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禿さんと痴漢

豪徳寺高志:俺。24歳。普通のリーマン。悪友は多い。

豪徳寺瑞穂:20歳、171cmでスポーツが得意な妹。地味に慕われている。

豪徳寺初穂:150cmと小柄だが、ローキックが重い。女友達は少ない。

車いすの女:八竹玲奈。意外に友達はいるっぽい。

禿親父:連れの若い連中に親父さんとよばれている。怖い。

最近は、車いすの女を電車にのせる手伝いをするのが日課になってきてる。

ちっ、車いすというオプションに、カッコいい義足をつけているからって良い気になるなよ。


そう思いながら、車いすの女を電車にのせると高校生妹の初穂が、不機嫌に俺の服を引っ張る。


「おにいちゃん、そんな不機嫌そうに玲奈さんを電車にのせる手伝いするのよしなよ。悪いじゃん。」

車いすの女は優しい笑顔で初穂の腕をさすった。


「初穂ちゃんありがとうね。でもこういう人だって諦めてるから大丈夫だよ。」


その言葉に俺だってイラっときた。

「うるせえ、この女が車いすやカッコイイ義足を見せびらかすのがいけないんだよ。」


呆れた目を返された。

「あんた凄いよね。私の車いすや義足に同情する人は居ても、羨ましがられたのは初めてよ。」

「うるせえ、自慢か?それは自慢なのか?」


大学生の妹・瑞穂は本当に申し訳なさそうに車いすの女に頭を下げる。

「すいません、兄さんが本当にアホで。本当にスイマセン。」

「頭をあげてよ瑞穂ちゃん。本当に気にしていないから。ね、大丈夫だから気にしないで。」


なんで俺が悪いみたいになっているんだ?

っていうか、こいつら仲が良いんだよな。

家に帰ると、時々妹達に連れられて車いすの女がうちに居るし。


くそ、お兄ちゃんを仲間はずれにしやがって・・・。

だが諦めよう、男は白でも黒と言われる時があるものだ。

女たちとは理不尽なものだ。


そうそう、最近は車いすの女が乗り換えるまでの移動も俺がサポートしている。

これも勝負に負けた俺のペナルティ。

甘んじて受け入れよう。


その間、車いすの女と妹達は夕飯の事で盛り上がっていた。

おいおい、今日もウチで夕飯食べる気か?

いや別にいいけど。


食事の後に家まで送るのが面倒なんだよな。

いつも放り出してやろうかとも思うけど、帰りの時のコイツは妙にご機嫌だから憎まれ口も叩けない。

まあ、妹達も機嫌が良くなるから良いんだが。


そうしていると乗り換える電車が来た。

俺は持ち上げて車いすの女を電車にのせると、初穂を見る。


「初穂、お前いつも車いすの女をウチに呼ぼうとするが、ほかに呼べる友達いないのか?」


高速で初穂はこっちを振り返る。

クワッ!


すっごい目つきでにらまれた。

そして俺はさとる。

そうか、悪いこと聞いちまったな。


初穂はキレた顔で指さしてきた。

「ちょっと、なにその生ぬるい目つきは!私の事を友達のいない可哀想な子とか思っているでしょ!それは勘違いだからね。高校生はお互いの家に遊びに行ったりしないんだから。」


「そうなのか。そうだよな。わかるぞ。」

できるだけ刺激しないように言葉を選んだ。

だって可哀想だからな。


「お兄ちゃん!その眼は信じてないでしょ。」

「安心しろ、お兄ちゃんはお前の味方だからな。」


初穂の右足がピクリと動く。

キックか?


「お兄ちゃん、次にバカなこと言ったら後悔させるからね…。」

うちの妹、こんな低い声もでるんだ。


「だけどお前さ、一枚もプリクラ持ってないじゃないか。あれもってない奴は友達いないんだろ?」


すると初穂が涙目になった。

ヤベ、追い詰めすぎたかも。


初穂、俺を指さしていきなり叫んだ。

「この人痴漢です!いきなり胸触られました。痴漢です!」

「ば、ばか。お前いい加減にしろよ。やめろ女子高生の痴漢申告はリーマンを殺すんだぞ!やめろ!」

「このひと痴漢です!この人痴漢です!」

「やーめーろー!」


思わず初穂の腕を掴んで黙らせようとした。

すると、後ろから巨大な手が俺の腕をつかむ。

そして初穂から引き離され、見知らなう男にドアに壁ドン状態で押さえつけられる。


うぐう

俺を捕まえたのは、ガタイのいい禿たサングラス男だった。

「おう兄ちゃんよ、JKに痴漢はいけねえな。突き出してやるから覚悟しろや。」

「ちょ、俺は無実だ」


説明しようとしたら、禿サングラスの後ろからチンピラみたいな連中が4人ほど近づいてくる。

「親父さん、そいつの始末は俺らでやっておきやすぜ。」


そういうなり四人のチンピラが俺を捕まえる。

あっおー。俺、沈められるかも。


だが驚くことが起きた。

ゴン!

ゴン!

ゴン!

ゴン!


目にもとまらぬ早業でチンピラたちが後ろから頭を殴られて倒れていく。

何が起きた?


みると、車いすの女が義足を外して、凄い形相で構えていた。

義足のベルトを握り、モーニングスターのように振り回して攻撃したようだ。

(注:モーニングスター。鎖の先に星のような鉄球をつけて振り回す武器。鎧の相手も殺せる。)


くそ、やっぱりその義足は隠し武器だったじゃねえか。

俺が羨望のまなざしで車いすの女を見ていると、車いすの女は禿グラサン(どう見てもヤクザ)に向かって構える。

「だから痴漢じゃないって言ってるでしょ!誤解なんだから離しなさいよ!」


くそおおおおお!車いすの女のくせにカッコ良いとか許せん!この糞ワルキューレめ!

俺にも義足さえあれば、お前と同じくらい活躍できたんだ!


禿グラサンはゆっくり車いすの女に向きを変える。

俺はとっさに車いすの女の前に立ちはだかった。


車いすの女に、これ以上カッコいいマネはさせないぜ。


禿グラサンは黙って俺と車いすの女を眺める。


そこで後ろから鳴き声が聞こえた。

振り返ると初穂だった。


「ひっくひっく、ごめんなさい。痴漢ていうのは嘘なの。お兄ちゃんが意地悪言うから嫌がらせしただけなの…ごめんなさい…。」


すると、禿グラサンは俺の肩に軽く拳を当ててきた。

「にいさんよ、あんた愛されてるじゃねえか。大事にするんだぜ。」

「もちろんだ。妹はバカだが可愛い奴だからな。」


禿グラサンはそのあと何も言わずに倒れた四人を引きずって電車を降りる。

ふう、やばかった。


泣いている初穂を瑞穂に任せて、車いすの女を会社に送り届け、すぐに初穂にメールを打っておいた。

「気にするな。バカのやることに怒るほどお兄ちゃんは暇じゃねえ。」


その夜、借りを返す意味も込めて車いすの女の好きなものをごちそうしてやった。

トンカツな。

次は俺が勝つという意味も込めて。

お読みくださりありがとうございます。

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