......なに、アレ
現代ファンタジーに当たる作品、天妖艶宴を連載していくこととなりました。
九尾の狐であるタマと人間の安達美泰が妖の王を目指すという物語となっております。
よろしくお願いいたします。
......OK、状況を整理しよう。彼は心の中で自分に言い聞かせる。
彼は今、夜の高層ビルの屋上にいる。
そこには先客がいた。
女性のような存在が、ビルの際に設置されているフェンスの前にうつ伏せで横たわっていた。
それだけでも思考停止ものだが、それ以上に目を引く要素が2つ。
1つ。全裸だったからだ。まさしく一糸まとわぬ生まれたままの姿。うつ伏せになった上半身の横から、豊かな胸部があふれ出ていた。また、身体全体に女性特有のしなやかさも感じ取れた。
2つ。なんならこれが最も重要。結論から言うと《尻尾》が生えていた。それも《9つ》。銀色で流麗、夜風に当てられ規則的に揺れていた。
「......なに、アレ。尻尾だよな.....?最近のコスプレっって進化してるんだな.....。でもなんで裸.....?」
様々な疑問が男性の脳内に湧き出る。
「んー........」
その最中、まさしく寝起きのような仕草と女性らしい可愛らしい声色を上げ、全裸の女性が上半身を起こす月明りを背後に起こした上半身と開けた眼。
まさしく流麗、かつ妖艶。男女問わず魅入ってしまう女性として極上の身体と、すべてを見通すかの如く、紺碧の瞳孔。
その存在の全てに魅入られた男性は、しばらくの間呼吸を忘れるような感覚だった。
その存在は、そんな男性を見て妖艶に広角を上げたが、
「おえーーーーーーーーーーー」
突如として嘔吐をした。男性はなりふり構わず駆ける。
「ちょっと!大丈夫ですか!?」
女性のような身体に触れるのは少し抵抗があったが、嘔吐を続ける姿を見て躊躇はできなかった。
◇
「いやー、迷惑かけたのー、青年。いい月夜じゃからというて、飲みすぎは禁物じゃわい」
「い、いえ......」
思った通り妖艶な声色で、思ったより古風なしゃべり方をするその存在。だが、彼は謝罪など耳に入っていなかった。やはり、目に付くのは9つの尻尾。
「ああ、気になるか」
「ええ、まぁ.....」
自分の尻尾をつかみ、ヒラヒラと振る。
「結論から言えば、妾は《妖怪》じゃ。ま、妖怪って呼ばれるのは味気ないから《タマ》とでも呼んでくれ」
(コスプレじゃないんだ......。てか、妖怪って....)
勝手にコスプレだと思っていたが、あまりに自然な尻尾を見て、確かに妖怪という答えの方がしっかり来ていた。ただ、受け入れるのには時間を要するようだ。
「さて、次はお主へ質問じゃ。名は何という?」
「安達、安達美泰です」
「なるほど、美泰というのか。して、美泰よ。お主はこんなところで何をしておるのじゃ?」
「え?」
想像だにしていなかった質問に、固まる美泰。
「これでも現代の社会は相応に見てきておってな。夜中に高層ビルの屋上に来る人間はそうはおらん。まぁ、夜風にあたりたかったり、煙草を吸いにくる者もいなくはない。しかし、お主はそのどれとも違う」
タマの推測に、沈黙をもって同意する。
「......自害か?」
タマの結論に、うつむきながら黙ってうなずく美泰。
「良ければ、なぜ自害という気持ちに至ったか教えてもらえんか?」
とても優しい声色に、美泰の涙腺が緩み、口元が悲しみの波を作った。
「......会社で同僚に騙されて、失敗した仕事の責任を押し付けられたんです。それに、ようやくできた彼女と思っていた人が、実はロマンス詐欺の人だったみたいで、全財産の8割近く持っていかれました.....」
「なるほどの....。そりゃ、絶望して当然じゃ」
「でも、いいんです。どうせ僕は死ぬから。もう、どうでもいいんです」
美泰はぎこちなく微笑む。
その表情を見て、タマは少し夜空を見て考え込む。
「美泰よ。その命を捨てる前に、ちょいと面白いことに首を突っ込んでみんか?」
「面白いこと?」
「そうじゃ!!」
タマは突如立ち上がり、月に向かって両手を広げる。
「その名も天妖艶宴!!我ら妖怪をはじめ、各種神、異形の怪異、それら妖の王を決める宴じゃ!!」
「......妖の、王?」
「うむ!妖の王、《天妖》となれば、ありとあらゆることが自分の思い通りになる!!」
まるで自分の夢を語る無邪気な子供のように、妖艶な身体をめいいっぱい広げ、紺碧の瞳孔に夜空を映す。
「美泰、お主は確かに自害しようと思うほどつらい経験をした。しかし、お主はそのような理不尽で自害するべき存在ではない。どうじゃ?自害する前に、妾と共に宴へと加わらんか」
差し出されたタマの手。
「なぜ僕を?」
「天妖艶宴のルールでな。参加するには妖と人間の二人一組で参加せねばならん」
ちゃんとした理由ではあるが、美泰が真に聞きたいのはそこではない。
「そのうえで、なぜ僕を.....?僕は何の取柄もないし、それこそ妖怪とか知っている専門家とかのほうがいいいんじゃ.....」
至極真っ当な美泰の疑問に、考え込むように人差し指を口元に当て、夜空を見つめる。
「なんでじゃろうな?」
「ええ......」
「まぁ、よいではないか。アレじゃ、一目ぼれってやつじゃ」
「はぁ.....」
「どうじゃ?参加する気になったか?」
改めたタマの誘いに、少し前向き気味に考えてみる美泰。いや、もう結論は出ていた。よくよく考えると、自分は今、死ぬために屋上に来た。つまり、天妖艶宴がどのようなものだろうと人間としてはもう関係ない。どうせ死ぬから。
どうせだったら、摩訶不思議でも危険でも、飛び込んだ後に考えよう。そう思うのは自然だったかもしれない。
その最中、美泰の腹部に急激な熱さが走る。まるで火傷をしたように。いや、正確には鋭利な物に刺された痛みだった。
視界が揺らぎ、かろうじて腹部から流れ出る鮮血が見えた。
全身の力が抜け、その身体は屋上のコンクリートに倒れこむ。
「美泰!!」
タマが急いで駆け寄る。
息はあるが、それもいつまで持つか。
「よぉ、九尾の!」
やや荒っぽさが目立つ男性の声が響く。しかし、歩いてきた者は人間ではなかった。
「狼野郎.....!!」
二足歩行だが、黒い豊かな体毛と大きな爪、鋭利な牙。まさしく狼の妖怪といったところ。
「探したぜ?」
獲物を捕らえるが如く眼光と、鋭利な爪がタマを射程に捉えた。
ご覧いただきありがとうございます。次回もよろしくお願いします




