最強ヒーロー集結編 水源の陰陽師
――平安時代――日本・京の都にて、
木造建築の大屋敷、安倍晴明邸の庭先で土塊で作った人形数体を自由自在に操る者ありけり。
その者の名は、御影尾道と云う。
彼は、安倍晴明の一番弟子である。彼は、庭先で無邪気に土遊びに興じているわけではない。
新しい陰陽術を試しているのだ。
彼は、手を使わずに念じるだけで、土塊の人形を動かしているのだ。
複雑な踊り、舞を土塊人形数体に命じて、演じさせている。
と言っても、どれも手の中に収まる程度の大きさの土塊の人形に過ぎないのだが。
その時代、その新しい陰陽術を使える者は、御影尾道をおいて他にいなかった。彼の師匠の安倍晴明ですら、その術は、使えなかった。
御影尾道は、蝶の舞う庭先の中、土塊人形にさらに複雑な動きを要求し、土塊人形の大きさを徐々に徐々に大きくしていった。
土塊人形が人間の子供ぐらいの大きさになった時、彼、御影尾道の師匠である安倍晴明が左大臣屋敷から帰って来た。
「尾道。何をやっておるのじゃ?」
安倍晴明は、京都人らしい間延びした口遣いで訊いた。
「師匠!見てください!新しい術の実験に成功しました!私の魂の生命力を込めた水を試しに土に含ませて、それで人形を作ってみたのです。そうしたら、どうです!この通り!まるで、式神のように私の命令通りに動いておりますよ!」
嬉々としている御影尾道。しかし、安倍晴明は、ぴしゃりと
「尾道。その術は、禁術とし、今後、一切の使用を禁ずる」
と冷水をかけるように命じた。
「何故ですか?師匠!」
御影尾道は、納得がいかなかった。この術は、人類で自分一人だけが、到達したはずの奇跡の御業のはずなのだ。師匠がその価値が、わからぬはずもない。
「尾道。人の魂は、有限なのだ。限りある命を、生命力をその術で使い続ければ、いずれ主の寿命を削ることになる。今は、その土塊数体だけだから、私の見たところ、主の魂の総量に変化は、ないようだが、それは、使い続ければ、死に至る危険な業ぞ」
安倍晴明は、御影尾道を諭すような口調を使った。
「では、魂の総量が変わらなければ、この術は、使い続けても、いいのでしょうか?」
と御影尾道は、食い下がる。
「馬鹿なことを言うな。人の魂は、時と共に薄れゆくもの。魂は、減る一方で、その逆に増えることはない。有限である魂の総量を変化なく、無理に維持しようとするなど、鬼、邪鬼の考えぞ。それのわからぬ主ではあるまい、尾道」
「なるほど。鬼は、我々、人間と違い何百年と生きていますものね」
忠告を無視するように何か考えを巡らす御影尾道に
「道を踏み外す気か!御影尾道!」
と一喝を入れる安倍晴明。
「主の考えている事は、わかるぞ。尾道。減る一方の魂を増やし、維持するには、他から奪い、吸収するしかない。それすなわち、魂喰いになるということ。鬼が人を襲う理由の大半は、それよ。主もその道を行く気か!尾道!それすなわち、この安倍晴明の敵になるということぞ!」
「師匠。私が、そのようなことをするわけがないでしょう」
御影尾道は、師匠の珍しい激昂にたじろいだ。平伏して、頭を下げ、謝る。
「この通り、私は、安倍晴明様に仕える者で敵となる者では、決してありません」
「わかればいいのだ」
安倍晴明は、表情を険しいものから柔和に戻す。
「尾道、それに主の使うその術は、魂の無い者に魂を与える反魂に繋がる危険な業ぞ。反魂を行った者は、死後、地獄で5000年に渡り、焼かれると云う。私は、お前にそのような目にあってほしくなくて、こうして、きつく言うのだぞ」
「ありがたいお言葉に恐悦、いたみいります」
御影尾道は、再び、頭を深く下げた。
