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傘とカツラとコックピット

人物紹介

豪徳寺高志:俺。24歳。普通のリーマン。ビニール傘が好き。

豪徳寺瑞穂:20歳、171cmでスポーツが得意な妹。チェックの16本骨傘を愛用。

豪徳寺初穂:150cmと小柄だが、ローキックが重い。レースのついたバカっぽい傘がお気に入り。

車いすの女:八竹玲奈。雨がっぱを着ていて侘しさが哀れ。

まあ日本に住んでいれば雨が降るなんて当然のことだ。

だが、通勤時には勘弁してほしい。

俺が会社にいる間は、どれほどの豪雨が来ても構わないのだが。


今日は普通に朝から雨だった。

2人の妹はお気に入りのゴッツイ傘。

俺はビニール傘。


しっかりした傘を持つ奴はビニール傘を『この貧乏人め』みたいな目で見やがる。

だがそれは愚かな虚栄心だな。

なぜならビニール傘の方が優秀だからだ。


たとえば真正面から強風が吹いてきたとする。

ご立派な傘では、前方に傘を構えたとき前が見えなくなって危ない。

だがビニール傘は透明だから関係ないのさ。

さらにビニール傘越にスマホで撮影もできるんだ。


な、ビニール傘の方が偉いだろ。


まあ良いが。


電車に乗り込むと、後ろのおっさんの傘が俺のズボンに当たった。

冷たい!


なんであいつらは、他人に濡れた傘を当てて平気なんだ?

立派な傘様だからってえばってるのか?許さんぞ。

振り返ったらスマホをいじっていやがった。


二重の意味でイラッ


俺はビニール傘の水滴を、後ろのおっさんの股間で拭いてやった。

「ひゃ!何するんだ!」


はあぁぁ?

「何するんだじゃねえよ。先に濡れた傘をつかって俺のズボンを濡らしたのはそっちだろうが。気を付けろハゲが!」

「失礼なこと言うな!そして私はハゲじゃない!」

「だがそれはヅラだろ!ヅラ被ってるやつはハゲだろ。ヅラ引っぺがすぞボケ。」


おっさんは慌てて、自分の頭をおさえてガードした。

そのとき

おっさんの手首に掛けてあった傘が勢いよく俺に向けて跳ね上がる。


ち、不意打ちか!


愛用の妖刀ビニール傘でガードした。

ビニール傘の軽さが素早い防御を可能にしたのだ。ビニール傘、まじ優秀。

「不意打ちか?やるじゃねえかヅラ男」


ニヤニヤ


すると、ヅラ男は顔を真っ赤にして怒り出した。

「うるさい!ヅラで悪いか!ハゲはそんなにカッコ悪いか!ハゲだから臭いと娘に言われる俺の気持ちがわかるか!ハゲと臭いは関係ない!」


「いや、ハゲはともかく臭いは努力しろよ。デオラント物を薬局で買ってくればいいだけだろ。あと夜と朝に風呂にはいれ。それで解決だ。ばーかばーか、ヅラ男のバーカ。」


そこでヅラ男は顔を真っ赤にし、カポっとヅラを外した。

なに!頭の装甲をパージしただと!どうするつもりだ!

見事なバーコードハゲだった。


なぜかほかの乗客から「おおおー」という謎の歓声があがる。


おれも見とれた。なんかロボットの分離ものみたいでカッコいいな。

そう思った瞬間。

おっさんは俺にカポっと自分のヅラを被せやがった。


え?なにしやがった?


次の瞬間、車内は大爆笑に包まれた。

おおい、これそんなに面白いか?

2人の妹達をみると、腹をおさえて笑っている。


なんだろう、凄く恥ずかしい。


そこで駅に着きプシューとドアが開いた。

車いすの女が乗り込んでくる。

で、俺を見ると同時に爆笑しやがった。


「あはははは、あんた電車の中でなに捨て身のギャグかましてるのよ。少し生え際がヤバイと思っていたけど、いきなりヅラはやめなさいよ。あはははは。」


指さして笑うな!

そして生え際はヤバくない!


だが認めなければいけまい。

俺はカポっとヅラを外し、目の前のおっさんに合体させた。

パイルダーオン


「おっさん、今日は俺の負けだ。だが次は負けないからな。」

「若造が、会社と家族に苦しめられる私に簡単に勝てると思わぬことだ。」


くそ、負けはしたが…悔しさもない。男どおしの立派な戦いだったぜ。


乗り換えの時、車いすの女がしきりに俺に絡んできた。

「ねえ何なの?私の次はあの人と戦うの?ねえ私はまだ戦えるからね。もっと私を構いなさいよ。ねえ。」


うるさい。

乗り換えると妹達は何か車いすの女と小声で話し出す。

おい、お兄ちゃんを仲間はずれにしないでほしいんだけど?

寂しくて泣くぞ?


電車を降りたら車いすの女が俺の腕をつかむ。

「ねえ、会社まで傘をさして欲しいんだけど…。」

少し赤くなりながら、顔を背けて頼む姿から俺は察した。


そうか屈辱に耐えて頼んでいるのか。

ならば武士の情けだ、その辛い気持ちをくんでやろう。


おれは車いすの女の前にビニール傘を斜めに乗せる。

ビニール傘だから、目の前にかけても前が見える。


「どうだ、ビニール傘は便利だろう。これでお前の車いすは、さながらコックピットだ。」

「ふふ、これなら雨も楽しいわね。」


コックピットに心ときめかない戦士は居ない。

さすがワルキューレ、コックピットが気に入ったのだな。ニコニコだ。


俺はビニール傘をこよなく愛する男。

タブン、また一人ビニール傘派を増やせたのではと思うと俺もうれしいぜ。

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