25 最推しは最推しで、苛々。
悪役令嬢 ヴェロニカ・ルージュリス 炎魔法
皇太子 アルト・アズリオン 水魔法
皇太子弟 シエル・アズリオン 風魔法
婚約者 リリアーヌ・マーロウ 雷魔法
ヒロイン ミレイア・ノクス 光魔法
先生 カサンドラ
「ねえ、ヴェロ。俺と結婚しよう」
アルト殿下に耳元でそう囁かれて我に返った。
ぐっと、アルト殿下の体を引き離して立ち上がる。
「大変、大変失礼しました。私ったらうっかりバランスを崩した上に、うっかり貧血になってしまいまして。もう、大丈夫ですので…」
心臓がバクバク言っている。
聞かなかったことに、さっきのは聞かなかったことにしなければいけない。
「ヴェロ。俺は本気だよ?隣国にいたときとは状況が変わったよね?」
アルト殿下がそう言って私の腕を掴む。
「いいえ。何も変わっていませんわ、アルト・アズリオン殿下。私はルージュリス家の娘です」
私はシエル派のルージュリス家の娘で、アルト殿下の暗殺を企んでいるルージュリス家の娘なのだ。
何も変わっていない。
しかも、今はシエル殿下の側妃候補。
そんな私がアルト殿下と結婚できるはずがない。
もしそんなことをしたら、私はシエル殿下からアルト殿下に乗り換えた悪女と噂されるだろう。
アルト殿下だって、シエル殿下から私を奪ったと面白可笑しく噂されるに違いない。
百歩譲って、私が悪く言われるのはいい。
すでに悪役令嬢として認知されているのだから。
でも、アルト殿下は違う。
私が関わっていいことなど、1つもない。
じっと下を向いていると、アルト殿下のため息が聞こえた。
「結局、ルージュリス家なんだね。ヴェロは、ルージュリス家から逃げたいんじゃないの?」
アルト殿下にそう言われて、叫びそうになった。
逃げたいし、ルージュリス家との縁を断ち切りたい。
できるなら、とっくにそうしている。
できないから、お飾りの側妃になるんじゃないか。
でも、何も言わない。
アルト殿下に伝えたところでどうにもならないことはわかっているから。
ぐっと飲み込んだ。
私は生まれてから我慢してばかりだ。
父や母から嫌悪されて、悪役令嬢にされて、好きな人とは結ばれず、お飾りの側妃となる。
報われない。
「ヴェロの気持ちが知りたい。ヴェロは俺のこと、どう思ってるの?」
アルト殿下が憎い。
生れながらの王子で誰からも愛されて、ゲームのストーリーの強制力とはいえヒロインとイチャイチャしていたくせに、私にそんなことを聞くんだ。
なんて、ヒドイ男を好きになってしまったんだろう。
だから、1回くらい我儘を言ってもいいような気がした。
「セレネイド王国の広場で言った気持ちと変わっていません」
そう言って、アルト殿下を見る。
アルト殿下が「じゃあ」と何かを言いかけたのを遮る。
「ですが、私はもう、シエル殿下の側妃候補です。…アルト・アズリオン殿下、どうか早く、いいかたをみつけて、お幸せになってくださいね」
そう伝えて、挨拶をして帰った…というか逃げた。
私の最推しには、やっぱり幸せになってほしい。
悔しい。
しっかり嫌いになれれば、こんなに悲しくないのに。
もっと性格がひんまがっていてくれればよかったのに。
もっと不細工で、嫌味ばかり言う人だったら嫌いになれたのに。
本当に、イケメンでムカつく。




