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第四話 氷結の夜想曲~ノクターン~

 僕は、いつも一人だった。


 小学生の頃は塾があるからと、友達との距離をとっていた。

 本当はただの謙遜だったのに……


 中学生の頃は、男はみんな僕より頭一つ大きくなった。

 中には反抗期を通り越して不良になる人もいた。

 その人たちにパシリ扱いされる僕。

 悪魔のような態度で僕をあざ笑う不良たち。

 最悪だった。

 この頃から、僕の中で無口キャラが出来上がったのかもしれない。

 俗に言う中二病になったのも、この頃からかもしれない。


 そして高校生。

 僕は遠く離れた私立高校の門前にいた。

 あの不良たちから逃れるためだ。

 でも現実は、僕の予想の斜め上を行った。

 あの不良たちの主犯格ただ一人が同じクラスだったんだ。

 奴はグループを作るとすぐに僕をいじめ始めた。

 その時背中についた稲妻模様の切り傷。

 奴の家の家紋らしいが、僕にとってそれは屈辱以外の何物でもなかった。

 そんなある日、奴ら不良グループが全員休んだ日があった。

 明日は何か仕掛けに来る!

 そう予感した僕はすぐにでも転校したい思いでいっぱいだった。

 そんな時、窓から現れた一羽の雀が僕の指に留まった。

 羽ばたいていたのに誰も気づかない。

 僕はふと、雀に向かってこうつぶやいた。


「雀さん……僕……強くなりたい…………誰かを守れるくらい……強く…………!」

 すると雀は、小さな翼を大きく広げて声高らかに言った。


「じゃあ行きましょう。心強い仲間たちが君を待ってるわ、氷山こおりやま)氷雨(ヒサメ君」


 僕の名前を呼んだ雀は、翼を広げながら僕の背中を足でつまむと、教室の窓から大空へ飛び立った。

 道中、自分が来たときにあなたの戸籍をいじって所属高校を変えたと教わった。

 雀がどうやってそんなことをやってのけたのかなんて、今の僕にはどうでもよかった。


 早く僕を認めてくれる「真」友が欲しい。


 その思いを胸に、僕は自分の新たなる居場所―――


 ―――紅葉ヶ丘高校へと羽ばたくのだった。


 ◇ ◇ ◇


 ところ変わって、紅葉ヶ丘高校。

 文化祭も終わり一段落ついたところで、この高校において最大級のイベントが控えている。

 ハヤテはそれを予期しながら、どんなことをしようか考えていた。


「もう来週に迫ったんだな、林間学校。早いなあ」


 彼がそう考えるのも無理はない。ハヤテ、カミナ、スイレンらにとって、この一ヶ月弱に起きた出来事の数々は、彼らの運命を一八〇度ひっくり返すものであった。

 WOC=ウォックという謎の組織と次々に女体化する一般人。喋る犬に猫。そして、自らが魔法少女になるという謎。

 これらは完全にはわかっていない。だが、確信をもって言えることが彼らにとって一つだけある。


 それは今、日本の、いや世界の運命は自分たちの手にかかっているということだ。


 ウォックが複数人の集団で構成されていると分かった以上、クラーケンウーマンやヴァンパイアウーマンの他にも怪人たちはいるだろう。無論、今まで以上の強力な怪人もいるかもしれない。

