最強ヒーロー集結編 土属性のエクソシスト
その男は、北海道札幌にある激辛トリプルセブンというラーメン店で、激辛大盛りラーメン30分完食チャレンジに挑戦していた。
ハバネロ100%汁のスープのそのラーメンを30分以内に完食すると、そのラーメンは、タダになるし、系列全店舗で使えるラーメン一杯無料券が3枚貰えるという激辛飲食店によくあるチャレンジ。ただし、激辛トリプルセブンでは、そのチャレンジに失敗すると、5000円支払わなければならないというペナルティがあった。
が、その男は、制限時間残り15分で、すでにそのラーメンの三分の二以上を食べ尽くしていた。
男は、暖房の効いた店内で分厚い紫色の珍妙なコートを決して脱がず、激辛ラーメンを食しているのに、汗一つかいていない。
男は、日本人男性にはない肌の白さをしており、ポマードか何かで固めたようなきれいなオールバックをしていたが、その顔は、常時病人のような不健康な細面をしていた。
なんとなく人間というより幽霊に近い存在のように思える印象を他者に抱かせる、そんな不吉な男だった。
御影尾道は、激辛トリプルセブンの店内にガラガラと戸を開け、入ると、その男の隣の席にどかっと座った。
「北海道の地で、よくそんな素材全殺しの食べ物なんて、食べようと思うな」
御影尾道が激辛チャレンジをしている男に目も合わせずに言い、ワンオペ店長が御影尾道を睨む。
「タダだからな」
と男は、激辛ラーメンをすすりながら、言う。
「あと何分?」と訊く御影尾道。
「14分ぐらいじゃないか」と食べながら答える紫コートの男。
「店長。こいつ、舌にミントの効いた歯磨き粉塗りたくって、麻痺させてから、チャレンジしてるぜ。こいつのいつもの手なんだ」
と御影尾道は、店主に告げ口する。
いかつい体つきのハゲ頭の主人は、紫コートの男を睨み、紫コートの男は、何か言われる前に目の前のカウンターに札束を置いた。ざっと30万円は、ある。
「店長、俺は、確かに反則をした。これは、その詫びだ」
言われると店長の方がおどおどとしてしまう。
「こんなにいりませんよ〜」
「いいから、俺の気持ちだ」
「そうですか〜」
と店長は、仏頂面を引っさげ、ご機嫌になり、るんるんと仕込みに入る。
御影尾道と紫コートの男以外に客は、いない。昼の3時過ぎ。あまり、繁盛している店とは言えない。
「で、何しに来たんだ?」
紫コートの男は、ラーメンをすすりながら、御影尾道に訊いた。こちらも目も合わせない。
「時送りの方法なら、教えんぞ」と念を押すように付け加える。
「そのことは、もういい。今さら、骨なしケンタのない時代に戻ろうとは、思わない」
と答える御影尾道。
「確かにな。今の時代の日本以上に美味しいものが手軽に手に入るところも無いしな」
とチャーシューを頬張る紫コートの男。
「俺と一緒に天条誠人を倒さないか」
「断る」
御影尾道は、意を決して、言ったが、紫コートの男は、何も響いていない冷淡な声で即答して、断った。
「俺は、ただの詐欺師だぞ。なんで、そんな正義のヒーローみたいなことをせにゃならん」
「お前の職業は、詐欺師じゃなく、本来は、エクソシストだろ。なら、これは、正当な仕事の依頼だ。天条以上にこの地球で悪魔と言える存在は、いない」
と御影尾道は、紫コートの男に言った。
「職業は、エクソシストだが、俺は、詐欺師だ。詐欺師とは、職業ではなく、生き方だからな。誰も騙さない仕事なら、俺の出番は、ない」
と言って、紫コートの男は、ごくごくと激辛ラーメンのスープを飲む。
「アメリカが三億、出すと言っている」と御影尾道は、伝える。
紫コートの男は、鼻で笑う。
「俺の命を賭けて、たった三億円か。安く見積もられたものだ」
「三億円じゃなく、三億ドルだ」
御影尾道にそう言われ、紫コートの男は、瞳孔が開く。ただ表情は、平静を保つ。
「なんで、お前は、この仕事に参加するんだ?金か?アメリカは、お前にも三億ドル、払うと?」
紫コートの男は、疑り深く、御影尾道に探りを入れる。
「師匠から頼まれたんだ」
「安倍晴明に?」
シンプルに驚く紫コートの詐欺師に、御影尾道は、嬉しそうに、一枚の和紙を取り出し、そこに書かれた文章を見せる。
それを見て、ぷっと思わず、詐欺師は、吹き出す。
「なんだよ?」
と詐欺師のバカにしたようなしぐさに腹を立て、訊ねる御影尾道。
「なんでもない。俺には、関係のないことだ」
と笑いをこらえる詐欺師。
「三億ドルか」
と言って、詐欺師は、ラーメンを食べ終え、立ち上がり、激辛トリプルセブンの出口へと向かう。
「おい、どこに行くんだよ」
と追いかける御影尾道。
「どこって、これから世界を救いに行くんだろうが」
と呆れたような口調でぐいぐい早歩きで進み、激辛トリプルセブンを出ていった詐欺師。それに続いて、御影尾道も店から出ていく。
二人が出ていって、5分後ぐらいに激辛トリプルセブンの店長は、思い出したようにカウンターに置かれた30万円ほどの札束をレジに入れようと手に取る。
すると、札束は、ぼろぼろと店長の手から崩れ落ちていった。
「なんじゃ、こりゃあぁあ!」
店長が驚いて改めて見ると、札束は、ただの土と化していた。いや、最初から、ただの土だったのだ。
店長は、慌てて店を出るも、詐欺師と陰陽師の姿は、当然、どこにも見えなかった。
「騙されたぁーっ!!」
店長の叫びは、北海道の広い空に虚しく響いて、吸収され、力なく消えた。
こうして、詐欺師セブンが天条誠人抹殺作戦の仲間に加わることとなった。
最強ヒーローチーム結成まで、あと1人。




