いや、うん」
二人とも恥ずかしそうで、なんだか私も恥ずかしい。
透、さっきまでどんびいてたくせに。
いつからいたのか大輝にぃが来て、そんな兄を笑っていた。
「あいつ、咲笑の花束はすぐ決めたくせに、透ちゃんのぶんは花の種類から大きさからめっちゃ悩んでて、ウケた」
そんな告げ口をした大輝にぃ。
兄と透には聞こえていないみたい。
ふふ、恋の予感。
うまく行くといいなーって思った。
それから母と父と合流した。
相変わらず母に振り回されている父。
でも仲良しだ。
夜またご飯を食べる約束をしている。
最後の寄り道。
クレープ屋さん、カフェ、ドーナツ屋さん、ファミレスと、どこに行こうと透と真剣に話し合って、結局カフェに入った。
二人とも定番のものを頼んで、席に座った。
私が透の持っている花束を見てニヤニヤしていると、透はきっと私を睨んで、
「きもい」
と怒った。
「ごめんって。これからも兄どもどもよろしくね」
私がそう言うと、余計なことはいうまいと、透は黙ってしまった。
「私頑張る」
それだけ言って、フラペチーノをすった。
私は笑って「うん」って言った。
「私も、頑張る」
小さくそういえば、
「そういえば、涼さんと会うの?今日」
「今日、りーくんの学校も卒業式だから分からないんだよね。まぁいいかなって」
「よくないわ!電話しなさい!電話!卒業式はさすがに終わってるわよ!」
と無理やり私にスマホをもたせてくる。
時刻は18時過ぎ。
確かにもっともだが...。
電話をかけてみる。
出ない。
「そのうち折り返してくれるかな」
私がそう言うと、
「うん、今日会えるといいね」
と透は言ってくれた。
それからグダグタと昔話をして、透と別れた。
透とは違う大学だけど、割と大学同士も近いから遊べるだろう。
家に帰ると、家族がご飯を作って待っててくれた。
今日は兄だけではなく、母と父もいる。
久しぶりの母のご飯だ。
私がリクエストした。
みんなで食べて、久しぶりの家族の時間がとても幸せだ。
食べ終わって、ソファーで母とお話ししながらうとうとしていると、着信音が鳴った。
りーくんだ。
「咲笑か、今家でれる?」
なんだか久しぶりなりーくんの声にドキドキする。
「うん。どこ行けばいいの?」
こんな時間に出かけるなんて家族に怒られるなって思いながらも、行かないなんて選択肢はもとよりなかった。
「いや、今家の前にいる」
「え、」
「ちょっとだけ出て来てくれ」
「分かった」
そう行って電話を切った。
私は、
「行ってくる」
とだけ言って、家を出た。
驚いた顔の父と母が見えたが、それでも早くりーくんに会いたかった。
玄関のドアを開けてすぐ、りーくんの姿を探す。
見慣れたりーくんの車を見つけ、胸が弾んだ。
「りーくん!」
車の影からスーツ姿のりーくんが見えて、思わず名前を呼ぶと、りーくんはこちらを見た。
くたくたのスーツ姿。
卒業式だから片付けとか、やらなくちゃいけないことたくさんあったんだろうな、と思った。
そんな疲れた顔も愛しいと思ってしまうものだから、恋は盲目というのは本当だ。
「おい、お前、そんな薄着ででてくるなよ」
そんな私に怒ったようにいうりーくんが少し腹立たしい。
私ばっかり好きで、私ばっかり会いたいみたいだ。
なにより、りーくんは私に言葉はくれないのだから、もう少し、いや、もっと優しくして欲しい。
りーくんがスーツの上を脱いで私にかける。
じんわりりーくんの体温が伝わってきて、そういえば、まだ夜は寒いな、と気づいた。
りーくんに会いたいとしか思ってなかったから、色々頭の中が空っぽになってしまった。
「まず、二つ謝らせてくれ」
りーくんは急にそう言った。
ここは寒いから、早く家に入ろうと言おうと思ってたのに。
「最近忙しくて全然会う時間取れなくてごめん」
「ううん、いいよ。りーくんが忙しくて死にそうなの、兄から聞いてたし」
りーくんはそれを聞いて安心したよう笑った。
それから、とりーくんは言う。
「待たせてごめん」
ぐいっと手をひかれてりーくんの胸にすっぽりと埋まった。
かなり強く抱きしめられて、少し苦しい。
どきどきしすぎてもっと苦しい。
でも、これは何に対してのごめんなのだろうか。
「愛してるよ、咲笑。大好きだから一生一緒にいような」
耳元で囁かれた言葉に今度は心臓がとまりそうになる。
それから、耳がキーンとなって、気づいたら泣いていた。
やっとちゃんと言葉がもらえた。
少し前までふざけたように言われた言葉じゃなくて、本気の本物の言葉だ。
泣きじゃくる私を見て、りーくんは満足そうに笑った。
「答えはイエスか、はい、どっちだ?」
意地悪なことを言う口を思いっきりふさいでやって、
「はい!!はい!!!イエス!!イエス!!」
と言えば、またりーくんは笑った。
私達の騒ぎ声に、兄と父と母が家から出てきて、りーくんは笑いを収めた。