 また、今はまだ被害が出ているのは紅葉ヶ丘高校近郊辺りだが、そのうち日本中が奴らによって侵略され、さらには世界中に甚大な被害をもたらすかもしれない。

 いきなり世界規模にまでスケールが大きくなった自分たちの目的を、昨日文化祭が終わった直後にブリズから聞かされたハヤテは、

「んなこたぁ知ったこっちゃねえわ」

 と一蹴し、ドン引きするブリズをよそに、カミナに「あんたらしいわね」と感心させた。



「ハヤテぇ、おっはよー」

「おうカミナ、おはよう」

 一足早く教室に来ていたハヤテより遅く、元気溌剌な声に乗せてカミナが登校してきた。

 その後ろからスイレンも顔を出す。

「おっすハヤテ」

「よおスイレン」

 二人はそのまますれ違いざまに盛大にハイタッチした。


 バチンッ


 刹那の爆音、長い静寂、クラスメイトの視線の焦点で腫れ上がる二つのもみじ。

「「っ!」」

 ハヤテとスイレンは同時に右手を抑えた。

「っは、今日も気合入ってんなスイレン」

「へへっ、ハヤテこそ」

 カミナはそんな二人の様子を見て、今日は平和だなぁと微笑んでいた。


「えー突然ですが、ここでみんなに発表することがあります」

 教壇でHRを進行していた先生が、突然話題を変えた。

 袖をまくったストライブの入った白いシャツに黒いタイトスカートを履いていて、その手には指さし棒のようなものが握られている。今でこそ眼鏡をかけた可愛げのある女性教師だが、彼女(?)もまたウォックの被害者なのだ。

 おかげで肩幅のあった分厚い胸板は、狭いなで肩でブラジャーからはみ出すほどの大きな乳房に、りんごを握りつぶせそうな大きな手と腕は簡単に折れてしまいそうなくらいか弱い腕に、引き締まっていたにもかかわらず公然でももっこりしていた腰回りおよび股は、骨盤が広がり赤ん坊を支えられるほど大きくふっくらとしたお尻と、どんな棒も奥深くまで入る(意味深)生殖器に、太く盛り上がりながらも抜群の瞬発力を発揮した足は、今や黒いストッキングにハイヒールが似合うほど艶めかしいほどの美脚になり、なぜか知らないが体育教師から現代文の教師になっていた…………という長い前置きはさておいて本題。


「林間学校一週間前ですが、このクラスに転校生がやってきます」

 瞬間、ざわつき始める教室。

「ねえねえ、転校生って女の子かな」

「えー、もしあたしよりかわいかったら嫉妬しちゃうよ」

「じゃあ男の子かな」

「うそー、そしたらハヤテきゅんやスイっち様たちと並んで『✝イケメン三銃士✝』、なんちゃって」

 早速ガールズトークに花を咲かせる少女たち(内半分は元男)。

「はいはいそこまで、そんなに騒がしかったら彼、恐縮しちゃうでしょ」

 男だと分かった瞬間キャーと黄色い悲鳴を上げる淑女たち。

 この教室には純情乙女と根っからのホモしかいないのか、とハヤテは思った。

「じゃあ入っていいわよ」

 ゆっくりと歩いてきたその男の子を見て、みなさっきまでのテンションが空回りした。

 彼は目元まで隠れるほど細く長くまっすぐな髪。その間から覗く幸薄そうな顔。きっちり着こなした汚れ一つない紅葉ヶ丘の制服。そしてなんだかよそよそしい態度。典型的ないじめられっ子だ。

