合同練習と懇親会(6)
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
過疎ダンジョンでの実戦練習はいろいろと課題を残しながらも概ね大過なく進んでいった。
カレンお嬢様は魔法の選択に苦労している様子だった。これまでは何も考えずに最大火力の範囲魔法を使っていたのが、ここでは相手に合わせて必要最小限の魔法をピンポイントに当てないといけないからだ。しかし、ついつい火力が過大になったり、狙いが甘くなったりしていた。
ユキはというと、魔物との間合いに苦労しているようだ。近接戦闘で正面からぶつかるユキの戦闘スタイルの場合、魔物との距離感を自分の間合いにしないといけないが、人間とは違う動きをする魔物は予測が難しいらしくてなかなか有効打を入れられず、タスク、カレンお嬢様にキル率で差を付けられていた。
タスクは2人に比べると、比較的安定した戦績を残していた。が、戦闘回数を増やすにつれ、だんだんと戦績が下がっていった。3回連続で奇襲に失敗した時にはさすがに落ち込んでいたが、それには理由があった。
「莫風気円」
それに気づいた俺は、次の戦闘でタスクに支援魔法を掛けた。この魔法は掛けた相手の周囲の空気の流れを緩やかにして、気体の拡散を止める魔法だ。そして、タスクはその魔法のおかげで次の奇襲を成功させた。
「(レン、今、何をやったんだ?)」
「(臭いを消したんだよ)」
タスクの奇襲が失敗していたのは、これまでの戦闘とその後のコアの取り出しで身体に付着した臭いが原因だったのだ。身軽にするため、戦闘時はコアは身に着けてはいなかったが、服に染みついた臭いまでは取れなかったためだ。
「(莫風気円は自分に掛けるなら通常魔法扱いだから、タスクも覚えておくといいよ)」
「(なるほど)」
実は、支援魔法として分類される魔法は、自分に対して掛ける場合には通常魔法扱いとなるものが多くあるのだ。莫風気円や防炎などはそういう種類の魔法だった。ただ、騎士学校では魔石を節約する志向が強いため、直接的な攻撃魔法以外は積極的に教えられることはなかったのだ。
さらに個人ごとの課題に加えて、チームの連携の課題も見えてきた。特に、同じ騎士学校で学ぶタスクとユキはお互いの動きをある程度まで読み合って動いているが、カレンお嬢様についてはお互い初めて同士なのでどうしても連携がうまくいかないことが多かった。
そのため、タスクやユキとカレンお嬢様が同じ獲物を取り合うことになったり、逆に誰も攻撃をしなかったために取り逃がしたりということが頻発した。対処法として、事前に作戦のすり合わせをしたり、攻撃前に声かけをしたりして工夫してみたものの、状況は流動的に変化するのでなかなか単純に解決はしなかった。
「ガリソンさん、どうしたらいいでしょう」
「こればかりは、経験がものを言う世界ですからね……」
ガリソンに聞いてもいい処方箋はないようだ。
俺のチートwスキルを使った場合、全知書庫は最適行動を示し、千里眼は個々が狙っている魔物を教えてくれるが、どちらも連携ミスを直接教えてくれることはない。なので、結局、その情報を総合して判断するのは俺の仕事ということになってしまう。
ただ、それでもないよりはずっと良いので、戦闘中は多少うるさくても、全知書庫も千里眼も両方ONにして臨んで、何回かは連携ミスをカバーすることもできた。
これは、この方向で練習を積んで少しずつ修正していくしかないようだ。
そんな調子で、2回休憩をはさんで5時間近くもハンティングを続け、疲労も溜まってきてそろそろ引き上げ時かと思い始めた頃に事件は起きた。
「(あっちにいるぞ)」
その時の獲物は、たまたま俺ではなくタスクが見つけたものだった。タスクは徐々に目が慣れてきたらしく、俺に次いでビッグ・ロカを発見できるようになっていたのだ。
すでに何度も繰り返したルーチンワークに、俺たちは慣れた様子で戦闘配置についた。
「蝸行緩徐」
しかし、ルーチンワークに慣れ過ぎてしまったために油断して、戦闘前に確認すべき事柄をうっかり忘れていた。そしてこの回、運悪く当たりを引いてしまったのだ。
「(もらったっ!)」
「(タスク、後ろっ!!)」
「!!!」
タスクが飛び込んで切りかかったバッタはすでに別の魔物が狙っていた。体長70cmほどの山猫であるフーガは、このダンジョンで最も注意すべき肉食魔物だった。
目の前で獲物を横取りされそうになったフーガは、怒りを露わにしてタスクに飛びかかってきた。なわばりを荒らす外敵に対する明確な敵意を示していて、非常に危険な状態だった。
「瞬脚」
俺の警告で間一髪、初撃を避けることができたタスクは、追撃を逃れるため瞬脚を使ってさらに遠くまで距離を取った。ちょっとフーガと距離が離れすぎて牽制をするのが難しい間合いになってしまったが、態勢を取り直すには仕方ない。
「散気集意」
俺は興奮するフーガの足を止めるため、注意を反らす支援魔法をフーガに対して掛けた。激しい興奮は続いているが、魔法の効果で目標を絞れなくなり、戸惑っている様子が見られた。
このままフーガの厄介な身体能力を封じ込めながらダメージを蓄積して弱らせれば、確実に倒せるはずだ。
「石礫拳打」
と、カレンお嬢様がフーガに対して攻撃魔法を放った。
が、これは悪手だった。フーガに対しては威力が弱すぎて、むしろ目標をロストしたフーガのターゲットをカレンお嬢様が取ることになってしまった。
「(ユキ、カバー!)」
俺はユキを呼んだが、ユキは事態が飲み込めていないようだ。そして、フーガの動きは俺たちの誰よりも早かった。
フーガはまっすぐにカレンお嬢様に目標を絞って突進してきた。魔力による補助で瞬脚と同様の鋭い加速によって、一気にカレンお嬢様との距離を詰められてしまった。
マズいっ!
俺はとっさにフーガとカレンお嬢様の間に割り込んだ。俺は大弓を使った支援魔法以外の魔法は使えないし、俺の身体能力ではフーガの攻撃を受け止める力もないが、俺の身体を盾にすればカレンお嬢様への直撃を回避することくらいは可能なはずだ。
初撃さえ回避できればユキとカレンお嬢様の攻撃力でフーガを仕留めることは十分に可能なはず。細かいことはフーガを倒してから考えればいい。
「いい反応です」
フーガの爪が俺の身体を切り裂こうとする瞬間、フーガの首と胴体が生き別れになった。その横には、大剣を手にしたガリソンが立っていた。
「が、それではフーガの突進は止められませんよ」
お目付け役として付いてきたガリソンが、俺たちだけで対処できる状況でなくなったと判断して手助けをしてくれたのだ。助かったが、これは大きな減点だろうな。
「ありがとうございました、ガリソンさん」
「いえいえ。私も久しぶりにいい運動になりました」
当初のターゲットだったビッグ・ロカはすでに逃げた後で、俺たちはガリソンが倒したフーガからコアを取り出し、それで今日の実戦練習を終えることにした。
さすがに、もう、くたくただ。




