吸血鬼の私だから
不満を抱きながら梢は皆が帰ってくるのを待った。
そして帰って来たクロウ達に料理を振る舞う。
食事をしながら事情を聞くと──
「むぅー……」
私は中々皆が帰ってこない事に不満を持っていた。
でも、家に居ろと言われたのでうだうだするだけ。
「ただいま戻りました」
「遅くなったすまん」
「遅くなりました」
「コズエ様、ご無事ですか?」
「梢、飯を寄越せ。腹が減った」
クロウぶれない。
「「「「クロウ様……」」」」
四人が遠い目でクロウを見てる。
「はいはい、ハンバーガーでいい?」
私は呆れたように言った。
「ポテトとレモネードもだ」
「はいはい。皆もそれでいい?」
「手伝おう」
「いや、いいよ。皆多分疲れたでしょう? 私暇してたから」
そう言って断り、一人で作る事に。
トマトは入れない、実は好きじゃ無いから。
トマト抜きのハンバーガーに文句を言う人はここには居ない。
ポテトも揚げる、レモネードを作る。
クラフト能力もあって、てきぱきと動ける。
「はい、全員分お待たせ」
クロウの分はひときわ大きいサイズにしてある。
クロウ、食べるからね。
「ではいただこうか」
そう言ってクロウはハンバーガーに齧りついた。
「うむ、美味い」
「肉とチーズとレタスがいいな、パンも美味いしソースも美味い」
「そう、なら良かった」
「ジャガイモも美味いですね、細く切ってあげるとこんなにカリカリとしてそして塩気が効いて美味いとは」
割と好評な気がして満足。
私も食べる。
うん、美味しい。
今度は鶏肉の奴作っても良いかな、とか思う。
私が一番好きな奴。
揚げたチキンとレタスとソースでできたような気がするから……多分。
「ところで、何かあったの?」
「旧デミトリアス聖王国と旧イブリス聖王国の合併国の連中とエルフの里の連中が攻め込もうとしてきたからお帰りいただいた」
「ああ、そうなんだ……」
と納得しておくけど、多分丁重に帰って貰ってないと思う。
多分何名か殺されていると思う。
いや、ぶっちゃけそうでしょ、じゃないと私を出さない理由がない。
でも私は聞かない。
聞いちゃいけないんだろう。
わざわざ気遣っているのだから。
それがいい。
「で、クロウはどっか行ってたの」
「ああ、その二つに行って脅してきた。次は無い、とな」
「なるほどー……」
次は無いって警告するあたりクロウも優しいよね、なんだかんだ。
いや、そうでもないか?
分からない。
「おかわり」
「はいはいー。ハンバーガーだけ?」
「全部」
「了解」
私は腹ぺこクロウの分をまた作り始める。
クロウは自分で食事を取らないから、作ってあげないといけない。
だから、たまにこうして食事を提供している。
さくっと作ってクロウに渡すとまた齧りついた。
私は少し冷めたポテトをむしゃむしゃと食べる。
これはこれで美味しい。
普通のポテトならしなっとしてしまうのに、私が作ったのはそうならない。
これが妖精と精霊と愛し子パワーで育った作物の力なのかな?
とか思ったり。
「では、我は戻る」
食事を終えると、クロウは家を出て行った。
多分戻るついでに村の夏祭りのアイスとかき氷とシャーベット食べてるんだと思う。
「では、私は王族の方々との話し合いに出てきます」
「私要らない?」
「コズエ様のお耳には入れたくない話もありますので」
シルヴィーナは苦く笑った。
やっぱり吸血鬼だからかなぁ?
「あ、コズエ様が吸血鬼だからと言うわけでは無く、お金の話になりますので……」
「あ、そうなの」
「クロウ様から金に関する内容はコズエ様の耳に入れるなときつくお達しがあり……」
何、お金の話って相当やべーの?
