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第70話 お近づきのしるし①


 重そうな体を上下にフラフラさせながら、ジョンが背中の羽を『ブ~ン』と鳴らして飛んで行く。


 それを見て、エリスが


「蟲族って飛べたんですね……」


「あ、ああ。そうみたいだな……」


 エリスと二人で蟲族が空を飛べた事に驚いていると


「ケビン君。その鎧は何か理由があって着ているのかな?」


 急にカケさんが装備について聞いて来た。


 カケさんを見ると、俺の鎧に埋め込まれた【体力半減】の宝玉を見ていたので


「このマイナス装備の鎧を着たまま稽古をすれば、体力を底上げできるってリッカが教えてくれたんです」


「へ~、そうなんだあ。で、どう? 実際に効果は得られたのかい?」


「はい、お陰で体力は増えましたし、闘気も意識して使えるようになりました」


 すると、カケさんが片方の眉を上げながら


「闘気? 人族って気力のことを覇気って言ってなかったっけ?」


「あっ! そっか! いや、実は俺、ゴライアスの剣術をリッカから教えてもらってまして、それでつい闘気って言っちゃいました……」


 ポリポリと頭をかいていると


「へ~、そうだったんだあ。いや、別に人族だから覇気って言葉を使わないといけないって事はないから、別に構わないんだけど、ただ、人族のケビン君が魔族みたいに闘気って言葉を使ったんで、ちょっと気になってね」


 と言い、カケさんが不思議そうな顔をすると


「でも、なんでケビン君は体力の底上げをしようって思ったんだい?」


 一瞬、傷つき泣き叫んでいた時のターニャの姿が脳裏に浮かび、直ぐに助けることが出来なかった時のやるせない気持ちを思い出すが、それと同時に、楽しそうに魔法の稽古をしているリッカとターニャの姿も脳裏に浮かぶ。


 思わず口元が緩んでしまったが、表情を元に戻し


「自分にとって大切な人達の身を守れる力が欲しいと思ったからです」


 すると、カケさんが真剣な表情で


「そっか、ケビン君は力を欲しているのか……」


 遠くを見てしばらく黙ると、今度はエリスの左手首に着けているブレスレットを指さし


「エリス君のそれは、どういった経緯で身に着けてるのかな?」


 エリスが【魔力半減】の宝玉が埋め込まれたブレスレットを右手で触ると


「これは母からは『強くなるためのお守りよ』と言って渡された物で、今までお守りとして身に着けていたのですが……、ケビンさんにマイナス装備だと教えてもらいました」


「うん、確かにそのブレスレットには【魔力半減】の宝玉が埋め込まれているね」


「はい、でも……、もしかしたら母は私に魔力の底上げと魔力操作を鍛える為に、これを身に着けさせたのではないかと……」


 すると、カケさんが口元に笑みを浮かべると


「あ~、確かにニュクスが考えそうなことだねえ」


 と言い、こっちを見ると


「ケビン君は鑑定が出来るんだ?」


「はい、前まで武器屋で働いていたんで、そん時にお世話になった店主から装備品や宝玉の目利きを色々と教えてもらいました」


「へ~、そうなんだあ」


 意外そうな顔をして俺を見るカケさんに


「ちなみに、俺は装備品や宝玉を眺めるのが好きで、エリスはレア装備に埋め込まれた宝玉を眺めるのが好きなんですよ」


 すると、カケさんが驚いたような顔をして


「えっ! エリス君も!?」


「は、はい……。でも、母には内緒にしてもらえると、ありがたいです……」


 伏し目がちに話すエリスを見て、カケさんが口をへの字にすると


「あ~、ニュクスからしたら、娘が宝玉を眺めるのが好きっていうのは、ちょっと複雑な気持ちになっちゃうかもねえ。あっ! もちろんニュクスには黙っとくから心配しなくて大丈夫だよ」


「あっ、ありがとうございます!」


 エリスが勢いよく頭を下げる。


 すると、カケさんが


「エリス君に質問なんだけど、そのブレスレットが【魔力半減】のマイナス装備だって分かったのにもかかわらず、なんで外さずに今でも身に着けているのかな?」


 エリスが少し考えるような仕草をして


「母から貰った物なので簡単には外せませんし、私自身もっと強くなりたいので、今まで通りこのブレスレットを着けたまま、魔力の底上げと魔力操作を鍛えたいと思いまして……」


