14 説明求ムって話
「咲笑さん、課題のことで…」
と、先生は言った。
課題というのは嘘だと思っていたので、少しほっとする。
「というのは、嘘です」
しかし、楠木先生のその言葉で私は準備室のドアを開こうとする。
嘘かよ!やっぱり嘘だったのか!
私のほっとを返せ!
私の不満げな表情に気付いたのか、楠木先生は
「だって、あなたが…化学係じゃないんですもん」
と言った。
「もん」って、楠木先生…あなたいくつですか。
めちゃくちゃかわいいけどさ。
「仕方ないじゃないですか。じゃんけんに負けてしまったんですから」
と、私が言うと、楠木先生は黙る。
それから先生は、椅子に座り何か考えて始めた。
しばらくの沈黙…。
私はそれに耐えきれなくなって、楠木先生に声をかけようとしたが、
ーガン
と椅子の倒れる音がした。
音のしたほうを見ると、楠木先生が勢いよく立ち上がり、そのせいで椅子が倒れたようだった。
立ったまま、動かない先生に私は声をかけた。
「先生…どうかしたんですか?」
「ええ、とても重要なことを思い出しました」
と、楠木先生は言い私の方に歩いてきた。
何故か脳が危険信号を出しているため、後ろに下がる。
が、楠木先生は下がった分だけ寄ってくる。
危険信号が鳴り止まない。
なんだか、分からないけど、とてもよくない状況な気がする。
ついに、私の背中がドアについた。
いつの間にか、楠木先生は私の真ん前に立っていた。
すごく、近い…。
楠木先生はドアに手をついた。
さらに距離が近くなる。
ドアを、ドアを開けなきゃ。
私はドアの方に体を反転させ、鍵を開けようとしたが、
「咲笑さん」
と、名前を呼ばれ手を掴まれてしまった。
これは、振り返るしかないと、観念して楠木先生の方に体を向けた。
先生の顔は笑顔だが、なんだか怖いオーラを感じる。
「さっき、号令をかけてましたよね?もしかして、学級委員になったんですか?」
「はい」
「まさか立候補とかじゃないですよね?」
「まさか!」
私は強く否定する。
すると、先生はすごく近い距離をさらに縮めるように顔を近づけてきた。
やーめーてー。
「それなら良かった。良いことを思いついたんです。あなたが、学級委員で良かった!楽しみにしていて下さいね」
と、先生はとびきりの笑顔で言った。
口調的には小さい男の子が「良いこと考えた!!」と言った時と同じだ。
なんだか、とても楽しみじゃないが
「はい」
と返事をしておく。
「残らせてしまってすいませんでしたね。ではまた次の授業で」
と言って先生は準備室のドアを開けてくれた。
「さよなら」
と、私は言って走って帰った。
楠木先生=危険人物
ーーーーーーーーーーーーー
そんなこんなでやっと放課後になった。
廊下を歩いていたら、杉谷先生に会った。
ホームルームでも会ったが。
「おっ、坂田!」
「こんにちは」
杉谷先生は教材を載せた台車を押していた。
すごい量だ。
まあ、新学期だから当然といえば当然だが。
「今日の学級委員の件ありがとうな」
と、杉谷先生は言った。
私は曖昧に
「はい」
と言うだけにしとく。
杉谷先生に押し付けられたんだもん。
「そんな顔するな。押し付けたつもりはないぞ。俺がお前にやって欲しかったから推薦しただけだ」
と、杉谷先生は私の心を読んだように言った。
おお!エスパーか!?
押し付けたんじゃなくて、推薦か…。
「はい。頑張ります」
やって欲しかった、と言ってもらえたからか、素直にそう言えた。
「それじゃあな。気をつけて帰れよ」
と杉谷先生は言い、台車に手をかけた。
「先生、1人で大丈夫ですか?」
私は杉谷先生の教材の量が気になりそう言った。
すると、先生はものすごく驚いた顔をした。
「なにが?」
杉谷先生の声がいつも違うトーンだった。
「教材を運ぶの1人で大丈夫かな?って思って…」
私は少し戸惑いながら答える。
「ああ、そういうことか」
と、言っていつもの杉谷先生に戻った。
主語がない私が悪かった。
「大丈夫だよ。このままエレベーターで国語科室まで行くからな。ありがとう」
と杉谷先生は私の頭を撫でた。
優しい手だ。
「坂田のそういうところが、学級委員に推薦した理由だな。押し付けたんじゃない。お前にやって欲しいと思った。ただそれだけ」
と、杉谷先生はさっきとまた同じようなことを言って、飴玉を私の手の上にのっけてからエレベーターの方に歩いて言った。
「先生ー。ありがとうー」
と、飴のお礼を言うと、
「校門出てから食えよ」
と、杉谷先生は後ろ向きに手を振りながら言った。
この前と同じ飴。
私の好きな飴だ。
やっぱり、杉谷先生は良い先生だ!
昇降口で靴を脱ぎながら、陸さんにメールをする。
From 坂田咲笑
To 安藤陸
----------------
もうすぐ学校出ます。
すぐに返信が来た。
From 安藤陸
To 坂田咲笑
----------------
もしかして、咲笑ちゃん、お兄ちゃんいたりする?
いきなりだった。
今まで、陸さんと、そういう話をしたことがなかったのは確かだが、突然どうしてだろうと思いながらも返信をする。
From 坂田咲笑
To 安藤陸
----------------
マッチョで少し頭の弱い兄がいます。
自分でも兄を表すのにこれほど適した言葉がないと思うくらいぴったりな表現を陸さんに送る。
メールを送り終えたあたりで、校門を出た。
え?え?
なんで…?
なんで、兄と陸さんが一緒にいるの!?
しかも、私の学校の校門の前で!
「咲笑!」
と、兄に名前を呼ばれ停止しかけていた脳が動き始める。
が、どういう状況か、理解できない。
陸さんは、苦笑いを浮かべている。
「なんだか、そんな気はしてたんだよね」
と、陸さんが小さい声で呟いたのが聞こえてきた。
「コイツがこの前言った…うぐごがががか」
兄が陸さんを見てそう言ったが、最後まで言い切れなかった。
陸さんに口を塞がれたからだ。
「紀之。今ここで話しても混乱するだけだから、一回家行ってからにしよう」
「あぁ、分かったよ」
と、兄は言って近くに止めてあった兄の車に陸さんと、兄は乗り込んだ。
エンジンをつける音が聞こえた。
「咲笑、早く」
と、窓を開けて顔を出している兄が私を呼ぶ。
遅れて私も後部座席に座る。
「咲笑ちゃん、学校お疲れ様」
と、陸さん。
「おかえり、咲笑」
と、兄。
和やかなムードが流れる…が!
いやいや、よく分からん。
おかえり、とか言う前にこの状況を説明してください!!!




