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合同練習と懇親会(5)

「蝸行緩徐」


 シュッ


 俺は支援の大弓を引き絞って支援魔法を放った。魔法は弓なりの軌道を描いてビッグ・ロカのグループに命中した。


「(今だ)」


 命中したのを確認して、俺は戦闘開始の合図を出した。バッタが俺の魔法で動きを鈍らせるのを待ってからの合図だ。タイミングが早ければジャンプ力のあるバッタに跳ねられて、魔法が反れる可能性があった。


 最初に飛び出したのはタスクだ。


 暗殺術をメインとするタスクは、その隠密スキルを使って気づかれないうちにバッタに肉薄していた。そして、取り回しの利きやすい短剣で手近な1匹に致命傷を与えつつ、残りの2匹を俺たちの方へと追い込んだ。


「瞬脚」


 その瞬間、ユキが魔法でバッタの前に飛び出して、剣で横に薙ぎ払った。剣は2匹のバッタにまっすぐに直撃したが、剣戟の勢いで大きく横へと飛んでいった。


「げ!」


 バッタの体重が想定より軽く、深く切りつけられないまま飛んでいったため、ユキが焦った声を上げた。


「(私が!)」


 カレンお嬢様がそう言った瞬間、ユキの動きを先回りしていたタスクが宙を飛ぶバッタ2匹を連続で叩き落して戦闘は決した。


「よしっ」


 結局、初戦はタスクが3匹とも止めを刺して終わった。相手が草食性で小型の魔物ではあったが、一方的に戦局をコントロールした戦いで終われたのはよかった。最後はタスクのファインプレーだな。


「じゃ、さっさとコアを剥ぎ取ろう」


 魔物を倒したら即座にコア剥ぎをしてしまわないといけない。俺たちは手分けしてコア剥ぎ用のナイフでバッタの腹を裂いてコアを取り出した。


「次は私も活躍したいですわ」


 今回出番がなかったカレンお嬢様が両腕に力を込めて気合いを入れていた。それなら、次は魔法攻撃メインのパターンでいってみることにしよう。


 コアを剥ぎ取った後、死骸はその場に捨てて、臭いの強いコアと血を拭った布は密閉容器に入れて厳重に封をした。臭いが強いと、魔物が距離があっても臭いに気づいて逃げたり警戒したりすることがあるからだ。


 またしばらく歩いていると、次が見つかった。今度もビッグ・ロカが数匹のグループで周りにフーガはいない。


「(総員、戦闘態勢。今度は魔法でいく)」


 1回目と同じように、バッタに気づかれないように配置について、俺の支援魔法を合図に攻撃を仕掛ける作戦だ。ただし、今度の攻撃の主体はユキじゃなく、カレンお嬢様の魔法攻撃になる。


「蝸行緩徐」


 支援の大弓でバッタの動きを鈍らせ、背後に回ったタスクの不意打ちでバッタを追い込む。そこで、満を持して主砲のお出ましだ。


「(今です)」

「業炎心熱烈火灰壊」

「(タスク、逃げろっ!)」


 カレンお嬢様の詠唱を聞いた俺は、慌ててタスクに回避を指示した。


「防炎」


 さらに、支援の大弓を引いて最速で防御魔法をタスクに放った。防炎がタスクに届いた直後、カレンお嬢様の魔法もバッタの集団の中心に直撃した。


 その瞬間、着弾点を中心に不吉な黒い焔が上がって周囲に燃え広がった。タスクは防炎が焔を抑えている間に、地面を転がって辛うじて黒い火炎を避けたようだ。焔はひとしきり燃え上がり、範囲内をすべて灰に変えて燃え尽きた。


「(どうですかっ?)」


 カレンお嬢様はドヤ顔で俺を見てくるが、今の攻撃魔法は明らかにオーバーキルだ。魔石の消費が魔物から入手できるコアに釣り合っていない。しかも、一歩間違えたら味方に誤爆していた。


 でも、どうやって注意したらいいんだ、これ。というか、注意するの、俺の役目なの?


「す、すごーいっ! 今の上級魔法じゃないですか。初めて見ました! これがあればドラゴンでも倒せますよ!!」


 と、俺が悩んでいる心も知らず、ユキが目をキラキラさせて興奮気味にカレンお嬢様を褒め称えた。おいおい正気か。確かに上級魔法はすごいけど、今使う魔法じゃなかっただろ。


「すげーっ! すげーっ!」


 ユキだけじゃなく、下手したら直撃して大火傷を追っていたかもしれないタスクまで、興奮した様子で駆け寄ってきた。


「お前、怪我は……なさそうだな」

「おい見たか、レン、今の」

「見たよ」


 さて、この場合、おかしいのは俺の方なのだろうか。カレンお嬢様には注意するんじゃなくて、むしろ褒める方が正しいのか?


「レン?」


 俺が困っていると、カレンお嬢様が不思議そうに俺の名前を呼んだ。と、俺の代わりにガリソンがお嬢様に話しかけた。


「お嬢様、あまりルーパイン様を困らせては可哀想です」

「ガリソン?」

「8文字魔法は、今は使うべきではありませんでした。4文字か、場合によっては2文字でも十分だったはずです」

「でも、強い魔法のほうが確実ですわ」

「ハンターはコアを売ってお金を稼ぐ仕事です。コアの売上より魔石を使ってしまったら仕事にならないのですよ」

「魔石を惜しんで魔物を仕留め損なったら、元も子もないですよね」


 ガリソンの説明を聞いても、カレンお嬢様はなおも不服そうな顔をしていた。俺は、どうしてカレンお嬢様が納得しないのか不思議だったが、次のガリソンの言葉を聞いて、はたと合点がいった。


「貴族が戦う時は、魔石を惜しんだ戦いはしません。魔石を惜しむ必要もないほどの大物か、あるいはお金のための戦いではないからです。が、ハンターは割に合わない戦いになるくらいなら、魔石を惜しんで戦いを避けるのです」


 つまり、カレンお嬢様は貴族学校で貴族としての戦い方を教えられてきたのだ。貴族なら、相手を確実に仕留められる戦術がベストとされているのだろう。


 それに対し、騎士学校では魔石を効率よく使う戦術がベストとされている。だから、カレンお嬢様が使ったような上級魔法は座学で取り扱うのみで実技で練習することはなく、俺もユキもタスクも見るのは初めてだった。ユキとタスクが大興奮なのはそのためだ。

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