「なるほど……」


 と言い、少し表情を硬くすると


「じゃあ、エリス君はなんで強くなりたいって思うのかな?」


「母のお陰で私たちは魔物扱いされなくなりましたが、それでも私たちは色々と危険な目に遭いやすい種族です。なので、いつまでも母に頼ることなく、いざって時の為に自分の身は自分で守れるように強くなっておきたいからです」


 と、エリスが即答すると


「そっかあ、エリス君も強くなりたいのかあ……」


 カケさんが何度か頷き、遠くを見つめて黙ってしまった。


 そんなカケさんを見てエリスが俺を見る。


 だが、俺だってカケさんが何で黙ってしまったのかなんて分からないので、首を振って答える。


 すると、カケさんが


「エリス君。今から魔法を放つから、ちょっと打ち落としてくれないかな?」


「えっ? 魔法を打ち落とすんですか?」


 エリスが聞き返すのと同時に、数え切れないほどの大量の火球が出現すると、防壁の外に向かって飛んでった。


 うおっ! 物凄い数の火球がいっぺんに飛んでくあんな光景、初めて見たぞ!!


 やっぱエルフってスゲーんだなっ!! 


 などと、感動しつつ


 でも、あれをカケさんは魔法で全部打ち落とせって言ってるのか? 流石に全部は無理だろ?


 と思い、エリスを見ると


 両手を前に突き出し真剣な表情をしていた。


 えっ? もしかして? エリスはあの大量の火球を全部打ち落とすつもりなのか!


 火球の方に目を向けると、あんなにあった大量の火球が既に半分近く消滅していた。


 おいおい……、エリスって何気に物凄い魔法使いなのか?


 などと思っている間に、火球が次々と刃物で斬られたみたいにスパスパ両断されてドンドン消滅していく。


 ん~、火球が次々と消滅してく様は、見ていてなんだか気持ちが良いなあ。


 などと思いながらエリスを見ると、必死で魔法を放っているようには見えないし、特に焦っている様子も感じられない。


 ん~、さっきエリスが自分の身は自分で守りたいって言ってたが……


 これなら別に自分の身なんて余裕で守れるんじゃないか?


 などと思いながら、火球の方へ目を向ける。


 もう既に、数えるほどしか火球は残っていないが、結構な速さで飛んでった火球はかなり遠くの方まで移動していた。


 流石にここからじゃ、もう届かないだろうなあ……


 などと思っている間に、残りの火球も次々と斬られ、気づけば全ての火球が消滅していた。


 おお! なんやかんやで火球を全部打ち落としちゃったよ!!


 スッゲーな!


 エリスって、礼儀正しくて宝玉が好きなクモ娘なのかと思ってたが、実は魔法も使えるクモ娘だったんだなあ…… 


 などと思っていると、カケさんが


「うん! 威力も精度も申し分なかったよ! 思っていた以上だったんで、ちょっと驚いちゃったよ」


「あ、ありがとうございます?」


 エリスが理由は分からないが、とりあえず褒められたので礼を述べたって感じの表情をすると


「これなら安心してエリス君にも魔物退治に参加してもらえるよ」


「えっ? 魔物退治?」


 首を傾げるエリスにカケさんが


「そう、魔物退治。今って蟲族の女王が出産中なんだけど、その期間ってどうしても魔物が寄って来るから、いつも僕とヤマ、それと蟲族達とで魔物を撃退してたんだけど、今回はドワーフ国で発生した魔物が大量にこっちに流れてきてるから、撃退するのに人が足りなくてね」


 困った顔をするカケさんに、ちょっと気になったので


「ドワーフ国って、ナントカって将軍が戻って来たから、状況は良くなったんじゃないんですか?」


 すると、カケさんが口をへの字にして


「ハデスは首都の方に集中している魔物に手こずってるみたいで、首都から離れた地域の転移魔法陣にまでは手が回ってないのが現状でね」


 そうだった、ハデス将軍だ!


 思いっ切り名前を忘れてたな……


 何やってんだよハデス将軍。


 頑張ってくれよ……


 などと思っていると、カケさんが


「だから、リッカ君とターニャ君にはティターニアと一緒にドワーフ国に点在している転移魔法陣を破壊しに行ってもらってるよ」


「えっ! リッカ達ってドワーフ国に行ってるんですか!」


「うん、ドワーフ達が兵を首都から離れた地域に出せずにいるから、いつまで経っても魔物が減らなくてね。だからリッカ君とターニャ君には魔物の供給元である転移魔法陣の破壊に行ってもらってるよ」