「しかし、主の陰陽師としての最近の成長は、めざましい。これなら、独り立ちしても、問題あるまい。今宵、鬼達がこの都を攻めるとの一報が、つい先程、入ったとこじゃ。北門は、我が守る故、南門は、主に任せてよいか?」
「そんな、そんな。そのような。私など安倍晴明様のまだ足元にも及びません。そんな大役、任される程では。いつも通り、晴明様の控えに回りたく、思います」
御影尾道は、正直、陰陽道には、精通しているものの、戦闘の方は、からしきで、関わり合いたくすらなかった。
「そうは言うな。私ももう歳じゃ。そろそろ、後継を考えねばならぬ」
「私めが、晴明様の後継にですか?」
御影尾道は、息を飲み、目を丸くした。
「そうじゃ。しかし、なんの実績もない者を後継に推挙するわけにもいくまい。だから、今回は、主に手柄を立たせてやろうと言うのだ」
「ありがたきお言葉。そういう事ならば、この御影尾道。慎んで、南門の守備につかせて、頂きたく思います」
「うむ」
安倍晴明は、満足そうにうなづいた。
こうして、御影尾道は、京の都の南門の守衛の任につかされたのだが、これが後の彼の運命を決めてしまうこととなる。
鬼の野党供は、予想通りにその日の真っ暗闇の夜に襲撃をかけてきた。
南門を守る御影尾道を含めた守衛達に対する鬼の数は、北門を守る安倍晴明達に対する鬼の数と比べ、雲泥の差で少なかった。
「右舷、弓隊、放て!」
と御影尾道の指示通りに攻撃が決まり、南門襲撃の鬼達は、すべて掃討し終えたかに思えた時、予想外の事が起こる。
御影尾道達の後ろから、都の中から大量の鬼達がなだれ込むように、襲ってきたのだ。
御影尾道達が少ない鬼達を余裕で相手している間に、別動隊の大勢の鬼達が遠くの都の塀をよじ登り、都の中に入って、御影尾道達の後ろに周って、奇襲をかけて来たのだ。
あえなく、油断していた京の南門の守衛達は、総崩れ、全員、鬼達に討ち取られてしまう。
御影尾道も例外ではなかった。陰陽術を使う間もなく、鬼の刀の一太刀をその身に喰らい、血飛沫を上げ、倒れてしまう。
こんなところで、俺は、終わってしまうのか……?
ぼやけて消え入りそうな御影尾道の視界に映った景色は、暗闇に広がる自分と仲間達の血溜まりだった。
血……液体……水……。
今にも飛びそうな思考を繋ぎ止め、御影尾道は、悪魔のひらめきにすがりついた。
自分と仲間達の地面に広がる血を御影尾道は、すすった。
一口、二口、飲み込む度に意識がはっきりとしていく。
やっぱりだ。血も液体。水と一緒。土塊の人形のように、取り込んだ水分に俺の魂を錬成、そそぎ込み続ければ、意識は、保てるし、身体も動かせる。
自分の魂を動力源に御影尾道は、体内に入った水分を介して自分の肉体を操り、一応、持って来ていた木の水筒の中の水をがぶ飲みする。
そして、開いた胸部の刀傷を晒したまま、立ち上がり、
「さて、これをどうするかな」
その血がどくどくと止まらぬ様子の部分をなぞり、周りの動かぬ遺体となっている仲間達を見下ろすように眺める。
「魂は、まだ、残っているな」
御影尾道は、そう見定めると眼光をするどくして、大きく息を吐き、吸い込んだ。
北門の守備を終え、南門方面からなだれ込んできた都に侵入した鬼達をすべて掃討し終えた安倍晴明は、必死の形相で走り、南門へと向かった。
鬼達が南門から侵入したとなれば、それすなわち、それは、彼の弟子の死亡を意味する。
安倍晴明が南門に辿り着いた時、そこには、御影尾道が血だらけの黒の陰陽服で一人で立っていた。
陰陽服の胸の部分は、切り裂かれ、大きく開いていたが、傷口は、すでに塞がっていた。
「晴明様」
「お前は、誰だ?」
他の者には、見えずとも、晴明の目には、しっかりと見えていた。
御影尾道の魂の形が違う。
