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食の革命児  作者: 亜掛千夜
第二二章 

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第460話 都合のいい歴史

 老トドは長話になると言わんばかりに、その場に座り込む。

 周りは竜郎の魔法でぼーっとしたまま、その場で立っているという、傍から見れば不気味極まりない状況の中、彼はポツポツと思い出すように語りだした。



「その昔、この世界はもっと広かった」

「え? ここって、もっと広かったの?」



 禁忌や厄災ではなく、昔話をはじめたことも気になったが、それよりまず引っ掛かりを覚えるような言葉を口にされ、思わず愛衣がそう問いかけた。



「そうだ。かつてはどこまでも続く大地に山々、それにとてつもなく大きな湖……海?などと呼ばれていたものまであったらしい」

「……さすがにそれは無理なのでは?

 マスター、この亜空間を作り出しているモンスターに、そこまでのポテンシャルがあるのでしょうか?」

「いや、俺が改造していけばそれくらいできるようになるかもしれないが、少なくともここを作り出している魔物じゃあ、どれだけ増殖して協力しても、今の亜空間に毛が生えたくらいの空間を作り出すのが限界なはずだ。

 俺が調べた限りでは──だが。ミネルヴァはどう思う?」

「私も同意見です。確かにこれだけの亜空間を、あれほど小さな魔物が大群を成しただけで作り出すというのは驚きですが、それでも限界はあるでしょう。

 今この広さなのも、自然とこれが自分たちのスペックから、一番安定した広さと長い年月をかけて導き出した広さなのでしょうし、さすがにどこまでも続く大地……などはありえないかと。