「さあ、黒板に名前を書いて自己紹介して」

 その男の子はチョークを持つと、細々と自分の名前を黒板に書いた。

 そして書き終わって言った。

「き、今日から……紅葉ヶ丘高校に来ました…………氷山ヒサメと……言い……ます……」

「よ、よろ――――

「やったー! 久しぶりの男の子よーー♡♡♡」

「この子奥手? 攻めがいがあるかも!」

「うえっ、えええええええええ⁉⁉」

 ヒサメの叫び声はクラスメイトにとって驚くことでもなかった。


 ◇ ◇ ◇


 そんなこんなで林間学校当日。


「おい、ぐずぐずすんなよ。おいてくぞ」

 ハヤテはぶっきらぼうにヒサメに声をかける。

「だ、だってハヤテ君が早すぎるんだよ

「悪いな、これが俺のマイペースなんだ」

「こらそこ、早く乗りなさい!本当においていきますよ!」

「はーい」

 結局連帯責任で牛乳露出狂サディスティック教師に怒られた後しぶしぶバスに乗り、一行は出発した。



 バスは山道を順調に進み、車窓からは山々の景色を一望できた。

「まもなく目的地に到着いたしますが、揺れるためシートベルトの着用をお願いします」

 美人な女性バスガイドさんがそう言うと、ハヤテたちは一斉にシートベルトを閉じた。

 みんな初めての経験に思いをはせて興奮が収まらない。


 しばらくしてバスは止まった。

 しかし、そこは細い絶壁の崖の上の道、しかもハヤテたちのバスだけがそこにいる。

 みんなの顔に不安の色が浮かぶ。

「ねえガイドさん、まだ目的地まで全然遠いと思うんですが……」

「いいえ、この場所であってますよ」

 えっとみんなが一斉に驚く。

「そうよ、この場所なのよ…………あんたたちの墓場はねえ‼」

 ガイドさんは、小顔で可愛らしいその顔から現れたとは思えないような顔芸をすると、うねうねと自分の身体を変化させた。

 まず彼女の唇が突き出しはじめ鼻と同化すると、それは立派なくちばしになっていた。耳は委縮した代わり、頭のほうに二つそれらしいものができる。手足は短くなると、その指は三本になり、そこから太く大きな爪が生えてきた。服がすべて破け去り羽毛だらけのその背中から大きな羽が生えている。

「グリフォンウーマン、参上!」

 そう叫ぶと怪物――――グリフォンウーマンはバスの天井を突き破って真上の崖に降り立った。

「くそ、またウォックの一味か」

 ハヤテは舌打ちをして吐き捨てた。

「カミナはみんなを! 僕とハヤテであいつを抑えるから!」

「うん、わかったわ。さあ、みんな早く!」

 カミナがみんなを呼びかけた矢先だった。

「そうはさせないわよ。みんなここでくたばりなさいっ! 三叉切り(さんさぎり)!」

 そう言ってグリフォンウーマンは両前足の三本爪を振り下ろし、崖の端を崩し始める。

「そうはさせないのはこっちのセリフさ! いくぜスイレン!」

「おう!サモン・ド…………


 ゴロゴロゴロゴロッ


「「うわああああっ‼」」

 先ほどあいつが地面を攻撃したのは地崩れさせて岩雪崩をおこすためかと後悔しても先に立たず、ハヤテとスイレンは紙一重でそれを避ける。

 が、しかしそのために身を挺して守っていたバスに直撃してしまい――――


「「「きゃああああああ‼」」」


 横倒しになったバスはそのまま崖下に落ちていった。

「カミナ! 先生! みんなあああああ‼」

 ハヤテの叫びもその暗闇の中に消えていった。

「どう、これでもまだ仲間を守るだなんて言うのかしらねえ、偽お嬢ちゃん♡」

「ちくしょう!」


 ◇ ◇ ◇


 ダメだ、このままじゃ僕は一生変われない

 ハヤテ君とスイレン君が頑張ってるのに、カミナさんが女子や先生を仕切ってくれているのに…………

 僕は……どうしたらいいんだ…………

「…………!……メ……‼……サ……メ……‼…………」

「ヒサメ‼」

「えっ⁉」

 カミナ……さん…………?

「あんた男でしょ! しゃきっとしなさいよ! あいつらのほうがよっぽどましに見えてくるわ!」

 そうだ……そうだよ…………誓ったじゃないか…………! あの日に…………‼

「どうせあんたも杖使えるんでしょう?」

 え……カミナさん…………どうしてそのことを……?

「細かいことはあとよ! 先に…………」

「「「いやああああああああっっ‼‼」」」

「この状況をどうにかしなさいよ! あたしは……あんたたちのこと、信じてるんだからね‼」

 信じてる……この僕を…………!

「僕が……カミナさんを…………‼ 守る‼」


 ピカアアアアアア


「な、何だこれ……?」

「杖が……勝手に…………」


 ズオオオオオオッッ

 プシャアアアアアッッ


 ハヤテとスイレン、二人の杖が突然光だし、それぞれガストレディとマリンレディに変身した。

「そ、そんな…………こんなことって…………」

 上のほうでグリフォンウーマンの驚愕の声が聞こえるが、当事者たちはそれどころじゃなかった。 呼び出していないのに杖がいきなり召喚され、モーション通りに行ってないのに魔法少女に変身した。

