《★~ 酎八兵衛さんの入れ知恵 ~》
どえらいことになってしまった。
義政公を頓智九番勝負で絶対に勝たせるためには、最低でも五つの難題を用意しておかなければならない。頓智の難題というのは、一つ考えつくだけでも大仕事なのに、纏めて五つともなると、極めて過酷なハードワークと言えよう。
神座ヱ門さんは、歩きながら考えると名案が浮かぶことがあるのを経験的に知っているので、丁髷頭を悩ませながら、ひたすら町中を彷徨い続ける。
「あらあ、神座ヱ門さん」
呼ばれて我に返ったら、茗荷屋という店の前にきていた。
看板娘のマーガリンさんが艶やかに笑っている。父親の酎八兵衛さんはジパング人だけれど、亡くなった母親がアデライード人なので、彼女の顔面には、純粋のジパング女性が持ち得ない、魅力的な特色が見て取れる。
「うふふ。神座ヱ門さん、そんなに難しい表情をなさり、とてもおかしい」
「拙者は困ってござるよ」
「なにを困っていらっしゃるの?」
「かくかくしかしか」
「ふんふん」
「まるまるうまうま」
「まあ、それは災難だわねえ。うふふふ」
「マーガリンさん、笑いごとではござらぬ。このまま夕刻までに、頓智の難題を五つ思いつかなければ、拙者は晩飯抜きでござるからして」
酎八兵衛さんが、ひょっこり姿を現す。
「おや蛸壺さん、いらっしゃい。晩飯がどうのこうのと、もしかして米でもお買い求め下さるのかな?」
「いや、そうではない。実は、かくかくしかしか」
「へえへえ」
「まるまるうまうま」
「わはははは!」
「酎八兵衛さん、笑いごとではござらぬ。上さまを納得させられる方便を五つ思いつけぬなら、拙者は凄く不幸でござるからして」
「それなら蛸壺さん、儂が入れ知恵を授けましょう」
「えっ、本当でござるか!?」
「へえへえ。その代わり、難題を一つ教えるごとに茗荷屋の米を二十俵ずつ、お買い求め下され」
「な、なんと、拙者が自腹で米を買わなければならぬのか??」
「ご名答」
「やれやれ。まあ上さまに叱られるより、少しばかりましでござる」
神座ヱ門さんは、酎八兵衛さんの無茶な要求を飲むことにした。
「では早速、入れ知恵とやらを授けて貰おうでござるか?」
「へえへえ、お耳をお貸し下され」
「よおし」
背の高い神座ヱ門さんが屈んで、横顔を酎八兵衛さんの口元に近づける。
「にょごにょご、にゅるにゅる」
「ふむふむ」
「かえるぴょこ、みきょこぽこ」
「ほうほう」
「せにょりーた、まるがりーた」
「ほほう。さすがに拙者も思いつかぬ斬新奇抜な方便でござるなあ」
こんな具合に、神座ヱ門さんは酎八兵衛さんから難題を五つ吹き込まれた。
「米百俵のお代、合わせて金貨二千五百枚になります」
「うっわー、凄い高値でござるぅ!!」
「茗荷屋の米は、なかなかに上等ですからね。へっへへ」
「リボ払いにして貰ってもよいでござるか?」
「へえへえ、利息は十日で一割です」
「うぅ、承知した。やれやれでござる……」
酎八兵衛さんに買わされる米を、室町殿の台所に転売しようと考えた。
それでも代金が工面できなかったなら、義政公の前に跪き、頭を下げて褒美をせがむしかない。またしても、困ってござる神座ヱ門さん。