 まして海なんて、到底不可能としか言いようがありませんね」

「じゃあ、この人の言うてることは嘘なんか? いや、嘘は今つけへんか」

「ああ、俺の魔法の支配下に置かせてもらってるからな。どう頑張っても嘘はつけない」



 竜郎たちの話を邪魔しないように、時が止まったように呆けて動かない、老トドの亜獣人に視線を向ける。

 それを見れば演技などではなく、確実に竜郎の呪魔法によって精神を掌握されていることは明白だ。



「えっと……嘘を吐けないってことは、そう思いこんでるってこと?」

「少なくとも、このおじいさんにとっては、それが真実ってことだろうな。

 それは誰かから聞いた情報ですか? 誰かが昔はそうだったと言っていたんですか?」

「この話は親父から聞いた話だ。親父もまたその親父から……そうやって忘れないように、皆に伝えられていくんだ。

 俺も自分の子供たちに、厳しく教え込んだ。

 だから俺の子供たちは、あそこの愚か者たちと違い、道を踏み外すこともなく成長できた」

「それを信じるに足る証拠は何かありますか?」

「俺の親父も、皆の親父もそう言ってた」

「あー……だから、そういう言い伝えみたいなものじゃなくて、それを信じさせるだけの痕跡というか資料とか、そういう物的証拠はないんですか?」

「皆が言っているんだから、それが証拠だ。合ってるに決まってる。おかしなこと言うな」

「……ほんとにそれ以外に、あなたが信じている根拠はないんですか?」

「ない」

「OH……」



 これまで見てきた亜獣人の中で、最も知性的に感じる老トドですらこの反応だ。

 竜郎は思わず外国人のような嘆息がこぼれてしまう。

 これ以上言ってもらちが明かないと、とりあえずそういうものだと呑み込むことにした。



「もう荒唐無稽な法螺話に聞こえても、いったん全部聞いてみたほうがええんちゃう?」

「いちいちツッコミを入れていたら、きりがなさそうだからな。そうしようか」

「歩んできた歴史がもう、我々の知っているものとはかけ離れているでしょうからね。

 私も彼らの視点から見た歴史を知りたいです」



 眼鏡の奥の瞳をキラリと光らせ、ミネルヴァは竜郎が渡していた地球産リア改造済みのタブレット端末を取り出し、会話の録音をはじめた。

 彼女の場合はレーラのように、知らないことを知りたいという強欲なまでの知識欲ではなく、情報の収集と記録、整理を趣味としている。

 この二つは似ているようで違うが、レーラのような人間との相性も良く、二人はそれなりに仲良くやっていたりする。



「じゃあ、分かりました。その広い世界とやらから、もう一度聞かせてください」

「ああ、話してやろう。ここで生きるのなら、お前たちも知らないといけないことだからな。

 その当時のこの世界はもっと広かった。そしてもっと様々な種族がいた。

 その種族の中には我々を亜獣人などと呼ぶ、邪悪で気色の悪い獣人モドキがいたらしい」

「獣人モドキ……。ちなみに、あなた方は自分たちのことを獣人と呼んでいる?」



 とりあえず全部聞いてみると言ってしまったが、どうしてもそこは知っておきたくなり、竜郎はそう老トドに問いかけた。

 すると老トドは大きく、それが当然だとばかりに竜郎たちに頷き返す。



「当然だ。我々の姿を見れば分かるだろう。気高き獣の姿を持つ我ら以外に、獣人を名乗るなんて、狂っているとしか思えん」

「それは……いや、分かった。続けてください」



 どちらが獣人かという問題は正直、竜郎からすればどっちだっていい。

 しかし心情としても、これまでの常識からしても、思わず反論したくはなったが、止めて話を続けてもらう。



「獣人モドキたちは、生物として優れた我々獣人に嫉妬して、事あるごとに嫌がらせをしてきた。

 我々ももちろん抵抗した。獣人と獣人モドキ同士の戦いであれば、余裕で勝っていたはずだ。

 しかし世界は何とも愚かで非常だった。

 口ばかり回る獣人モドキに他の種族たちも騙され、正当な種族である我々は亜獣人……獣人の亜種と馬鹿にされ、迫害を受けたのだ。

 ああ、なんと可哀想なのだ。我々の祖先を思うと、胸が痛くなるようだ。辛かっただろうて……」

「ああ、うん。そのへんの心情はいいから、話を続けてください」

「む? むぅ……。迫害を受けた我々獣人は、苦境に立たされた。

 あわや全滅もありえたそうだ。しかし我らは他のどの種族よりも優れた〝獣人〟だ。

 どれだけ馬鹿どもが徒党を組もうと、負けないほど強かった。最後には圧倒した。

 やはり我々は選ばれし種族だったということだな。

 そうして我々獣人は、他種族と結託した獣人モドキたちを倒し、この世界で唯一生きる王たる種族となったのだ」

「んん?」



 いや普通に負けてましたよね? と言いたくなる気持ちを堪えて、そのままヒートアップしていく老トドの話に耳を傾けていく。



「だが話はここで終わりではなかった。

 我々に返り討ちにされ、滅ぼされた雑魚種族共は怨霊となって魂を邪神に明け渡し、恐ろしい呪いを世界に放ったのだ」

「ついに邪神がでてきたな。それで、どうなったんですか?」

「世界が壊れたのだ」

「壊れた……というと?」

「お前は馬鹿か。この世界を見てみろ。やつらは邪神の力を借りて、世界を壊した。だからこれほど、小さな世界になってしまったのだ」

「ああ、そう整合性をつけにきたわけか。なるほど」

「あくまで、自分たちが勝利し、自分たちのいるこの亜空間こそが世界の全て──そう言い伝えられてきたわけですね」



 なんと都合のいい……とは思うが、実際に彼らからすれば他の種族はいないのだから、淘汰されたと思ってしまうのも頷ける。

 それに閉鎖した空間だからこそ、それを否定する存在もいなかった。

 故にそのような歴史が、亜獣人たちのなかで創造された。──そう竜郎たちは考察をつけた。



「それでも我々の祖先は必死に世界を守り、この小さな世界だけは守り切った。

 しかし奴らは滅ぼされてなお、我々に甘い毒を仕込んできたのだ」

「それがシステム……いや、あなたたちの言う邪神の声か」

「そうだ。その声で力を渡し、堕落の邪神の眷属に堕とし、我々を内側から滅ぼそうとしてきたのだ」

「へぇ、これで聞きたかった話に繋がったみたいやね」

「しかし滅ぼそうとしている……と言うが、その邪神の声に耳を傾けたと言うのは、システムからスキルを──力を取得したというだろう?

 それがどう滅びに繋がると言うのだ。いいことしかないと思うが」

「そこが恐ろしいところだ。一見、我々にとっていいことと見せかけておきながら、世界を破滅させる力を仕込んでくるのだ。

 そのせいで何度か、この世界は滅びかけていると聞いている」

「破滅させる力……か」



 なかなかに危険なワードを出してきたが、竜郎はここまできて何となく理解してきた。

 一度、老トドには話をストップしてもらい、自分たちの中で話をまとめていく。



「つまり中からこの亜空間を作り出している魔物を刺激するような、初期スキルだとか、スキルを誰かが取得したってことなんだろうな」

「あー、そゆこと! 理解理解」

「この偽物の世界こそが本物だと思い込んでいる側からすれば、この世界に異常が発生するような力は、とてつもなく壮大な力のように感じるのでしょうね」



 ミネルヴァも納得したように、タブレットにデータを書き込んでいった。

次も木曜日更新予定です!

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なんか隔離した方がいい種族に思えてきました…
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