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二十六章 “困惑のフィニ”

 訓練場内は俄かにざわついていた。

当然のことだろう。サレファーの話が確かなら、フィニはこのルヴィス帝国内でも指折りの実力者を倒した事になるのだから。


 まあそれを言えば、俺はこのルヴィス帝国内でのナンバー2であるところのシュレンを倒した事になっているわけだが……

そっちは騎士団の不名誉になるせいなのか、公には伝わっていない様子。

ってかまあ、そもそも俺はシュレンに勝ったわけではないのだから、そんな話は広まっていて欲しくないので助かる。


   「ふむ。やりおる。流石は勇者の付き人と言ったところか。」


 皇帝が何やら納得気味に呟いた。


   「一語法を習得しているとは……」

   「よもや、他国にはこのような使い手が幾人もいると言うのか?」

   「そんな馬鹿な。一語法の使い手なぞ、帝国の歴史を振り返っても数えるほどもおらぬというのに……」


 他の貴族達の内緒話がちょっと聞こえた。

ウェルストンも言っていたが、ちょくちょく聞こえる『一語法』なるものがどうやらキーワードになっているようだ。


 一語法ね……一つの言語の法則ってとこか?

頭の悪い俺には分からん。誰か教えてくれ。


   「でも、どうやら化物扱いは避けられそうだな。良かった……」


 実のところ、それが一番不安だったのだ。


   「ケントは私を心配して?」

   「そうだな。フィニみたいな可愛い子が化物扱いなんて不憫じゃないか。」

   「可愛いって……私はそんな……///」


 何やら俯いてしまったが、傷付いたわけではなさそうなので、まあ良いだろう。そんなことより……


   「怪我してないか?実は魔術が掠ってたとか、そういうの、ない?」

   「はい、大丈夫です。」


 フィニは俺に向かって微笑みながらそう言った……可愛い。

特に、若干頬が上気している所とか……ヤバい位可愛かったりする。


 って、そんなこと考えてる場合じゃない。

大丈夫だったなら大丈夫だったなりに、男として何か気の利いた事を言わないと。


   「そっか。良かった。」


 すいません。俺に語彙力という物は無いのです……


   「フィニ殿とケント殿は交際されておられるのかな?」

   「ふぉお!?」

   「ふえっ!?///」


 二人揃って素っ頓狂な声を出してしまう。


 そんな何もオブラートに包まない話し方をするこいつは、予想通りサレファーだ。


   「な、何故そんな事を?」


 フィニが明らかに動揺した様子で顔を真っ赤にしながらサレファーに詰め寄った。


 まあ俺みたいな駄目人間と恋人同士かなんて聞かれちゃあね。

俺がフィニの立場だったら顔を真っ赤にするくらい激怒する所だよ。

なのにフィニはそれでも聞き返すなんて……本当にフィニは優しいなぁ。

あれ?何でだろ?涙が出てくるよ……


   「いや、先程から二人の発す甘い空気が何とも言えなくてな。つい……」


 空気の読める子供……


   「こらこらバリアン公爵殿。無粋ですよ。」


 そこに晩餐会城でウェルストンより先にフィニの手の甲にキスをした憎きネルグラン伯爵が現れた。


   「む?ネルグラン伯爵……」


 ギリッという感じでサレファーがネルグラン伯爵を睨む。


   「そう睨まないでいただきたい。ワタクシはワタクシの友人の息子である君が私よりも高位の位に就いている事が妬ましいだけですから。」


 うわー器の小さい人だー


   「それで?無粋とは?」

   「言葉の意味のままです。恋人達の睦言の囁き合いを邪魔するなど無粋だという事です。」


 囁いてないし!


   「恋人だなんて、そんな……///」


 フィニはフィニで両頬に手を当てて顔を背けてるし……

やっぱり手の甲にキスしたような奴と顔を合わせるのは恥ずかしいってわけか。

全く……やっぱり許せんな。


   「そんな事ばかり言っておるから、その年になっても恋人の一人も出来んのだよ、ネルグラン伯爵。貴公も男であるのなら少しは自ら行動を起こしてはいかがかな?」

   「フフ……所詮は世を知らぬ子供の戯言。ワタクシの心には響きませんよバリアン公爵。」


 冗談みたいなやり取りのせいで看過しがちだが、この二人、互いを親の敵みたいな表情で睨み合っている……あんたら仲悪いなー


   「そういえば、フィニ殿はどちらで一語法の習得を?後学の為に是非聞かせていただきたい。」


 睨み合うのもそこそこに、ネルグラン伯爵がそうフィニに詰め寄った。

フィニは少し怖がっている様子で、たたらを踏みながら少しだけ後ずさる。


   「それはぼ……私も聞きたかった事だ。フィニ殿、どうか私に教えていただけないだろうか?」


 そして、少し遅れてサレファーもフィニに詰め寄る。

二人の顔がフィニの前に並ぶ……あんたら仲良いなー


   「あの……その……」


 フィニが困ったように口を噤む。

考えてみれば当然だ。フィニのは魔術じゃないんだから、恐らくは魔術関連の言葉だと思われる『一語法』について聞かれたって答えられるはずがない。


 しかし、何かしらの答えが返ってくると、サレファーもネルグラン伯爵も期待しているようで、ずいずいと少しずつフィニに顔を近づけている。


 分かってる?そのままキスしたりしたら殺すからね?君達。


   「えっと……」


 どうやら皇帝を始め、他の貴族達も気になっている内容の様で、皆してフィニの言葉に聞き耳を立てているようだ。

会場内が異様なまでに静かな事から、そんな事は簡単に窺える。


 さて、フィニはこの空気の中何を答えるのか……


   「一語法って……何ですか?」


 ですよねーそうなりますよねー


 会場の中にいる人が皆してずっこけていた。そりゃもう滑稽なくらいに。

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