16 ネガティブな気持ちに、情無。
悪役令嬢 ヴェロニカ・ルージュリス 炎魔法
皇太子 アルト・アズリオン 水魔法
皇太子弟 シエル・アズリオン 風魔法
婚約者 リリアーヌ・マーロウ 雷魔法
ヒロイン ミレイア・ノクス 光魔法
先生 カサンドラ
それにしても、アルト殿下があんなに本がお好きだとは知らなかった。
本棚の前で迷う様子もなく、自然に一冊を手に取っている姿は、何度見ても意外だ。
ゲームの設定にも読書好きなんて情報はなかった気がする。
イメージではアウトドアな感じ、スポーティーな感じだったんだけど。
それにしても、どういうわけだろう。
どんなに私が時間をずらして図書室に行っても、だいたいいらっしゃる。
アルト殿下はもしかしたら、1日中、図書室にいるんだろうか。
私が熟読している間にいらっしゃることもあるけれど。
私が図書室から帰るときにはいつの間にか、後ろで本を読んでいた。
「学園の図書室では、一度も会わなかったんだけどな…」
少し大きめの独り言が漏れた。
これも、強制力というやつなんだろうか。
アルト殿下は読書好きという設定がゲーム上にはなかったから、本当は読書好きだったのに図書室に行けなかった、とか?
ありえなくはないか。
だとしたら、ゲームの強制力は、その人の趣味さえも奪うくらい強いものだったということになる。
そう考えたら、肌寒くなった。
小説が面白くてついつい図書室に通ってしまったけど、今読んでいる小説もそろそろ終わる。
ページの残りが少なくなるにつれて、あとどれくらいで読み終わるのか、予想できるようになった。
シエル派の私がアルト殿下の近くにいるのはよくないだろうから、今読んでいる小説を読み終えたら図書室には行かないようにしよう。
そう思って、自分の部屋の窓から外を見た。
庭の木々が風に揺れていて、木の葉が風の力に負けて飛んでいく。
「…読み終えたくないな」
気がついてた。
小説を読みに行ってるなんて、言い訳だ。
最推しの顔を見に行ってた。
少し休憩、なんて言いながら、実際は入口の方を意識していた。
チラッとでも見れたら嬉しくて、今日も会えるかなと期待して、図書室に足を向けている。
図書室へ向かう廊下を歩くときのわずかな高揚感まで思い出される。
「最低だ、私」
シエル殿下にも、アルト殿下にも失礼なことをしている。
私はシエル殿下の側妃なのに、敵対しているアルト殿下に会いたいなんて。
いずれ私は、シエル殿下を愛する努力をしなくてはいけないのに。
でも、もう少しだけ、最低な私を許してほしい。
あと数ページ分だけ、あと少しだけ猶予がほしい。
あと数ページを終わったら、ちゃんと気持ちを切り替えよう。
お飾りであっても、私はシエル殿下の側妃となるのだから。
王城にいたら、どこかでアルト殿下と会うかもしれないとわかっていた。
長い廊下や広い庭園のどこかで、偶然が起きる可能性は想定していた。
会っても平気だと思っていたのに、これほど揺さぶられるなんて。
図書室から部屋へ戻るとき、挨拶した後のアルト殿下を思い出す。
背中越しに感じた静かな気配。
毎回「ああ」と言って、すぐに視線を本に戻してしまわれる姿。
あれが、私とアルト殿下との関係を物語っている。
アルト殿下は、私にはもう興味がない。
元をたどれば、私がアルト殿下の結婚の申し出を断ったんだもの。
こんなことで傷つくことが的外れだ。
アルト殿下はちゃんと私の気持ちを受け取ってくれて、その上で忘れてくれたのだろう。
それなのに。
本当に、情けない…
それでも、あと数ページ分だけと思ってしまう自分が、女々しくて本当に嫌だ。
ページの端をめくるたいに、物語が終わりが近づいていることがわかって、指先が少しだけ止まる。
読み終えるタイミングを先延ばししていると、自分でもわかっている。
なんとなく、図書室に行きにくくなって、あと数ページ分を達成していない。
そんなとき、カサンドラ先生から「相談があるんですけど」と言われた。
なにやら深刻そうだ。
同志から相談されたら、乗らないわけにはいかない。
「リリアーヌさん、最近、太ってきていますよね」
カサンドラ先生が、オブラートに包むことなく直球で相談してきた。
言いづらさよりも問題意識が勝っているんだろう。