「お前は、尾道ではないな」
と安倍晴明は、御影尾道に言った。
「何を言ってるんですか?晴明様。私は、あなたの弟子の御影尾道に相違ありませんよ。一度、死んで、魂の形は、変わってしまいましたがね」
「自分自身に反魂を行ったのか?あれほど、してはいけないと忠告したのに」
と晴明に言われ、御影尾道は、鼻で笑った。
「しなければ、死んでいたんだから、当然でしょ。晴明様も同じ状況なら同じことをしてますよ」
「傷口は、どうした?死ぬ程の深手を負ったのだろう?見たところ、塞がっているようだが……まさか」
安倍晴明は、弟子に戦慄する。
「お前、仲間の魂を喰ったのか?」
晴明の言葉に御影尾道は、無言で醜悪な笑みで答えた。
「オンマニテイソワカ」
晴明がそう力強くつぶやき、印を組むと、空中に青く光る陰陽陣が現れ、御影尾道を拘束した。
「何をなさるんですか?晴明様!」
御影尾道は、正気に戻ったような若々しい澄んだ声で晴明に向かって、叫んだ。
「尾道。お前の魂は、鬼と化した。もはや、こうするより他にない」
「晴明様!私を退治なさるというんですか!」
御影尾道は、涙声を使った。
「私にそのような残酷なことは、できない。弟子をこの手で殺すなど……」
晴明は、苦しそうに印を組み続ける。
「なら、どうなさるおつもりで?」
今度は、御影尾道が戦慄した。安倍晴明は、考えなしの見切り発車で動く男ではない。何か死より恐ろしいことが待っている予感がした。
「お前を時送りにする」
と安倍晴明は、御影尾道に告げる。
「お前を未来に送る。今の私には、お前を鬼から人間に戻す術は、ないが、未来には、1000年以上先には、私を超える術者が、きっといるはず。お前は、1000年以上先の未来で、人間に戻り、そこで平和に過ごすがよい」
「晴明様。未来とは、なんですか?私を1000年先の世に送るという意味ですか?1000年も先の世で私にどう生きろと?」
安倍晴明の言葉を咀嚼し、意味を理解した御影尾道は、術を解こうと身をよじらせ、抵抗するが、安倍晴明の術は、強力で拘束を解く事は、できない。
「ハツメイウン!」
安倍晴明がそう唱えると、御影尾道は、みるみるうちに陰陽陣へと飲み込まれた。
「おのれぇーぇえ!!晴明ぇーっ!!」
断末魔虚しく、こうして、御影尾道は、未来へと送られたのである。
そして、――現在、西暦20XX年――
「娘を生き返らして、頂き、ありがとうございます。御影尾道様。本当にこれだけでよろしいのですか?」
そう言って、手の指も首も耳もジュエリーだらけの見るからに金持ちの厚化粧の中年女性は、一個100万円の束が十個入っている紙袋を御影尾道に渡した。
「ええ、充分です。くれぐれもお嬢さんに毎日、6リットルの水を飲ませるのを忘れないようにして下さい」
と言って、中年女性と生き返った少女を御影尾道は、帰らせる。
安倍晴明の手によって、時送りの刑、強制タイムリープされ、現代で生きることになった御影尾道は、怪しげな薄暗い洋館に住み、反魂でボロ儲けしていた。
依頼人を帰らせ、午後のティータイムに入ろうとしている御影尾道と同じ室内には、いつの間にか、エージェントチャールズが佇んでいた。
御影尾道は、それに対して、たいして驚くことなく、
「本日は、閉店ですよ。っていうか、ここ完全予約制なんで帰ってくれますか。お客さん」
と言う。
「私は、お客さんでは、ありません。アメリカのエージェントのチャールズと云う者です」
といつも通りのチャールズ。
「ああ、あんたが、チャールズか。通称、どこにでもいる男」
「Mr.御影。私を知っているので?」
「噂だけな。最近、俺みたいな能力者を集めて、何か企んでいるらしいじゃないか」
