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破滅エンドが確定しました。悪役令嬢ですが知ったこっちゃない、逃げる。  作者: 西園寺百合子


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41/50

41 聖女の像の前で、口論。

悪役令嬢 ヴェロニカ・ルージュリス 炎魔法

皇太子  アルト・アズリオン    水魔法

皇太子弟 シエル・アズリオン    風魔法

婚約者  リリアーヌ・マーロウ   雷魔法

ヒロイン ミレイア・ノクス     光魔法

先生   カサンドラ

空気が弾けるような鋭い音が響き、顔が横に強く揺れる。

パシン!と頬を打つ音が響く。

礼拝堂の静けさが一瞬で破られ、反響だけが遅れて残った。

踏んだり蹴ったりだ。

熱を持ち始めた頬に手を添えながら、ただ呆然とするしかない。

私が何をしたと言うんだろう。

理不尽さで、少し、いや、かなり、イラっとした。


「あんたは、なんでもかんでも私から奪っていくのね!」

怒りをぶつける声が、礼拝堂の空気をさらに重くする。

その表情を見ながら、理解できない感情でミレイアを睨んだ。

私はミレイアのものを奪ったことなどないじゃないか。

むしろ、私のほうが…学園生活も、平穏な暮らしも、なにもかも奪われている。

ふつふつと怒りが込み上げた。


いつだって私は、あなたに譲ってきたつもりだったのに。

どうして、そんなことを言われないといけないんだろう。

私が何も言わないでいると、ミレイアは悲劇のヒロイン風に話し始めた。


「私は、アルトともラブラブでいたかったのよ!それなのに、あなたのせいで隣国の皇太子しか好感度が上がらなかったし」

怒りというよりも、長い間ため込んだ不満を一気に吐き出すように、肩を上下させながらこちらを睨みつけた。

髪もわずかに乱れ、聖女の表情は消えてしまっている。

ミレイアはまだ、学園時代のことを根に持っているようだ。

でも、私の知ったことではない。


「せっかく皇太子妃になったのに、あいつったら浮気性で…」

ん?なんの話だ?

ミレイアを見ると、ぶつぶつと文句を言っている。

視線は私ではなく、どこか遠く、過去の記憶でも見ているように見える。

「側妃、側妃、側妃って、何人側妃を作るつもりなのッて話。やっぱり設定どおり、チャラ男だったのよ。あの女好き!だからやっぱり真面目なアルトのほうがいいなって思ったのよ」

隣国の皇太子はそんなに側妃を持っていたのか。


正妃と側妃の争い。

女同士のそれは、ドロドロとしていて、陰険だと聞いている。

多くの側妃と暮らしていたのだとすれば、それは大変だったかもしれない。

…でもやっぱり、私の知ったことではない。

「だから言いくるめて、ルミナリス王国に戦争をしかけさせたのにっ!負けちゃうんだもん!」

ミレイアの言った言葉に、唖然とする。


一瞬、耳が理解を拒否したように周囲の音が遠のいた。

「…戦争を、しかけさせた?」

私がそう聞き返すと、ミレイアは信じられないことに武勇伝でも話すように自慢げに話し始めた。

褒めてと言わんばかりの表情で話し始める。

「そうよ。アルトを私のものにするためには、それが一番手っ取り早いと思ったんだもん。捕虜?にしちゃえば、私の言うことをきくしかないでしょ?」

ミレイアがそう言って、ふふっと笑う。

どうしてそこで笑えるのか、全くわからない。


「私がルミナリス王国の資源が豊富なこととか、財政が豊かなことをちょっと囁いただけで、色んな人が協力してくれたの!私はヒロインだから!」

そう言って、腕を広げる。

法衣の袖が揺れるのを、黙って見つめた。

ヒロインだからって…なにが、ヒロインだから?

「え、待って。戦争をしかけたのは…アルト殿下を自分のものにしたかったからなの?」

理解が追いつかない。


「そうよ。セレネイド王国が勝っていれば、ルミナリス王国のものはぜ~んぶ、私のものでしょ。…負けちゃったけど」

そう言って、ドヤ顔で私を見る。

全然、ミレイアのことが理解できない。

言ってる内容も、ドヤ顔も、全然わからない。


「アルト殿下を自分のものにするためだけに、戦争したの?…え?バカなの?」

私がそう言うと、ミレイアが激昂した。

顔が一気に紅潮し、足音を強く鳴らして一歩踏み出す。

「はあ?!バカはあんたでしょ!アルトをものにするためだけに?そういうゲームじゃない!攻略対象を自分のものにするのが『蒼誓そうせい』でしょ!」


蒼誓そうせい』とは、乙女ゲーム『蒼い誓いと紅い秘密、その扉の向こうで』のことだ。

そう、乙女、ゲームだ。

「何を言ってるの?…ゲームのストーリーは、学園の卒業式までだったじゃない。そこからは…ううん。学園にいる間も、私たちは現実に、この世界で生きてるのよ?」

学園を卒業して、もう何年も経ってる。

登場人物もキャラクター設定も、もうゲームの内容からは完全にはなれてしまった。


ストーリーは学園を卒業した時点で終わってる。

キャラクター設定は、見ての通り、原形を留めてない。

パンを作りだしたことでもアイテムすらも変わってしまった。

なにもかも、今はもう、ゲームの原形を留めていない。

そんなこと、ミレイアだってわかっていたはずだ。


「何言ってるのよ!ここは…私がヒロインの『蒼誓そうせい』なの!私がチヤホヤされて、私が幸せになる世界なのよっ!」

ミレイアがそう叫んだ。

両手を広げ、宣言するように声を張り上げる。

本当に、ミレイアが何を言っているのかわからない。

そしてたぶん、ミレイアには私が何を言っているかわからないんだろう。

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