「カケさんが既に俺の事をリッカから聞いてたっぽいので、もう村には到着してるんだろうなあって思ってましたが、まさかドワーフ国に行ってるとは……」


「彼女達ならだいぶ前に到着してたし、状況を説明したら直ぐに魔物退治に出発してくれたよ」


 そっかあ、リッカ達とは入れ違いだったのかあ。


 すると、カケさんが


「リッカ君は『久しぶりに加減しないで魔法が使える!』って、張り切ってたし、ターニャ君は『師匠の本気が見れる!』って目をキラキラさせてたよ」


 あ~、物凄く上機嫌なゴリラが魔法をぶっ放して、その姿を見てカッコイイとか言ってるヘビ娘を安易に想像できるなあ……


「転移魔法陣に関してはリッカ君達にお願いしたから、エリス君にはヤマと一緒に迷宮から溢れた魔物退治に向かってもらおうと思ってるんだけど、手伝ってもらえるかな?」


「は、はい。私でお役に立てるのであれば……」


 エリスが目を伏せながらも魔物退治にやる気を見せるが、俺としては見過ごせないので


「ニュクスさんからエリスを頼まれた俺としては、あまり危険な場所には行って欲しくないんですけど……」


 すると、カケさんが笑顔で


「大丈夫、大丈夫。ヤマも一緒だから、全然危険じゃないよ」


「えっ? でも、ヤマさんって確か言語学者をされてる方ですよね? 魔物退治とかって危なくないんですか?」


「確かにヤマは言語学者だけど、転移魔法が使える程度にヤマも魔法に精通してるから、全然大丈夫だよ」


 なるほど、転移魔法が使えるから大丈夫なのか……


 だがしかし、俺には転移魔法の凄さが分からないので


「ちょ、ちょっとすいません」


 と、カケさんに一言断りを入れてから、エリスに小声で


「なあ、転移魔法ってさっきニュクスさんが使ってたヤツだよな? あれってそんなに凄い魔法だったのか?」


「えっ?」


 エリスがビックリしたような顔をしたので


「いや、すまん。魔法に詳しくないんで転移魔法がどれだけ凄い魔法なのかが分からないんだ」


「そ、そうでしたか……」


 と言い、少し考えるような仕草をすると


「転移魔法は魔法の本質をしっかりと理解できた者でないと扱えない魔法です。なので、凄い魔法なのかと聞かれれば、凄い魔法ですとしか言いようがありませんね……。それと、転移魔法が使えるのは種族的に見て、長命なエルフしか存在していませんので、やはり凄い魔法の類になりますね……」


