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破滅エンドが確定しました。悪役令嬢ですが知ったこっちゃない、逃げる。  作者: 西園寺百合子


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14/50

14 お城での再会に、固る。

悪役令嬢 ヴェロニカ・ルージュリス 炎魔法

皇太子  アルト・アズリオン    水魔法

皇太子弟 シエル・アズリオン    風魔法

婚約者  リリアーヌ・マーロウ   雷魔法

ヒロイン ミレイア・ノクス     光魔法

先生   カサンドラ

とはいえ、諦めることもできず。

なんだかんだと、シエル殿下をダシにしてリリアーヌ嬢に勉強をしてもらう。

「シエル殿下が褒めてくださいますよ」と言えば、ほんの少しだけ机に向かう時間が伸びた。

私とカサンドラ先生は、いまや同志だ。

目線だけで意図が通じる程度に、奇妙な連帯感ができていた。

カサンドラ先生はリリアーヌ嬢を立派な正妃にしなくてはいけない。

その責任感だけで、どうにか授業を成立させている。

そうして私は…


おそらくシエル殿下が結婚を決める年齢になる頃、私は離宮にでも隔離されるだろう。

窓の少ない静かな場所で、ひっそりと役目を終える自分の姿が、ぼんやりと頭をよぎる。

お飾りの側妃なのだもの。

気持ちよく退場できるように、リリアーヌ嬢にはしっかり学んでいただかないといけない。

窓辺のテーブルでお茶を飲みながら外の景色を眺める。


ティーカップを指で軽く回しながら、差し込む光に目を細める。

こんなにゆったりとした時間を過ごせるとは思わなかった。

鳥の鳴き声まで聞こえる静けさが心地よい。

ルージュリス家にいる時より、逃げている時より、ずっと気持ちが落ち着いていた。

ちょっとだけ、たんぽぽ茶が恋しくなるときはあるけど。


心が安らいでいるのは、ルージュリス家から何も言ってこないことも関係していた。

風の便りひとつ届かない、不気味なほどの沈黙。

恐ろしいくらいの放置。

でも、なにもないなら、それに越したことはない。

もしかしたら、私がリリアーヌ嬢の王妃教育で奮闘しているのを聞いて見守っているのかもしれない。

ルージュリス家にとっても、立派な王妃をシエル殿下に嫁がせることは必要なはずだ。


お城に私の場所なんかないだろうと思っていたけど、そうでもない。

石造りの廊下を歩きながら見上げると、思っていたよりずっと広い世界がここにはあった。

王族しか立ち入れない場所を除けば、お庭は自由に散歩させてもらえるし図書室にも行ける。

整えられた花壇や噴水を横目に歩くたび、少し気持ちが晴れた。


「そういえば、しばらく本を読んでいなかったわ」

そう思い立って、庭を歩いていた足を止める。

本の匂いを思い出しながら、くるりと方向を変えて、図書室に行ってみた。

学園にいるときは、よく図書室に籠っていた。

重たい扉を開けて、静かな空間に逃げ込むのが日課のようになっていたっけ。


アルト殿下とミレイア嬢、そのほかの攻略対象者と接点をもたないようにするためだ。

人との接点をつくらないためにも、籠るのが一番確実だった。

イベントが発生するとき以外、図書室は使われなかったから、いい避難所になっていた。

ページをめくる音だけが許される場所。

そのとき読んでいた本の続きがあるといいのだけれど。


王城の図書室の本は、私の権限では部屋に持っていけない。

図書室の本を図書室から外に持ち出せるのは、王族だけなのだ。

だから、図書室の本を読みたければ、図書室で読む必要がある。

他に本を読む方法は、購入することなのだけど。

残念ながら、私には仕送りがない。

決められた予算はあるんだろうけど、それが税金だと思うと、私の趣味ごときで使うのは悪い気がした。

たった数年だったけど、町人としての生活は、私のお金への価値観を、現世の感覚に戻してくれた。

お金は大切。

無駄遣いはダメだよ。


そんなことを思いながら、図書室の扉を開いた。

そっと中に入ってみたけど、どうやら貸し切りのようだ。

厚い絨毯が足音を吸い込み、静寂を保ってくれている。

アルト殿下の妃教育を受けていた時、ときどき通っていたから本棚の位置は把握していた。

懐かしさのような感覚に、少しだけ足を止めながら進む。


歴史書の棚をこえて、小説の棚のところまでくると、アルト殿下がいた。

いるはずがないと思っている人がいると、人は固まるものだ。

本棚の間に差し込む窓の光すら、急に遠く感じて、身体の動きが止まった。

見つからないうちに、そっとその場を離れようと頭で思っているのに足が動かない。


ゆっくりとアルト殿下が振り向いて、私を見る。

「あ…」

見つかってしまったと体を強張らせた。

次の瞬間、挨拶もしないで立ち尽くしていては不敬だと気がつく。

慌てて背筋を正し、ドレスに軽く手を添えた。

「これは失礼しました。アルト・アズリオン殿下にご挨拶申し上げます。…誰もいらっしゃらないと思っていたので驚いてしまいました」

そう言って頭を下げて素直に謝る。

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