 これは二人にとって初めてのことだから、頭の中は阿鼻叫喚状態だ。

「それは、魔法少女が変身したことによる共鳴変身、チューン・トランスよ」

 そのセリフとともに突然現れたのは、ブリズとレインだった。

「ブリズ! レイン! あなたたちどうしてここに?」

 すっかり女の子の声と口調になってしまったマリンレディが答える。

「そう遠くない距離にいる魔法少女同士が強い絆で結ばれたとき、チューン・トランスは起きるのよ」

「あのときは先にガストレディにハヤテ君が変身していたから起きなかったんだけどね」

 ブリズの言葉に付け加えるようにレインが答えた。

「じゃあどうしてこんなことが? まさか……」

「その通りですよ」

 ガストレディのつぶやきを遮ったのは、ブリズ達の後ろから現れた雀だった。


 カッ


 と次の瞬間、崖の下のほうで光ったかと思うと、バキバキバキッと氷のトンネルが形成された。

「これって……」

「行っといで、ここは私が見てるから」

「うん、あとは任せたわ、マリンレディ」

 そう言って、ガストレディはトンネルの中を滑り降りる。

「さあてと、あとはあなただけど…………」

「ふん、今日のところは見逃してあげるわ。でも、次こそはあなたたち全員を殺すから。そのときまで芋洗って待ってることね。じゃあ、さいなら~~」

「あ、待ちなさい! アクア‼」

 マリンレディが魔法を放つも、グリフォンウーマンは簡単にそれを避けると、バサバサと羽ばたいて飛び去ってしまった。

「芋じゃなくて首洗うんじゃないの? 怪物っておバカさんなのかしら」

 マリンレディがぼそっとつぶやいたことが聞こえたのか、夕日の向こうからくしゃみが聞こえた……気がした。


「こ……これは…………」

 ガストレディは目の前の光景に愕然としていた。

 それもそうだろう、こんな谷間に、


 氷のチャペルがあるなんて……


 先ほどまで乗っていたバスは、突き破られた天井が花びらのように開いたまま、そのチャペルに横付けされていた。

「は、ハヤテく~ん、助けて~」

 チャペルのドアをばたんと開いて中から出てきたのは、


 花嫁だった。


 膝下くらいの長さのドレススカートからは、白いストッキングに覆われた足がハイヒールによって強調されている。内側がコルセットによって絞られているであろうその腰回りに独特の刺繍が施され、胸元は谷間をこれでもかと見せびらかし、肩は男の拳大に膨らんでいる。カールがかかった淡い水色の長い髪は結ばれておらず、頭全体を覆い隠すヴェールとその頂点で輝いているティアラを誇張している。化粧が施されたその顔からは淡い青のアイシャドウに真っ赤なルージュと、大人の女性の雰囲気にもかかわらず、長いつけまつげから覗くその瞳の奥にはどこか少年のような幼さが感じられる。二の腕までもを包み込んだロンググローブの左手薬指には大きなアクアマリンの宝石がある指輪をつけており、右手には花嫁には似合わない木製の杖が握られている。


 ん?…………杖…………?


「あなた、まさか…………」

「はあはあ…………その通りよハヤテ君。いや、ガストレディ……はあはあ…………だったわよね……」

 とても息切れしている花嫁は、落ち着いてから言った。

「私は、凍てつく冷徹の氷、アイスレディ。もうわかるよね?」

「それはいいのよ、どうしてそんな息が荒いの?」

「じ、実は……先生が…………」


「ソーサリー・エボリューション‼」

 私は落下するバスの中で、あなたたちと同じように変身したの。

 そして、魔法を唱えた。

「コルド‼」

 そうしてバスごと地面を凍らして氷の床を作って、バスの中からみんなを救い出したのよ。

 そしたら私の格好を見た先生が…………

「ねえヒサメ君……いや、アイスレディ。ここにチャペルって作れる?君の魔法で」

「え……いいですけど…………なんでです?」

「いやあ、あたしさあ、今妻がいるけど実は式挙げてないんだ。それに最近夜の営みが楽しくなってきてえ…………この意味、わかるわよね?」

「ま、まさか先生……レズに…………」

「結婚してええええええ‼」

「いやああああああああっっ‼」


「っていうわけでして…………」

「じ、じゃあ…………まだ中に…………」

 突然バタンッとチャペルの扉が開くと、まるで宝塚のような衣装と化粧をしたおそらく先生だろう人物が、クラスメイト達とともに現れた。

「ねえカミナ! あなたどうして止めなかったの?」

「いやだって、もし止めたら成績落とすとか言うし…………」

「そこはいやでも止めなさいよ、もう‼」

「結婚してええええええ‼」

「「いやああああああああっっ‼」」


 果たして二人は無事に逃げ切り、林間学校を有意義に送ることができるのか?

 それはまた、次のお話


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