「初めまして、咲笑さんとお付き合いさせていただいてます、仲辺涼です」
りーくんはそう言ってお辞儀した。
りーくんの空気がピリッとしたことに気づいて、私も緊張した。
「君がりーくんか」
と父がいい、
「あーら、イケメンじゃなーい」
と母は嬉しそうだ。
りーくんはその反応に安心したのか、ほっと息をついていた。
こんだけ家の外でうるさくしていれば当たり前だが、まさか両親に会わせることになるとは思ってもみなかった。
「とりあえず、うちに入ろう」
父がそう言い、みんなで家に入った。
りーくんは最初はちょっと緊張していたが、兄がいたし、みんなで卒業のお祝いをしていたら、すぐなじんだ。
しまいには泊っていくことになった。
父も、母も、りーくんのことを気に入ったみたいだ。
「咲笑の好きな人は私達の好きな人よ」
と母が笑っていて、父が少し怖い顔をした。
でも、母がおやすみのキスをしたら戻った。
簡単な父だった。
それから、私達は恋人になった。
なにが変わったか、と言えば、デート自体はあまり変わらないが、「大好き」「愛してる」を過剰に言われるので、恥ずかしい。
それに相変わらず、私達は歌友の会員として活動している。
この前は陸さんが海外から撮影した歌のすごさに感動して、久しぶりに兄や透、大輝にぃ、りーくん、こうちゃんと歌を撮ったりして、それに対して「するーい!!!!」と陸さんが言ってテレビ電話を怒りながらかけてきた。やっぱりこのメンバーは楽しい。
あと、両親が頻繁に兄と私が住む家に遊びにくるようになった。
土日は大体いる。
そしてなぜかりーくんも土日は兄の家にいて、休日にバイトをいれまくっている私よりも家族になじんでいる。
違和感を感じつつも誰も何も言わないので私もいっかと、放っておいた。
そんなこんなで月日は流れ、大学も終わりに近付き、就職やらなんやら、これからのことを考えていると、珍しく平日なのに兄の家でくーたらしていた母に
「就職と結婚どうするの?」
と聞かれた。
なんでもない日のなんでもない会話。
「うーん。結婚はともかく、就職はするよ」
と答えたことは覚えている。
母はふーんと言って、「咲笑の好きにしなさい」と言ってくれた。
しかし、その日の夜、りーくんに呼び出された。
りーくんの家にお泊りだ!平日なのに嬉しい!
最近兄の家ばかりで二人きりになれてないから、二人きり嬉しい!と喜んでいた私のまえに突き付けられた紙。
一枚のぺらぺらの紙。
「就職よりもまず、結婚だ。これに名前書いて」
なぜそうなったのか、私には分からない。
母が、りーくんに何か言ったのは間違いない。
あの二人は仲良しだ。
「あの、でも、私まだ学生だし…」
私は抵抗した。もちろん。
「分かってるよ。今すぐ出すわけではないし、咲笑が就職してもしなくても変わらない」
優しい口調。でも、なんだか、早急すぎる気がした。
「でも」
だから抵抗しようとさらに口を開けば、りーくんの手が私の手を取った。
「咲笑、愛してる。結婚してください」
抵抗、抵抗しなきゃ。
「咲笑」
りーくんの声。
私は気づいたら、その結婚届を書いていた。
それが出されたのは、再び私の卒業式。
「一生一緒にいよう」
すごく重いような、でも心地よいようなりーくんの言葉に頷いた。
私の選んだ人はとっても私が好きで、私もりーくんが大好きだ。
でも、押し付ける訳じゃないけど、りーくんが私を選んだんだよ。
だって言ったじゃん。
「大好きだから、ずっと一緒にいろよ」って。
彼が私を選んだ。りーくんが私を選んだ。
結婚して3年、私のお腹の中には小さな命が宿った。
大好きな歌友の会社に、会員として投稿を続けながらも、企画運営がしてみたくて、入社した。
大変でとてつもなく忙しくて、主にこうちゃんが原因だけれどその間にりーくんと喧嘩しちゃったりしてでも、とても楽しい日々を過ごした。
小さな命にあたふたするのは私だけじゃなくて、りーくんも。
そして兄は生まれてくる前から浮かれすぎて、そして心配し過ぎて透に呆れられていた。陸さんもこっちに帰ってきて、私のお腹を撫でてくれた。
大輝にぃは頻繁に顔を出して困ったことを助けてくれる。
大輝にぃにも幸せになって欲しくて、色々と心配していたが、最近大事なひとを見つけたようで、少し安心した。
生まれてくる赤ちゃんには、こんなにも無条件で愛してくれる人がいることが私は嬉しい。
兄があの下宿を始めなければこんなにも素敵な人達には出会えなかった。
ありがとう。
みんなありがとう。
そして、
りーくんが私を選んだ。
だから私は幸せだよ。
小さな命が生まれた日、私は大好きな人にそう言うと、幸せそうにりーくんは泣いた。
それが愛おしくて、大切にしたくて、どうしようもなくて私も泣いた。
ここまで読んでくださり本当にありがとうございました。完結です。