「えっ? 魔族は? 種族的に見たら魔族も魔法が得意なんじゃ?」


 エリスが首を左右に振ると


「確かに魔族もエルフのように魔法は得意ですが、魔法の本質に辿り着く前に寿命を迎えてしまいます……」


「ん? なら、ニュクスさんは? さっき使ってたのって転移魔法なんだよね??」


「母はエルフの血を色濃く引き継いでますので、見た目よりも遥かに長く生きています」


 あっ! そっか、ニュクスさんはアラクネだけど、父方がエルフだったから寿命が長いのか! などと、納得していると


「ちなみに、母の髪の色と下半身の蜘蛛の色は、私と同じで昔は黒かったそうです」


「えっ? そうなの? でも今って髪も蜘蛛も銀色じゃん?」


「あれは、加齢による現象です……」


「ん? どういうこと??」


 よく分からなかったので聞き返すと、エリスが話しづらそうな顔をして


「つまり……」


「つまり?」


「白髪です……」


「おっふ!?」


 ニュクスさんの長くて艶のある奇麗な銀髪が、まさかの白髪だったってことに驚いていると、カケさんが顔を引きつらせながら


「でも、ニュクスに白髪って言うと物凄く怒るから、その件に関しては触れない方が良いと思うよ」


 カケさんの表情を見て察した俺は


「わっ、分かりました。ニュクスさんの髪と蜘蛛の色については、今後話さないようにします」


 隣でエリスがウンウン頷いていると、カケさんが


「エリス君にはこれからヤマと一緒に魔物退治に向かってもらうんだけど、その前にこれを……」


 と言って、宝玉が埋め込まれた指輪を二つエリスに手渡した。


 それを見てエリスが


「えっと……、これはどういった効果のある宝玉が埋め込まれたレア装備なのでしょうか?」


 すると、カケさんが


「とりあえず、その指輪を左右の角にそれぞれはめてみてくれるかな」


「はい、分かりました」


 エリスがカケさんの指示に従って二つの指輪を左右の角に装着すると、カケさんがいつの間に取り出したのか、魔力が沢山詰まっていそうな大きめの魔石を目の前で破壊した。


「えっ! これって……」


 エリスが目を見開きカケさんを見る。


 すると、カケさんがいたずらを成功させた時の子供みたいな顔をして


「どう? スゴイでしょ」


「はい! 凄いです!」


 下半身の蜘蛛をせわしなく動かしているエリスを見て、カケさんが嬉しそうに


「その指輪には【魔力吸収】の宝玉が埋め込まれているから、魔力を回復させたかったら、魔石に触れれば魔力を吸収することが出来るし、仮に魔物との戦いで魔石を破損してしまったとしても、大気中に四散した魔石の魔力を吸収してくれるから、魔力を枯渇することなく大量の魔物と戦い続ける事が可能になるよ。それと【伸縮】の宝玉の効果で、装備者の身体に合ったサイズに伸び縮みするから、これからもずっと角に指輪を着けたままでも問題ないよ」


 エリスが角に着けた指輪に触れながら


「凄い! そんなレア装備も存在してるんですね!」


 カケさんがニコニコしながらウンウン頷き


「気に入ってくれたみたいで良かったよ、その指輪はエリス君に譲るからヤマと一緒に魔物退治をよろしくね」


 すると、せわしなく動かしていた蜘蛛の下半身をピタッと止めて


「えっ! いやっ! 流石にこんな凄い効果のレア装備を頂くのは……、ちょっと……」


 エリスが困っていると、カケさんが優しく


「ニュクスの娘であるエリス君に出会えた縁に感謝を込めて、お近づきのしるしとして受け取ってもらいたいし、強くなろうと頑張ってるエリス君への僕からの応援としてのプレゼントだったりもするから、受け取ってもらえると嬉しいんだけどなあ」


 と言い、ニコニコしながらエリスを見つめる。


 すると、エリスが姿勢を正して


「ありがとうございます! カケさんから譲ってもらった指輪はこれからも大事に使わせていただきます!」


 と言い、深々と頭を下げた。


「あはは。その礼儀正しい感じも、子供の頃のニュクスにそっくりだ。エリス君を見てると、なんか昔を思い出して懐かしくなるなあ」


「えっ! そう……、なんですか?」


「それそれ、その自信なさげな感じでオドオドする仕草とか、その表情が幼い頃のニュクスにそっくりなんだよ」


 感慨深そうにエリスを見て微笑むカケさん。


 そっかあ、そんなにエリスは幼い頃のニュクスさんにそっくりなのかあ……


 となると……


 エリスも何かの拍子にニュクスさんみたいに露出の激しい服装になって自意識過剰になっちゃうのか?


 などと思っていると、カケさんがニコニコしながら


「ケビン君」


 と言い、奇麗な装飾が施された立派な鎧を俺に手渡してきた。


 エリスが鎧を見て


「すっ、凄い! 宝玉がいっぱい!」


「ああ、凄いな……」


 カケさんから鎧を受け取り、早速宝玉を確認する。


 【体力減退】【気力減退】【腕力減退】【脚力減退】【魔力減退】と言った、装備者を物凄く弱体化させる宝玉と【清潔】【快適】【修復】【伸縮】と言った、直接戦闘には影響しないが、色々と便利な宝玉が埋め込まれていた。


 ただ、ひとつだけ全く効果の分からない宝玉があった。


 ん~、この宝玉は初めて見るな……


 などと思いながら、効果の分からない宝玉を見つめていると、エリスが


「……七、八、九、十個!!」


 宝玉の数の多さに驚くが、直ぐに難しい顔をして


「十個ある宝玉のうち、半分は見てると物凄くソワソワしてくるんですが……、これは?」


「ああ、装備者を物凄く弱体化させる宝玉が四つほど埋め込まれてるよ」


「やはりそうでしたか……」


 と言い、エリスが宝玉を見つめながら


「ちなみに、それ以外の宝玉はどういった効果なのでしょうか?」


「他は、戦闘向けというよりは、日常生活をより快適に過ごす事に特化した感じの宝玉だな」


「そう、でしたか。でも、宝玉が十個埋め込まれてるって事は……」


「ああ、レジェンド級だ」


 エリスが下半身の蜘蛛をせわしなく動かしながら


「ですよね! 私、初めて見ました!」


「ああ、俺もだ」


 すると、エリスがせわしなく動かしていた蜘蛛の下半身をピタッと止め、眉間に皺を寄せると


「なら、この鎧は……」


 と言い、俺を見るエリスに


「ああ、こいつはレジェンド級の()()()()()()だ」


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