「と言うわけで私にお任せ下さい」
「あ、うん」
「コズエ様は、アルトリウスさん達と夏を楽しんでください。夏の夜は短いのですから」
そう言ってシルヴィーナは家を出て行った。
「……」
さてどうしようと首をかしげる。
「夏祭りに行くか?」
「そうだね、浴衣に着替えよう。あ、三人も何か着る?」
と言うと、丁重に断られた。
浴衣も甚平も似合うと思うんだけどなーと思うだけに残念。
浴衣に着替えて三人と外に出る。
花火が上がっている。
「夏場はやっぱり花火よねぇ」
「そうなのか?」
「うん」
「そうか」
アルトリウスさんとアインさんと手を繋ぐ、ティリオさんはアインさんと手を繋いでいた。
今度ティリオさんとも手を繋ごう。
私はアイス、アルトリウスさんはシャーベット、アインさんもシャーベット、ティリオさんはアイスを選んだ。
アルトリウスさん、ブラッドフルーツのシャーベットが特にお気に召してるみたい。
私とアインさんとティリオさんは昨日とは違うのを選んでいるのに。
まぁ、朝ご飯ならぬ夕ご飯に時折ブラッドフルーツ丸かじりしてる私が言っても説得力無いか。
血の味を美味しいと思うんだもの仕方ないね、吸血鬼だもの。
「コズエ様!」
「イザベラ様」
イザベラちゃんが抱きついてきたので、アイスをアルトリウスさんに持ってもらい、抱きしめ返す。
「あら、イザベラ様の浴衣、私が作った物じゃないですね?」
「そう! お母様が極東から布を取り寄せて、仕立屋の者に縫って貰ったの、コズエ様の浴衣を参考に」
「そうなんですか」
確かに、イザベラちゃんは成長が著しい。
あの浴衣も小さくなってしまったのだろうな。
無邪気な子どもに見えるが立派なレディなのだろう。
「イザベラ、駆け出さないでくれ」
「あ、ロラン様。ごめんなさい。コズエ様のお姿が見えたから」
「なら、仕方ないな」
ロラン君、申し訳ない。
「ロラン様、すみません」
「いえ、良いんですよ。貴方はイザベラの恩人なのですから」
うーん、イザベラちゃん連れてきたのはレイヴンさん達だから私は恩人かと聞かれても……なぁ。
「ええ、コズエ様のジュースとコズエ様が隷属の首輪を破壊してくれたから私は奴隷にならずすんだのです」
「んーまぁ、そうだね。でも、イザベラちゃん達が生きようとなんとか頑張ろうとしなかったら私のジュースも効果が無かったと思うよ」
「コズエ様……」
「私は助けを求められたから、助けられる範囲で助けただけ」
「コズエ様はやっぱりお優しいです。それなのにコズエ様を悪く言う人がいて私許せないです」
「私吸血鬼だからね、しょうがないよ」
そう言ってイザベラ様に微笑む。
「そんな事関係ないです! エルフの方でしたっけ、クロウ様から聞きました、助けて貰ったのに吸血鬼だからって危害を加えようとしてたって!」
「クロウ……」
余計な事喋るなよ、全く。
「恩を仇で返すという言葉があると一二三から聞きました、まさにそれですわ!」
「あー……まぁ吸血鬼が愛し子なのは認めたくないんだろうさ」
「コズエ様は吸血鬼かもしれませんが、何処の誰よりも優しい御方です!」
う、イザベラちゃん目を潤ませながら言ってる。
「ごめん、有り難う私の為にそう怒ってくれて」
そう言って抱きしめる。
「コズエ様……」
「少しは怒るようにしますね、私も。吸血鬼で悪かったな位は」
「そうですわ、コズエ様は吸血鬼でも問題ないのですわ!」
熱弁するイザベラちゃん。
吸血鬼は忌避される存在かもしれないけど、それでも私は愛し子としてできることをこれからもやるつもりだ。
「コズエ、アイスが溶けるぞ」
「あマジ?」
「イザベラ、君のアイスも溶けてしまうよ」
「まぁ」
私とイザベラちゃんは顔を見合わせて笑ってからアイスを返してもらい、一緒に食べ始めた。
溶けかけだったけど、それもまた夏の風物詩、と言うことで。
梢薄々というかハッキリ気付いてます、自分が連れてかなかった結果に。
でも梢は口にしません、それが最良だと分かっているからです。
また祭りではイザベラ達が梢に助けて貰ったのにと怒りますが、吸血鬼の扱いなんてこの世界じゃそんなもんです。
それくらい忌避されてるのだから、梢は今のままでいいだと割り切ってますが、怒るときは怒るでしょう。
伴侶や村人達が害なされた場合は。
ここまで読んでくださり有り難うございました。
次回も読んでくださると嬉しいです。
イイネ、ブクマ、感想、誤字報告等有り難うございます。




