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終わらないもの

13.終わらないもの


 あれから随分と時が経った、その後も奇跡を起こせるという人物を探し、世界各地、色々な土地を巡った。

 人々の病気を治したり、何もない空間から食べ物を出したり、それ自体は本物の奇跡ではないが、確かに奇跡を起こせるという人物たちは人々を苦しみから救っている場面を何度も目撃した。それは、偽物の奇跡ではあったが、人々を苦しみから救う姿は、奇跡を起こしていると言っても差支えがなかった。


 良き魔人、悪き魔人を操る指輪を持っていると言われた王様、人生の意味を追求し、生死の苦しみを超えた先の道を究めた王族、神の子と呼ばれ多くの弟子を連れた好青年、優れた政治力で戦争の絶えない地を統一した預言者、彼らはみな奇跡の体現者だった。

 ただ、求める奇跡ではなかった。人々を救う姿に感銘を受け、心が救われる気持ちもあったが、本当の意味で誰も救ってはくれなかった。


 不老の謎を解明し、自らもそうなりたいと望んだ物たちも多くいた。大体はその地域を支配した、王たちだった。戦いに明け暮れ、広大な地域を征服した者、その力によって世界の半分を手に入れた者、争いの絶えない土地を見事に統一した者、色々な王がいた。

 彼らは、不老の秘密を知るために、金や財宝を積んだり、脅したり、媚びたりしてきたが、そもそも望んでこの状態になった訳ではなく、教えてやりたくても教えてやることは出来なかった。


 そんな世界にも大きな影響を与え、奇跡や恐怖で人々を導こうとした彼らとの交流は、刺激的で、素晴らしいものであった。リュウとカイ、3人で旅した、あの冒険にも匹敵するほどの、体験をした。いつか誰かに面白可笑しく語る日を楽しみにしている。

 だが、結局、この世界からの去り方を、誰も教えてはくれなかった。


 今となってはここから去る方法を知ることは諦めた。それでも、叶うことなら、もう一度家族に会いたい。もう、顔もはっきりとは思い出せないが、愛しい息子と娘に会いたい、そして愛する妻を抱きしめたい、そう思った。きっとこの想いだけは、どれだけ時が経とうとも消えることがないだろう。

 元いた世界が同じ時間の流れならば、とっくに天寿を全うしてくれていると思う。もし違う時間の流れで生きているのなら、とにかく平和で安全で、苦しみもなく、笑って過ごしてくれていることを心から願う。ただただ切に願う。


 今は、かつて世話になった相国が愛し、良く自慢していた、水上に立つ大きな社殿のある土地に暮らしている。この水上社殿の景色は私も好きで、だいぶ長い間ここに留まっている。便を考え都市部に居を構えてはいるが、船を使えば直ぐに社殿を見に行くことが出来る。

 最近ではこの地方都市でも美術展が良く催さられるので、美術品を鑑賞しに遠出しなくても良くなり、とても便利で気に入っている。時間だけはいくらでもあるし、しばらくはこの地に留まろうと思っている。

 そうそう、この地に着いてから、漢字を覚えた。元々文字を覚えるのは得意ではなく、大分苦労はしたが、少しは書けるようになった。最初に覚えたのは、劉と魁だ。彼らの名前を書けるようになった。今思えば、それが氏なのか名なのかもわからない。でも二人は劉と魁だ。


 相変わらず人々は争いが好きで、この地も、いつまた大きな争いに巻き込まれるかもしれない。先の世界大戦では多くの命が奪われた。今では大量殺りく兵器が開発され、世界の情勢はいつにも増して不安定さが聞こえ伝わってくる。だが、残念なことに、それをどうにかできる力を持ってはいない。

 いくら不死に近い存在だとしても、兵器を使用した人類同士の大きな争いを止めることは難しい。問題となる独裁者を暗殺することは簡単でも、それで大きな争いが止まることはない。一時的に争いが止まったとしても、また新たに問題を起こす独裁者が世界に現れる出だけだ。

これでは人々が争いを止めるまで、いったい何人を暗殺しなければならないのか。多分、暗殺対象がいなくるのと、人類絶滅は同じタイミングなのだろうと思う。

 自らの力を拡大させること、それが生物としての性、その力を拡大させる手段に、無差別に生物を抹殺する兵器を用いることが、人類の業なのだろう。


 世界を平和にしたかった、心からそう願ったからこそ、この世界にいるのだと思う。でも、この3700年あまり、一つも世界の平和に貢献出来なかった。ただ、人々の争いを、その悲惨さ、凄惨さ、悪意、憎悪をこの目に焼き付けてきただけだった。単なる傍観者に過ぎなかった。

 ひょっとしたら、いやきっとこの先も、より悲惨なものを目の当たりにするかもしれない。そう分かっていても、それから逃れる方法は分からない。

 いや、方法はただ一つ、この世界に来た時と同様に、この世界に俺を送り込んだ存在にお願いをするしかないのだろう。当然お願いなら何千回、何万回と心からお願いした、だが、どうにもその願いは叶えてくれそうにない。

 いっそ、正気を保てなくなれば楽になるのかもしれない。いや正気はとっくに失ってはいるのだとは思うが、のうのうと変わらず生きている。こんな自分は好きになれないし、前向きにもなれない。それでもリュウとカイとの旅、彼らの生き様を、彼らの笑顔を思い出すと、情けない自分に鞭を打ち、まだ頑張らなければならないと、やれることをやらなければと、思う。


 リュウとカイがいなくなった後、世界の平和に貢献できない情けない自分を誤魔化すために、カイがしたように、身寄りのない子供たちを引き取り、保護し、しっかりとした教育を行い、世に送り出してきた。あの子たちが少しでも世界の平和に貢献出来るように、一人でも多くの命を救えるようにと。そして、この事業は、これからも続けていこうと思う。

 いつの時代にも争いで親を亡くす子供たちは多かった。親を亡くしたほとんどの子供たちは生きていくために、自らの命を削って犯罪に手を染める。運があれば犯罪組織の一員となり多少命を繋ぎとめるが、運が悪ければあっけなく死んでしまう。

 そんな生き残るために、命を削る子供たちを一人でも多く助け、その子供たちが犯罪に関わらず一人で生きて行けるように、願わくは、人の役に立てるような人間になれるように、努力をしようと思う。きっとリュウもカイも応援してくれるのではないかと思えるから。


 それから、人間同士の争いの悲惨さを、人類の愚かさを後世に伝えるために、見てきたものを文字にし、記録として残している。この記録を多くの人に読んでもらい、争いをやめるきっかけとなって欲しいと願い、情報として発信している。

 果たしてそんなことが、世界の平和に繋がるのかは分からない。でも、こんなことしか出来ない。これから先どのくらい時を過ごすのか、果たして終わりがあるのかも、何もわからないが、召喚されたこの地球という惑星、流れ着いたこの島国が、これからも平和であるように、天に祈り続けよう。

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