09 殿下が好きだから、別れ。
『蒼い誓いと紅い秘密、その扉の向こうで』
ヒロイン ミレイア・ノクス 光魔法
皇太子 アルト・アズリオン 水魔法
悪役令嬢 ヴェロニカ・ルージュリス 炎魔法
皇太子弟 シエル・アズリオン 風魔法
腐っても…いや、腐ってないけど。
やっぱり、アルト・アズリオン殿下は皇太子なのだ。
何をやらせても完璧。
人望に厚く、人に優しく、器量もいい。
こんな人こそ、国の王となるべきだ。
そんな人を、町人にするなんてできない。
1週間で折れたのは、私のほうだった。
1週間を終えて、アルト殿下を近くの広場に案内した。
「このあたりは市街から離れて、郊外も郊外で。若い人がほとんどいないんです。だから広場も荒れてしまって」
そう言って、今にも崩れそうなベンチに座る。
「そうだね。常連さんも、年配の方が多い」
アルト殿下が恐る恐るベンチに座る。
「それは、セレネイド王国に限ったことではないと思うのです」
私がそう言うと、アルト殿下が「そうだね」と言った。
「アルト・アズリオン殿下は、ルミナリス王国に必要な方です。アルト・アズリオン殿下なら、こういった地域にも目を向けた政治をしてくださるでしょ?」
そう伝えた。
頭がいいアルト殿下なら、これだけ伝えれば真意をくみ取ってくれるだろうと思ったから。
「私は、ここが好きです。ですから、お互い、お互いがいるべき場所で頑張りませんか?」
アルト殿下が複雑な顔をする。
「ヴェロ…俺はね、本当に町人になってもいいと思ってるんだよ?」
「ええ、よくわかっています」
アルト殿下は、毎朝私が起きる時間に起きて、一緒にパンを焼いてくれた。
力仕事も嫌がらずにしてくれた。
頭を下げて、謝罪することだってあった。
皇太子なのに。
「本当にあなたが素敵な人で…好きになれて幸せでした」
それでも私は、アルト殿下の隣には立てない。
王妃教育うんぬん…そうじゃない。
私はやっぱり、どうしても、アルト殿下とは結婚できない。
問題は、ルージュリス家にもあるから。
ゲームではわからなかった裏設定ともいうべきものがルージュリス家にはあった。
次の王位を誰に継がせるか。
その問題で、ルミナリス王国は兄のアルト派と、弟のシエル派に分かれていた。
ルージュリス家は、シエル派なのだ。
シエル派のルージュリス家がどうしてアルト殿下の婚約者となったのか。
アルト派としては、金持ちのルージュリス家を抱え込みたかった。
でも、ルージュリス家が婚約者を出したのは、アルト殿下暗殺のためだったのだ。
両親に愛されていなかった私は、アルト殿下を暗殺するための道具にされるところだったわけで。
だから、ルミナリス王国では私の未来はないと思ったのだ。