「いったい、どこから、情報がもれたのでしょう?」
チャールズは、顎に手を当て、考えてみる。
「人の噂に戸は、立てられないさ」と御影尾道。
「まぁ、いいでしょう。計画をより早めることにします。Mr.御影。天条誠人抹殺作戦に加わっては、くれませんか?」
「断る」
「決断が早いですね」
「当たり前だろ。あんな2500万人を一瞬でいっぺんに殺したり、生き返らしたりできる化物、誰が戦いたいよ」
「あなたも人を生き返らせるのは、お得意のはずですが?」
「俺が生き返らせれるのは、重度の外傷や重度の病気で死んだ奴以外。胴体が真っ二つだったり、足や腕が切断されてて、出血多量で死んだ奴は、生き返らせれない。癌で死んだ奴も生き返らせれないし、内臓破裂も無理。俺が生き返らせれるのは、クリーンな遺体だけ。しかも、一人ずつ。2500万人を一度に生き返らせれる天条とは、雲泥の差だ」
「でも、あなたのような能力者は、いずれ、天条に目をつけられ、敵対することになるのでは?なら、チームを作れる今のうちに手を打つのが、得策ではないですか?」
「ふん、日本語は、上手いが、説得は、下手だな。チャールズさん」
御影尾道は、鼻で笑って、執務椅子に座り、しっしっと手を払い、チャールズをそれだけで追い返そうとした。
が、チャールズは、もちろん、それで引き下がらない。
一枚の和紙を取り出し、それを御影尾道に渡す。
「これは?」
「お読みいただければ、わかると思います」
御影尾道は、和紙に筆で書かれたらしい文字を読み始める。
それは、実に見慣れた懐かしい文字だった。
「尾道。突然に1000年以上も先の世に送られ、さぞ、戸惑っていることだろう。だが、私が君を未来に送ったのには、深い理由があったのだ。その未来には、私にも倒せるかどうかもわからない巨大な力を持つ者がいるだろう。日の本の、いや、世の全ての人々にとって、その者は、害悪となる事は、君もわかっていることだろう。本来なら、私がそちらの世に行って、その者を倒さねばならぬのだが、私は、平安の世で京の都を守らねばならぬ。私が京を守らねば、未来であるそちらの世も消えてしまうのだ。わかってくれ。勝手なこととわかって申すが、私は、日の本の、世の未来を君に託したい。私にかわって、そちらの世で巨大な敵を討ち取っては、くれぬか。私が信頼できる力ある者は、一番弟子である君をおいて、他にいないのだ。どうか、頼む。日の本の、世の全ての人々を救ってくれ。 安倍晴明」
と書かれた文面を読み、わなわな身震いする御影尾道。
「これは、確かに師匠の筆跡……。おお、そうだったのですか。そうだったのですか、晴明様。私をお見捨てになったのでは、なかったのですね」
その御影尾道のリアクションを見て、エージェントチャールズは、以外とすんなりと騙せるものだなと思った。
平安時代の日本の和紙などアメリカ政府が保管しているわけもない。
安倍晴明の筆跡は、AIに学習させて、AIマシーンで書いたもので、内容も生成AIが考えたものだ。
「チャールズさん、わかったよ。師匠の願いだ。俺もその天条をやっつける仲間に入ろう」
「であれば、Mr.御影。是非、我々の仲間に入るよう、あなたから説得してほしい人物がいるのですが。我々では、なかなか居所も掴めないのです」
「誰だ、そいつは?俺に能力者の知り合いなんて、そもそも、少ないが……まさか」
「そうです。詐欺師のセブンを見つけて、捕まえて来てほしいのです。私は、その間にもう一人の適任者の説得に向かいます」
こうして、陰陽師の御影尾道も天条誠人抹殺作戦に参加することとなり、新たな仲間に詐欺師を加える為、御影尾道は、一路、北海道へと向かったのである。
最強ヒーローチーム結成まで、あと2人。




